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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.11 優秀な部下を育てるために
すぐに役立つコーチングのテクニックとは?

優秀な部下を育ててこそ優秀な管理職

管理職の中には「部下に頼むより早い」とすぐに自分で仕事を片付けようとする人がいます。確かに他人より多くの仕事をこなす人は早く出世できる可能性はありますが、「名選手、名監督にあらず」という言葉があるように、それでは管理職としては失格。管理職の職務の中には、部下の育成があるからです。

1人の人間がどんなに頑張ったところで、せいぜい2〜3人分の仕事をするのが精いっぱいのはず。それ以上に部下の数が増えたら、部下にもしっかり仕事をしてもらわない限り、部署としての数字は伸びません。

また、優秀な上司ほど、部下に自分と同等の結果を求めてしまい、そのプレッシャーで部下をつぶしてしまうことがあります。人はそれぞれ能力が違うだけでなく、向き不向きがあったり、接し方だけでモチベーションが変わったりします。部下が仕事に苦戦したり、失敗したりしたときでも「この人は仕事ができないからダメ」と切り捨てたりするのではなく、部下一人ひとりの個性をしっかりと把握して、その人なりの最高のパフォーマンスを引き出すことが、管理職には求められるのです。

仮にプレイングマネージャーだとしても、自分の仕事は抑え気味にして部下の育成に力を入れ、成長させることができれば、部署の成績は上がります。部下の中から新たな管理職が育てば会社への貢献度は大きく、ひいては自分の評価を高めることにつながります。そこで今回は、優秀な部下を育てるコーチングスキルの中の、承認のテクニックを紹介します。

部下を対等な人間として扱い「レッテル効果」を高める

やる気がない部下に仕事を振って、どんなに叱咤激励したところで、良い結果は得られません。優秀な部下を育てるためにまず取り組むべきことは、部下のモチベーションを高めることです。

そのために有効なのが「レッテル効果」。大河ドラマなどを見ていると、大名の嫡男として生まれ、将来の跡継ぎとして育てられている子どもは、若い頃からそれらしい考え方や振る舞いをするようになるものです。これは決してドラマの中だからというわけではありません。「環境が人をつくる」とよく言われるように、人の考えや行動は、自分がどう扱われるかによって大きく左右されるのです。

これを応用すれば、部下のモチベーションを高めることは難しくありません。「君はいつも仕事が速くて助かるなぁ」、「君は仕事が正確だから安心して頼めるよ」というように、部下を“仕事ができる人”として扱うのです。このとき、ただ「仕事ができる」と言うのではなく、「速い」「正確」というように具体的な点を挙げるのがポイントです。それにより部下が自分自身に抱いている印象、「セルフイメージ」が高まり、上司の期待に応えようとさらに努力するでしょう。これがレッテル効果です。

本人がもともと自信を持っていたり、得意だと思っていたりする点を評価するのはもちろん、本人が気付いていない能力を評価すると、より高い効果を得られます。逆に誰からどう見てもその部下が苦手にしていることを高く評価したり、褒めるために的外れなことを言ったりすると“部下にこびる情けない上司”と思われてしまうことがあるので注意してください。もちろん本人が苦手だと思っていることでも、良い結果を出したときはしっかりと評価して、自信を持たせるきっかけにすることはできます。

レッテル効果をより有効に使うためには、前述のように部下が何に自信があって、何に苦手意識を持っているのかを、事前に把握しておかなければいけません。そこで、普段から部下をよく観察しておくと同時に、対等な人間として見ようとする心構えも大切です。上司と部下に立場的な上下はあっても、それはあくまで会社内のもの。人としての上下ではありません。器が大きい人ほど、他人の存在や人格を尊重できるものです。

少し弱みを見せて、部下に存在価値を感じさせる

レッテル効果は部下の自分自身に対するイメージを変化させるものですが、逆に部下の持っている上司のイメージを利用するテクニックもあります。

部下を伸ばす上司は、ちょっと頼りないところや弱みを見せるのが、とても上手です。例えば、上司であるあなたが、プレゼンテーション能力が高く実績は抜群であるにもかかわらず文章を書くのは苦手だったとします。

そこで、いつも文章をうまくまとめてくる部下に「君は文章がうまいね。僕は文章を書くのが苦手だから、この資料を作っておいてくれない?」と言って、仕事を振るのです。すると部下は「すごい上司にも苦手なことはあるんだ。ここは私が助けてあげなくては」と自分の存在価値を感じ、高いモチベーションで仕事をするようになります。

部下に自分の弱みを見せて存在価値を感じさせる

部下に任せる仕事が本当に心底苦手、というわけでなくても構いません。大切なのは、部下に「自分が上司を支えている」と思ってもらうこと。「部下に弱みを見せたらばかにされるのでは」と心配する人がいるかもしれません。しかし、やるべきことをしっかりやっていれば、少し弱みを見せた程度で上司をばかにするよりも、素直に弱みを見せてくれるその姿勢に人としての器の大きさを感じる部下が多いのではないでしょうか。

部下がイキイキと働いているのは
あなたが優秀な管理職である証

今回の記事に限らず、この連載では普段から部下をよく観察することが大切だとお伝えしてきました。優秀な部下を育てるという点でも、部下をよく観察するということはとても重要です。誰でも必ず優れているところ=磨けば光る原石を持っています。ところが本人でさえ、自分の美点に気付いていないことがとても多いのです。その原石を上司が見つけだして磨き上げれば、部下が喜んで自発的に努力を重ね驚くほど成長する可能性があるのです。

すべての部下が優秀な人材になるとは限らないのも事実。最終的に育つかどうかは、やはり本人の努力にかかっています。しかし、部下が自分らしくイキイキと働けるようにサポートしてあげることは、管理職にとって重要な業務のひとつであることは間違いありません。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動を開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2020年12月