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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.6 課題の明確化、モチベーションアップに使える
「チャンクダウン」・「チャンクアップ」とは?

部下の課題を明確化し、やる気を引き出す!
使い勝手抜群のコーチングのテクニック

部下の育成は、管理職の重要な職務の一つ。しかし「部下に指示しても、何をすれば良いのかなかなか的確に理解してくれない」「そもそも部下からやる気が感じられない」という悩みを抱える人も多いでしょう。とはいえ時間も限られているなかで繰り返し指示を出し、やる気を出させるために頻繁に時間を割くのは生産的ではありません。やはり理想は、上司が方針を示したら、あとは部下が自ら課題を解決し、やりがいを見いだしながら実績も作っていってくれることです。

コーチングのテクニックの中には、その理想の実現に役立つものがあります。それが「チャンクダウン」と「チャンクアップ」です。「チャンク」は「塊」という意味。「チャンクダウン」は塊を小分けにしていくように課題を細かくしていくこと、「チャンクアップ」は塊をより広い視野で見るように課題をその大本から捉えていくことを言います。

部下指導を行う際にチャンクダウンを使うと、大きな課題を小さな課題として分類することができるので、部下は何をすれば良いのかが分かりやすくなります。一方チャンクアップを使うと、個々の課題の大本である「目的」を見直すことができるので、部下のモチベーションアップにつながります。そこで今回は、部下の育成から業務全体にまで幅広く役立つ、チャンクダウン・チャンクアップの具体的な進め方を紹介します。

「課題を解決するために何をするべきか?」
行動を明確にするチャンクダウン

チャンクダウンは、課題の具体的な解決策を明確にし、実践しやすくする技術です。これを用いた「部下の成績を伸ばす」という目的へのアプローチを考えてみましょう。まず、本人に「成績を伸ばすためには、何が必要?」といった質問をして、思い付いたことを挙げさせます。

「取引先と密にコミュニケーションをとる」など業務に関する行動はもちろん、「意欲的に業務に取り組む」というような仕事に対する姿勢でも構いません。部下に問いかけると、初めはそういった抽象的な内容が返ってくることが多いはず。そこで、さらに「では、意欲的に業務に取り組むために何をすれば良いと思う?」などと質問を重ねていきましょう。これを繰り返すと「朝30分早く出社してタスクを確認する」「デスクを整理する時間を1日5分とる」というふうに課題が細分化され、具体的になっていきます。

具体的な方策が出そろったら、それらに優先順位を付け、達成するためのスケジュールを立ててもらいましょう。そうして一つひとつの小さな課題を克服していくことが、「成績を伸ばす」という大きな目標の達成につながります。上記でも示したように、チャンクダウンで質問するときは、“何をすれば良いか?”という実際の行動について突き詰めていくのがポイントです。

「なぜこの課題を解決するんだろう?」
根本的な気付きを与えるチャンクアップ

これに対して、チャンクアップは、視野を広げて課題を見直すことで、その背景や目的を確認する方法です。チャンクダウンと同じく、「部下の成績を伸ばす」を例に考えてみましょう。チャンクアップでは最初に「なぜ成績を伸ばすことが必要だと思う?」と尋ねます。その答えが「上司に認めてもらうため」というものだったとしても、決してあきれたり、怒ったりしないでください。コーチングでは、相手に正直に話してもらうことが重要です。質問するときは、詰問や尋問にならないように気を付けましょう。

そして「なぜ上司に認めてもらいたいの?」というように、相手の回答を受けた質問を重ねます。「上司に認めてもらいたいのは、この会社で実績を作りたいから」→「この会社で実績を作りたいのは、10年後に実現させたい事業があるから」という流れになれば、部下自身が成績を伸ばすことの必要性に気が付くことができるでしょう。

コーチングは誘導尋問をするのではなく、あくまでも部下の返答に対して問いかけていくため、必ずしもこのような方向に話が進むとは限りません。しかし、チャンクアップをすることで、部下に何らかの気付きを与えることはできるはずです。チャンクアップの質問で鍵になるのが、“なぜ~をするのか?”ということ。これを繰り返すことで、部下のモチベーションが上がったり、業務の意義を見いだしたりすることができれば、チャンクアップの成果が出たと言えます。

チャクアップ・チャンクダウンのイメージ

チャンクダウン・チャンクアップの習慣化で
ビジネスの成果とスピードが変わる!

チャンクアップとチャンクダウンは、目的に応じて使い分けると良いでしょう。より包括的に考えたい場合、先にチャンクアップでその課題の本来の目的や目指す方向などを確認した上でチャンクダウンをすると、より多様な具体的解決策が挙がるかもしれません。

このチャンクアップ・チャンクダウンは、部下の育成だけでなく、プロジェクトの推進から部署や会社全体の業績アップまで、さまざまな場面で活用できます。関係者が集まってプロジェクトに関してチャンクアップとチャンクダウンのブレーンストーミングを行うと良いでしょう。これによって目的や方針を共有し、団結して目の前の課題に取り組めるようになります。

日々の仕事に忙殺されて、今本当にやるべきことや本来の目的を見失ってしまうのは、年齢や職位を問わずよくあること。そうした事態の回避や状況が変わって軌道修正したいときなどにも、チャンクダウン・チャンクアップは有効です。また、自問自答することで、自分自身の課題の解決に役立つことも。このテクニックは、実際に使う経験を積むことでより良い効果を期待できるようになります。日頃から積極的に活用して、部下・部署・企業・そして自分自身を成功に導いてください。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。ほめ方の伝道師。プロフェッショナルコーチ。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、もともと人付き合いが苦手だったが、その後コーチングに出会い人生が180度変わる体験をする。2004年よりプロコーチ・セミナー講師として活動開始。現在は経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティング、ほめる習慣づくりによる組織改革などを行う。主な著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2020年4月