ニュース
2016年化学10大ニュース
2016年も様々な出来事がありました。
4月に起きた熊本地震は2016年の最も大きな国内の災害と言えるでしょう。先日の茨城での地震など未だに地震が多く、一般的にも研究環境においても地震対策は書かせません。出来事としては2016年はオリンピックイヤーでした。スポーツは人を魅了します。次回の開催国は日本・東京です。都知事も変わり、いろいろ問題もありますが無事進んで欲しいところです。はやりものとしては、ポケモンGO!。みなスマホをもって徘徊する姿は、時代の象徴として歴史に残ることでしょう。
海外では、やはり次期アメリカ合衆国大統領がドナルド・トランプ氏に決まったこと。多くの人が驚愕し、今後の動向が気になっているところだと思います。いまのところ上向きに向いている気がしますが、どうなることやら。イギリスのEU離脱も歴史的な出来事でしたね。
科学分野では、重力波初観測、そして、10大ニュースでもとりあげる4つの新元素命名が大きなニュースとなっています。
ケムステでは恒例の化学に関係するニュースを独断と偏見で勝手に選んだ「化学10大ニュース」をおおくりします。
それでは、2016年の化学を振り返ってみましょう。
分子マシンー最小の機能性物質を目指して
2016年のノーベル化学賞は有機化学分野から。フランスのジャンピエール・ソバージュ(Jean-Pierre Sauvage)、英国のJ・フレーザー・ストッダート(J Fraser Stoddart)、オランダのバーナード・フェリンガ(Bernard Feringa)氏が「分子マシンの設計と合成への貢献」で受賞しました。素晴らしい成果でありながらも、応用例はなく基礎研究の真髄ともいえる研究への受賞。まわりの研究者だけでなく、当の本人たちも驚きを隠せなかったようです。ケムステの予想投票では700人近くが見事にはずし、その商品は2017年へとキャリーオーバーとなります。日本では大隅良典名誉教授の医学・生理学賞の受賞や、ボブ・ディランの文学賞受賞のも大盛り上がりでした。
ニホニウムーアジア最初の元素名
もう説明するまでもないですが、アジア最初の元素名である「ニホニウム」。最初の発見から10年以上の歳月をかけての命名となりました。同時に115番:モスコビウム(Moscovium, Mc) 117番:テネシン(Tennessine, Ts)118番:オガネソン(Oganesson, Og)の3つの名称も決まり、合計で4つも増えました。この一連の研究も行く先のみえない基礎研究ですが、誰もが達成することができなかった偉業です。4月からの高校の教科書にも早速掲載されるそうです。
身近な企業が買収
化学以外では、「経営再建中のシャープ、鴻海が買収」(2月)、化学では「バイエルのモンサント買収」(9月:約6.8000億円)が2016年の最も化学関連企業の買収劇だと思いますが、大きすぎてよくわからない(苦笑)。
実は、身近な化学企業の買収がもっとも話題性をさらいました。ケムステでも異例の買収ニュースが人気記事ランキング上位をさらっています。あとは、気になったところは「トムソン・ロイターのIP &Science事業売却」。身近な話で言えばResearcherIDの提供やインパクトファクターを公開している部門の売却。どうなるのでしょうか。
2017年4月にはついにダウ・デュポンの誕生や、三菱化学株式会社、三菱樹脂株式会社、および三菱レイヨン株式会社の統合などが控えています。
その他化学・製薬関連企業の買収・合併2016(月は合併発表・もしくは終了。買収額は推定)
- シャイアー(アイルランド):米バイオ医薬品大手のバクスアルタを買収(1月:約3兆7800億円)
- 中国化工(中国):シンジェンタ買収(2月: 4兆3000億円)
- エボニックインダストリーズ(ドイツ):米産業ガス大手エア・プロダクツから機能性素材事業を買収(5月: 3800億円)
