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化学者のつぶやき

フローリアクターでペプチド連結法を革新する

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2014年、東京工業大学・布施新一郎らはペプチド結合形成を行なうマイクロフローリアクター法を開発した。ペプチドC末端をトリホスゲンで活性化し、N末無保護ペプチド単位と反応させることで室温・高速・短時間・低廃棄物のペプチド合成が実現されている。従来型戦略とは真逆の発想、すなわちカルボン酸基質側を強力に活性化し、エピ化や他の副反応が起こる前に縮合反応を即時完結させるという反応設計に基づいている。

“Efficient Amide Bond Formation through a Rapid and Strong Activation of Carboxylic Acids in a Microflow Reactor”

Fuse, S.*; Mifune, Y.; Takahashi, T. Angew. Chem. Int. Ed. 2014, 53, 851. DOI: 10.1002/anie.201307987

問題設定と解決した点

ペプチド結合形成反応においては数多の副反応が問題視されており、とりわけα-アミノ酸縮合におけるエピ化の抑制は抜本的解決困難な課題とされている。従来の研究戦略は、カルボン酸基質をなるべく穏和な条件で活性化して副反応を抑制しようとする「縮合剤の改良」が主流であった。反応性を穏和にできる反面、立体障害の大きな基質間の縮合(例えばN-メチルアミノ酸など)に困難を伴うことが多い。また縮合剤・エピ化抑制剤由来の廃棄物も増えてしまう傾向にある。一方で、酸クロリド・酸無水物などへ導く強力な活性化法を採用すると、副反応が抑制できないというジレンマがある。

本論文では、この点をマイクロフローリアクターの導入によって解決している。混和速度と熱交換効率に優れるため、高活性化学種を効率的に生じさせて高速反応を実現[1]したり、安全・安定な化合物供給を必要とするプロセス化学にも利がある。この知見をペプチド合成に応用し、カルボン酸基質の強力な活性化をエピ化を抑えつつ可能にしている。

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冒頭論文より引用

技術や手法の肝

マイクロフローリアクターはチップとして製造すると相応のコストがかかるが、本研究では簡便な装置を組んで行っている。すなわち、シリンジポンプによってテフロンチューブを通じ送液し、T型ミキサーで混ぜ合わせるシステムである。反応時間は、送液速度と流路長を変えることで調節できる。温度制御(室温)は水浴に部品を浸せばOK(下図左)。反応のクエンチはNH4Cl水/CHCl3を張ったフラスコに受ける形で行なっている。反応活性種(後述)はReactIRに直接送液することでモニターしている(下図右)。

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冒頭論文SIより引用

主張の有効性検証

① 反応条件の最適化

エピ化しやすいBocNH-(BnO)Ser-OHとH2N-Ph-OAllylをモデル基質とし、条件検討を行なっている。

普通のバッチ反応と異なり、かなり多様なパラメタを調節できることが特徴。例えば溶液3種(下図A,B,C)はすべて異なる溶媒・濃度を使用でき、流速を変えれば各T字リアクタにおける混和量も精密制御できる。

最適化の詳細は割愛するが、溶媒A = DMF (flow rate = 2000 μL/min), 溶媒B = MeCN (flow rate = 1200 μL/min)、溶媒C = MeCN(flow rate = 2000μL/min)、塩基=iPr2NEt (3 eq)、カルボン酸=2.5 eq、室温を最適条件とした。塩基量を多くしすぎるとエピ化が増えてくる。CO2ガスの生成も特に問題にならない。結果として活性化0.5s、アミド形成4.3sという極短時間で反応を完結させられる。驚くべきことに溶媒A,Cには水も使用可能。

② 基質一般性の評価

Tableに示した基質ではすべて収率・エピ化率ともにフロー反応条件が良好となる。

Tr保護基質はバッチ反応の場合、系中生成するHClで脱保護されてしまうため収率が下がる。元来エピ化しやすいHis、α-フェニルグリシン、立体高の大きいPro・サルコシン、乳酸での比較は顕著な結果となる。未反応のカルボン酸はエピ化無しにおおむね回収可能。

N-メチルアミノ酸を含むデプシペプチドaulirideの一部のグラムスケール合成も可能。ジペプチド同士のカップリング目的にも、収率は低下する(40%)が活用可能。

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表は論文より引用・改変

③ 反応活性種の推定

ReactIRでのモニタリングから、系中で生成するのは酸クロリドではなく対称形の酸無水物であることが示唆されている。

議論すべき点

  • 特にアクセプター側にはカルバメート(Boc、Fmoc)保護がほぼ必須。おそらくエピ化の抑制にも限度があるためではないか。
  • 最大4残基の適用例が示されるのみで、ペプチド鎖が長くなるとどこに問題が生じてくるのかは考察余地がある(論文には明記されていない)。
  • マイクロフローリアクターは目詰まり(clogging)が問題。生成物の溶解性が低い場合や、固形塩を生じさせる条件への適用は要一考。ペプチド鎖が長くなると、その点で懸念が生じるか?
  • パラメタスクリーニングが多彩な点はマイクロフローリアクターの利点。特に混和から反応までの時間制御を精密に行えることは、このような不安定系の取扱いにとって価値が高い。スケールアップも長時間運転にするだけで良く、簡単。
  • 活性の強すぎる試薬であっても、エンジニアリング的工夫によって価値へと結びつけられている好例。複雑化合物合成を念頭に置くと、条件を穏和にする方向に開発圧力がかかる傾向にあるが、極端な条件が必ずしも駄目という訳ではなく、要は使い方次第とする目線は持っておくべきかと思う。

次に読むべき論文は?

  • フローリアクターを用いる高反応性活性種の活用と高速反応の実現例(Flash Chemistry)[2]
  • フローリアクターとペプチド合成の親和性を示唆する研究例[3]
  • フローリアクターを多段階合成へと展開した例(Multi-Step Continuous Flow Synthesis)[4]
  • 本フローリアクター法を用いて達成された、エピ化しやすいアリールグリシン含有天然物・フェグリマイシンの全合成[5]

関連文献

  1. Sigma-Aldrich: マイクロリアクター資料[PDF]
  2. Yoshida, J.-i. Chem. Rec. 2010, 10, 332. DOI: 10.1002/tcr.201000020
  3. (a) Pentelute, B. L. et al. ChemBioChem 2014, 15, 713. DOI: 10.1002/cbic.201300796 (b) Pentelute, B. L. et al. Nat. Chem. Biol. 2017, 13, 464. doi:10.1038/nchembio.2318
  4. Britton, J.; Raston, C. L. Chem. Soc. Rev. 2017, 46, 1250. DOI: 10.1039/C6CS00830E
  5. Fuse, S.; Mifune, Y.; Nakamura, H.; Tanaka, H. Nat. Commun. 2016, 7, 13491. doi: 10.1038/ncomms13491

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