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スポットライトリサーチ

水素社会実現に向けた連続フロー合成法を新開発

[写真]

今回のスポットライトリサーチは、東京大学理学系研究科化学専攻有機合成化学教室の宮村浩之先生にお願いしました。

宮村先生はポリマーに担持した金属触媒を用いて、環境調和型の酸素酸化反応や、キラル金属ナノクラスターを用いた不斉炭素ー炭素結合形成反応などを開発されています。

最近の研究成果がプレスリリース として発表されたため、インタビューさせていただきました。

Polysilane-Immobilized Rh–Pt Bimetallic Nanoparticles as Powerful Arene Hydrogenation Catalysts: Synthesis, Reactions under Batch and Flow Conditions and Reaction Mechanism

H. Miyamura, A. Suzuki, T. Yasukawa, S. Kobayashi

J. Am. Chem. Soc. 140, 11325-11334 (2018). DOI: 10.1021/jacs.8b06015

Q1. 今回プレスリリースとなったのはどんな研究ですか?

ポリシランに担持したRh-Pt二元金属ナノ粒子触媒が芳香環の水素化反応に高い活性を示すことを明らかとしました。芳香環の水素化反応は近年、水素貯蔵や輸送技術として注目を集めていると共に、医薬品原体(API)等の化成品合成においても重要な反応です。

今回開発したRh-Pt二元金属ナノ粒子触媒は従来のバッチ反応に比べ、触媒をカラムに充填し、そこに基質と水素を流通させて反応を行う連続フロー系でより高い活性と耐久性を示すことが明らかとなりました。例えば、連続フロー系では50日以上にわたり活性が低下せず、定量的に目的物を与えました。また、様々な種類の基質において、バッチ系より連続フロー系のほうが高い触媒回転速度(TOF)を示し、最大27倍の反応加速効果が得られました。

また、同一分子内に複数の芳香環が存在する基質において、芳香環部位の吸着特性を利用することにより、片方の芳香環のみを選択的に水素化する手法も開発しました。本手法を実際の医薬品原体であるDonepezil合成に応用しました。本合成における原料は4つの還元されうる部位を有していましたが、今回開発した触媒を用いて水素化反応を行ったところ、望みの箇所のみが選択的に水素化され、ワンポットで二級アミン部位をベンジル化することで87%の単離収率でDonepezilが得られました。

[図]

Q2. 本研究テーマについて、自分なりに工夫したところ、思い入れがあるところを教えてください。

単に、活性が高く、基質一般性が広い触媒が開発できたというだけでは、インパクトが足りないので、これまでの他の触媒にはない特徴を出そうと検討を重ねました。

まずは、芳香環の水素化反応においてバッチ系とフロー系で定量的に触媒活性を比較した論文というものがあまりなかったため、その点をしっかり解析することにしました。その結果、単純なアルキルベンゼンよりもアニリンや、ヘテロ芳香環といった極性官能基を有する基質のほうが、フロー系での反応加速効果が大きいことがわかりました。そこで、その原因を探るべく、二種類の基質を混合してそれぞれの反応速度を比較する競合実験を行ったところ、殆どの場合、どちらか一方の基質しか反応せず、もう片方の基質はほとんど原料回収となるという結果が得られました。この特性を利用して、同一分子内に複数の芳香環が存在する場合も片方の芳香環のみを選択的に水素化できないかと考え、実際にモデル基質を作って試してみたところ、望みの結果を得ることができました。そこから、Donepezilのワンポット合成にもつながり、全体として話のつながりのよい研究としてまとめることができたと思っています。

Q3. 研究テーマの難しかったところはどこですか?またそれをどのように乗り越えましたか?

最初は幅広い基質一般性とフロー合成での活性向上、頑強性というそのポイントだけで、速報誌として論文をまとめていました。しかし、論文の審査過程でそれではインパクトがたりないということで、Q2のような詳細な速度論的な検討をはじめ選択的な水素化のような検討も行いました。結果的に、追加で行った実験のほうが時間も労力もかかったのではないかと思います。特に、この後半の検討は当時博士課程の学生さんだった鈴木綾さんが、片道二時間の満員電車での通学という試練も乗り越えながら、頑張ってデータを集めてくれました。本当に鈴木さんの頑張りには脱帽です。鈴木さんの卒業までに論文が通ればよかったのですが、それがかなわなかったのが心残りです。

膨大な労力と時間をかけながら、本当にこの方向性で論文の審査員を納得させることができるかという疑念が常につきまとっていましたが、ここまできたら、結果はどうあれ、とにかくやるしかないという心境でした。

Q4. 将来は化学とどう関わっていきたいですか?

あまりメジャーな分野でなくて、マニアックな方向性でも良いのでなにかユニークなことをやりたいと思っています。特に、これまで行ってきた、反応開発や触媒開発だけでなく、反応や触媒が鍵となるけれど、合成だけが目的でないような材料の開発なども行っていきたいと思っています。

Q5. 最後に、読者の皆さんにメッセージをお願いします。

今回の発表内容は、最初の論文投稿から二年半もかかりました。この間は、追加実験をし、書き直し、また追加実験をし、書き直しの繰り返しで、底なし沼にはまりかけたかなとも思うこともしばしばありましたが、粘ればなんとかなるものです。投稿論文や学位論文で苦しんでいる学生さんも多くいらっしゃると思いますが、粘ればなんとかなるものです。自分と仲間を信じて、根気よく続けてください。

略歴

[写真]

宮村 浩之

所属:東京大学理学系研究科化学専攻有機合成化学(小林)研究室 & UC Berkeley, Department of Chemistry, Toste & Raymond Lab
研究テーマ:有機合成化学;不均一系触媒;金属ナノ粒子;フロー合成

※トップの画像はプレスリリースから出典

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本記事はWEBに混在する化学情報をまとめ、それを整理、提供する化学ポータルサイト「Chem-Station」の協力のもと、ご提供しております。

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