- 大陽日酸:産業ガス世界最大手の仏エア・リキードから米国で22基に上るガスの製造設備や営業拠点を買収(6月:550億円)
- ウエストレイク・ケミカル(米国):アクシアル(米国)を買収(6月:2600億円)
- 住友化学:農薬大手エクセル・クロップ・ケア(インド)を買収(6月:200億円)
- 富士フィルム:「和光純薬を買収(7月:約1547億円)
- ファイザー(米国):バイオ医薬品のメディベーション(米国)を買収(8月:1兆4000億円)
- ランクセス(ドイツ):ケムチュラ(米国)を買収(9月:2700億円)
- アステラス製薬:がんの抗体医薬品を手掛ける独ガニメドを買収(10月:480億円)
- ノバルティス(スイス):血液病の治療薬に強い製薬会社セレクシス・ファーマシューティカルズ(米国)を買収(11月:740億円)
- BASF(ドイツ):のシェメタル社買収(12月:3600億円)
- 旭硝子:CMCバイオロジックスと塩ビメーカー・ビニタイ社(タイ)の買収(12月:約1000億円)
- ロンザグループ(スイス):米カプセルメーカーのカプスゲル買収(12月:約6450億円)
- 関西ペイント:ヘリオス・グループの買収(12月:約700億円)
- アラガン(米国):整形外科医療用品事業ライフセルを買収(12月:3400億円)
- 大日本住友製薬:トレロ・ファーマシューティカルズ買収(12月: 236-980億円)
本当に危ない化学物質
世の中ほとんどすべて我々の含めて化学物質(化合物)でできているわけですが、化合物同士の相互作用ですから、もちろん人間に相互作用し、害となるものもあります。2016年問題になったオルトトルイジンは実験室でも取扱しないような危険な化合物です。どう危ないか解説しているのでぜひ関連記事をご覧いただければと思います。
世界を驚かせた最新化学研究
2016年も様々な素晴らしい化学に関する研究が報告されました。ノーベル化学賞に関連した分子機会分野でも、化学燃料でうごく分子エンジン[1]・金属の酸化還元を駆動力とした分子モーター[2]・ 共有結合の形成を制御し記録するDNAから作られた合成分子機械[3]・柔らかい自律型ロボットの合成[4]などが報告されています。
これらの詳細や他の注目化学研究に関してはChemistry world のCutting edge chemistry in 2016や関連記事を御覧ください。
関連文献
- Wilson, M. R.; Solà, J.; Carlone, A.; Goldup, S. M.; Lebrasseur, N.; Leigh, D. A. Nature 2016, 534, 235–240. DOI: 10.1038/nature18013
- Collins, B. S. L.; Kistemaker, J. C. M.; Otten, E.; Feringa, B. L. Nature Chem. 2016, 8, 860–866. DOI: 10.1038/nchem.2543
- Meng, W.; Muscat, R. A.; McKee, M. L.; Milnes, P. J.; El-Sagheer, A. H.; Bath, J.; Davis, B. G.; Brown, T.; O’Reilly, R. K.; Turberfield, A. J. Nature Chem. 2016, 8 (6), 542–548.DOI: 10.1038/nchem.2495
- Wehner, M.; Truby, R. L.; Fitzgerald, D. J.; Mosadegh, B.; Whitesides, G. M.; Lewis, J. A.; Wood, R. J. Nature 2016, 536, 451–455. DOI:
化学者の賃金も向上?
