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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.2 すぐに指示はNG!
部下にアドバイスする時のポイント。

人は自分で考えたことを全うしようとする

会社でのポジションが上がるにつれ、何をするにしても毎回指示を求める依存体質の部下や、やる気はあるものの要領が悪く的外れな行動をする部下と接する機会も増えてくることでしょう。Vol.1でもお伝えしたように、コーチングとは話を聞くことによって相手に気付きを与え、自発性を高める技術です。しかし、そうした人を相手にすると、話を聞いているのが歯がゆくなり、つい指示やアドバイスを与えたくなるもの。その方が手っ取り早く効率的だと考えがちですが、安易にアドバイスしてしまうことは、長い目で見ると得策ではありません。

コーチングにおいて重要なポイントの一つは、相手に当事者意識を持たせること。人は、他人に言われたことより、自分で考えて導き出したことの方を、責任を持って全うしようとします。効率性だけを考え、すぐにアドバイスをしていると、「言われたからやる」「間違っていても上司が正してくれる」という考えが部下に染みつき、いつまでたっても主体性が身に付きません。そこで今回は、コーチングの手法を活かしたアドバイスの仕方について紹介します。

考える習慣と自信を付けさせることが好循環を生み出す

前述のような依存体質の部下から指示を仰がれたら、まず自分なりの意見や考えを用意させることが重要です。仮に部下が何も思いつかなかったとしても、その場で「君はどう思う?」と質問し、何らかの意見を出させましょう。そして、もしその意見が見当違いだったとしても、頭から否定してはいけません。「なるほど。そういった考えもあるかもしれないね」と一度きちんと受け入れてください。できれば部下の意見の中で、一部でも良いところを探し出して、認めるように心掛けましょう。そうすることで、部下は自分の意見が言いやすくなります。

そして、部下の意見を受けて「そうするとどうなると思う?」といった質問を重ねていき、部下に“考えるプロセス”を示しながら、課題の解決を図ります。これを積み重ねていくことで、部下は1人でも考える習慣を身に付け、常に自分なりの意見を用意できるようになるのです。自分で考えたことを実行して、それが成果として現れれば、部下の自信向上につながります。そうなると、コーチングの効果はより大きくなり、好循環を生み出すことができるのです。

アドバイスする場合は理由や結果をしっかり考えさせる

また、要領が悪い部下に対しても同様に、一度は部下の考えや意見を受け入れるようにしてください。しかし、特に新人などはキャリアが浅いため、その後でどんなに質問を繰り返しても本人の口から良いアイデアが出にくく、なかなか話が進まないこともあります。的を射た意見や考えにたどり着くためには、前提となる知識や経験が必要です。この場合は、何らかの方向性を示し、話を進めてもかまいません。本来、コーチングでは相手にアドバイスを与えることはありません。しかし、限られた時間内で結果を求められるビジネスの現場では臨機応変に対応することも重要です。

しかし、その場合も「私はこうしたら良いと思うが」などとやり方を示し、そのあと「君はどう思う?」というふうに、必ず質問してください。そして、なぜそうすることが良いのかという理由や、その結果どのように事態が推移するかといったことを部下にしっかりと考えさせ、それを部下の口から言わせることが大切です。そうすることで、元は上司の意見だったとしても、部下に当事者意識を持たせることができるのです。あくまで「上司に言われたからやる」というのではなく、部下が十分に納得して動くように導いてください。その方が、単に指示やアドバイスを与えるよりも、はるかに部下のモチベーションを高め、仕事の効率も上がることになるはずです。

仕事指導時のアドバイスとコーチングの方法

状況に応じてコーチングを使い分け長期的な視点で育成

前述したように、時間などさまざまな制約があるビジネスシーンにおいて、1回のコーチングだけで全ての業務に対処するのは難しいと思います。時間が十分にある時は、コーチングを繰り返し、部下の考えを引き出しながら課題解決につなげるのがベストです。しかし、あまり時間が無い場合は、コーチングで部下のアイデアを引き出しつつ、不足している部分をアドバイスで補うと良いでしょう。緊急の場合は、コーチングではなく、指示やアドバイスで対応してください。少しでも時間があるのなら「他に何かやっておくことはある?」と質問して、考えさせてみても良いでしょう。自分では思い付かなかった妙案が出るかもしれません。

コーチングは、基本的には長期での部下の指導・育成に向いているメソッドです。しかし、状況に合わせてうまくコーチングを応用すれば、仕事を円滑に進めながら、部下の力を十分に引き出すことも可能です。部下が成長すれば、戦力として頼もしいことはもちろん、上司としての自信、そして評価にもつながるはず。ひいては会社の業績向上にも貢献することになるでしょう。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2019年10月