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部下の力を引き出す「コーチング」の極意

部下が自発的に働くようになる、コーチングの手法と実践について解説します。

vol.7 その質問はちょっと待って!
コーチングの効果を高める質問の仕方とは?

部下が答えに困ってしまう質問は逆効果

「やる気はあるのか?」「どうしてできなかったんだ?」部下が失敗したときに、このような質問をしたことはありませんか? たしかに、部下の意見を引き出すのには質問が大事。しかし、これらは表面的には質問形式であるものの、部下からすれば叱責としか受け取れないばかりか、返答にも困るものです。これでは部下の心を閉ざしてしまい、それまで築いてきた信頼関係が台無しになりかねません。

一口に質問と言っても、使う言葉や口調次第で相手の受け取り方は大きく変わります。部下・後輩の能力や、やる気を引き出すための質問は、相手の考えや思いを自由に話してもらうことが重要なポイント。相手が答えに窮して黙ってしまうような質問はNGです。そこで今回は、コーチングの重要なポイントでもある、上手な質問の仕方を紹介します。

相手の話を掘り下げることができるオープン・クエスチョン

質問には、大きく分けて「オープン・クエスチョン」と「クローズド・クエスチョン」の2つがあります。

オープン・クエスチョンは「今、何を考えてる?」というような、相手が自由に答えることができる質問で、相手から多くの情報や忌憚のない意見を引き出したい場面で有効です。オープン・クエスチョンであっても考えがまとまらず、部下が返答に困ってしまうことはあります。そんなときは「何でも構わないし評価につなげることもないから、今思っていることを言ってくれる?」と言ってみましょう。そうすれば部下も、何らかの返答をするはずです。

一方、クローズド・クエスチョンは、「はい」か「いいえ」の二者択一で答える質問のことです。上記の例で言えば、何を考えているのかという質問に対して部下が黙っていたときに、「十分リサーチはしたのか?」などと聞くのはクローズド・クエスチョンになります。このような質問は、簡潔な答えを求めるだけのときは有効ですが、相手の心の声を引き出したいような場合には不向きです。

特に冒頭で挙げた、失敗した部下に対する「やる気はあるのか?」という質問は、クローズド・クエスチョンの中でも最悪の例の一つ。相手の本音を引き出すどころか、相手の心を折ってしまいかねません。話を掘り下げていくコーチングでは、できるだけオープン・クエスチョンを用いて、部下が考えや思いを話しやすくするように心掛けてください。

オープン・クエスチョンとクローズド・クエスチョン

言葉選びや口調などを工夫して部下が答えやすい環境を作る

とはいえ、オープン・クエスチョンを使っても、言葉の選び方によっては、部下を萎縮させてしまう場合があります。例えば、冒頭の失敗した部下に「どうしてできなかったんだ?」という質問をするとしたら、それはオープン・クエスチョンです。しかし、この聞き方をすれば、部下は責められている気がするでしょう。コーチングで使うのはあくまで質問で、強制的に答えさせる尋問や、相手を責める詰問ではありません。この場合「どうすれば成功したと思う?」と聞けば、同じオープン・クエスチョンで、部下の「この経験を次に生かそう」という前向きな気持ちを引き出すことにつながります。

また、質問するときの口調や態度も大切です。前述の「どうすれば成功したと思う?」という質問でも、あからさまに不機嫌な口調であれば、部下は責められていると感じます。逆に「どうしてできなかった?」という質問でも、その前に「君ならうまくできると思っていたんだけど」と付け加えたり、柔らかい口調で聞いたりすれば、部下はそれほど萎縮せずに答えることができるかもしれません。「どうしてできなかったのかな?」など語尾を少し変えるだけでも、印象がずいぶん異なることも多いものです。このように言葉の選び方や質問の仕方を工夫することで、部下が答えやすいと感じる環境を作ることを意識しましょう。

シンプルな質問が自由な回答を引き出す秘訣

このように、適切な質問をする、というのは、簡単に見えて実は一筋縄ではいかないテクニックです。そこでもう一つ、相手が答えやすくするために心掛けてほしいポイントを紹介しましょう。それは“質問をできるだけシンプルにすること”です。質問が長くなると、それだけ相手が答えられる幅は狭くなっていきます。シンプルな質問は、相手が質問を自分なりに解釈することができるため、答えやすくなるのです。

そのシンプルな質問の究極と言えるのは“おうむ返し”です。例えば部下がある案件の失敗の要因として「今回の案件は、細かい注文が多くて……」と答えたとします。そこで上司が「細かい注文?」と聞くと、部下は注文の具体的な内容について説明するはず。これによって具体的な失敗への対策が立てられるのはもちろん、相手の言葉を繰り返すことで、「受け止めてもらえた」と感じてもらうことができます。相手の話を傾聴して、鍵になる言葉を拾うよう意識を傾けておけば、相手を安心させつつ話を掘り下げていくことができるのです。

もちろん、おうむ返しだけですべてのケースに対応できるわけではありません。その人の仕事に対する姿勢など、本質的なところに切り込んだり、視野を広げたりするためには、オープン・クエスチョンが必要です。コーチングは、質問の質で成果が決まると言っても過言ではありません。日頃から質問の仕方を磨くように心掛けることで、より効果的に部下の可能性を引き出すことができるようになるはずです。

PROFILE

谷口 祥子
谷口 祥子たにぐち・よしこ
株式会社ビィハイブ代表取締役。思いこみクリアリングカウンセラー。コピーライターとして活動後、ITベンチャーにて携帯コンテンツ事業の立ち上げに参画、その後コーチングに出会い、2004年よりプロコーチ・セミナー講師としての活動開始。現在はブリーフセラピー、交流分析、再決断療法などをベースに構築した独自プログラムを用い「思いこみクリアリングカウンセラー」として活動。経営者や管理職のカウンセリング、コーチング、会話のコンサルティングなどを行う。著書は『図解入門ビジネス 最新コーチングの手法と実践がよ~くわかる本』『「結果を出す人」のほめ方の極意』など。

記事公開:2020年6月