アベノミクスはあまり実感できないかもしれませんが、米国では博士研究員(ポスドク)賃金の高騰が実は問題になっています。正確に言うと最低賃金の値上げで、博士を取得している研究者の最低賃金が大幅に引き上げ上げられたことが問題です。
米国の研究者は日本に住んでいれば関係ないやとお思いかもしれませんが、もし博士を取得して海外へ博士研究員いく場合、助成される額が最低賃金を上回っているかどうかを確認する必要があります。そして現行の助成金では日本学術振興会の海外特別研究員(海外PD)しか最低賃金を上回っていません。
なぞの水ー水素水
2016年も多くの疑似科学製品が誕生しました。代表的なものは水素水。だめだとか詐欺だとかそういう話は置いておいて、正しい化学や化学製品よりも圧倒的に一般に知られていることが皮肉なところです。もちろん嘘をつかえば魅力的にかけると思いますし、肯定はしたくないのですが、表現やアピールがうまいなと思うところもあります。正しい化学を魅力的に伝えるために、化学(科学)コミュニケーターの必要性を感じさせます。そういう意味で化学のインフォグラフィックスを駆使して、かっこよくかつわかりやすく伝えた書籍「カリカリベーコンはどうして美味しいにおいなの?」などはとっても良いと思います。
スマホが爆発ーリチウムイオン電池の光と影
生活形態を変えたと替えたといっても過言ではないスマートフォン。その立役者はやはりリチウムイオン電池でしょう。しかしながら、2016年もスマートフォンのリチウムイオン電池の爆発事故が多く発生しました。安全性と高性能を兼ね備えた新しい「電池」の開発は急務に思われます。
訃報2016ー化学
2016年も様々な著名な化学者たちがこの世を去りました。ノーベル化学賞受賞者も3名含まれています(ズウェイル・チエン・クロトー)。先日も東京大学名誉教授の橘和夫先生が亡くなったというお話を聞きました。
偉大な化学者の皆様のご冥福をお祈りします。
2016年にご逝去された化学者(順不同)
杉山幸三(名大)・今堀和友(東大)・アハメッド・ズウェイル(米国)・ロジャー・Y・チエン(米国)・大木道則(東大)・橘和夫(東大)・ハロルド・クロトー(イギリス)・Jerzy Kroh(ポーランド)・Min Enze(中国)・Geoffrey Eglinton(イギリス)・Hu Hongwen(中国)・David Hall(ニュージーランド)・Klaus Biemann(オーストラリア)・Egon Matijevic(米国)・Brian Robinson(ニュージーランド)・Adam Bielański(ポーランド)・José Barluenga(スペイン)・Foil A. Miller(米国)・Cai Qirui(中国)・Reinhart Ahlrichs(ドイツ)・Robert Haszeldine(イギリス)・Colin Snedeker(米国)・John D. Roberts(米国)・Sir Aubrey Trotman-Dickenson(イギリス)・Józef Mayer(ポーランド)・Günther Wilke(ドイツ)
ケムステの2016年
10大ニュース最後は、ケムステの2016年ということで終わりましょう。
2016年は新元素命名に合わせて「元素と基本の仕組み」という新しいコンテンツを開始しました。いまだ、カリウム、つまり19個しか紹介できていませんが、2017年も引き続き元素関連の話題を紹介していきたいと思います。また、拙ブログ「化学者のつぶやき」では新しいカテゴリーとして「海外留学記」を開始しました。海外で活躍している研究者や海外留学経験者に異国での研究や生活状況をインタビューするものです。現在第9回まで行っており、大変人気なコーナーとなっております。
さらに、10月にはホームページリニューアルを行いました。2年ほど前に行いましたが、もう少しシンプルかつ高速化を狙いフルリニューアル。しばらくはこのスタイルで行っていきます。公開記事は2016年人気ランキングでも述べましたが、本日までに408記事。昨年の1.5倍以上となっています。2017年は600記事ほどの公開を目標としています。
2017年も新しいコンテンツを開始します。後ほどプレスリリースを行いますが、企業と化学製品を紹介する「ケムステしごと」(仮称)というコンテンツの公開を2017年度春までに予定しています。2017年3月の日本化学会年会では4年目を迎えた若手研究者のための集まり「ケムステイブニングミキサー」(2017年3月17日)に開催予定です。今回は、びっくりするような企画をご用意して若手研究者の皆様のご来場をお待ちしています。
2016年より富士フイルムファインケミカルズのメールマガジンへ記事協力いただくことになりました。今後も皆さまに役立つ情報発信に努めます。2017年も富士フイルムファインケミカルズおよびケムステをよろしくお願いいたします。