わかる!コンプライアンス
最近よく話題になるものの、意外と意識しづらいコンプライアンス。基礎知識、違反を防ぐ方法などを解説します。
vol.1
面倒? 退屈? 仕事をもっと楽しくする、
コンプライアンスの本質とは?
「法令遵守」じゃ追いつかない!
今、コンプライアンスは変わりつつある
コンプライアンス(compliance)という言葉は、もともと法令や命令を守ることを意味しています。従来の企業でのコンプライアンスといえば、「こなすだけの研修で習うもの」「分厚い資料にまとめられた“やってはいけないこと集”」というイメージが強いかもしれません。
しかし、最近では時代に応じた変化が生まれています。多くの人がSNSで気軽に情報発信をするようになり、さらにテレワークによって仕事の場は会社の外へ拡大しつつある今、企業におけるコンプライアンスは、従業員の日々の生活全体に密接にかかわるものになっており、過去の認識のままでは実情に追いつかなくなっているのです。
「守るべきルール」という客観的なものを重視するコンプライアンスから、最近では従業員一人ひとりの倫理規範や常識という主観的なものが注目されるようになってきました。コンプライアンスは「法令遵守」から「法令“等”遵守」へと変わっています。
現状、多くの組織でコンプライアンス研修を実施していても、パワハラやセクハラ、情報漏えいなどのコンプライアンス関連の不祥事は後を絶ちません。発生した不祥事を分析すると、①知らずに起こした「過失」、②いけないとわかっていて起こした「違反」に分かれますが、その大半が②の「違反」に属するとも言われています。
これまでコンプライアンス研修では、会社が決めたルールやケースを覚えることに力を入れてきました。しかし、悪いと認識していてもやってしまう違反が多いことからわかるように、知識を入れるだけの教育には限界があります。組織を強くするコンプライアンスには、「覚えなければいけない面倒なもの」から「みんなで主体的に考え、守るもの」へという意識の変化が必要です。一人ひとりが納得し、自発的にコンプライアンスを守る行動をどうやったら生み出せるのでしょうか。
「こんなはずじゃなかった……」
軽い気持ちで起こした違反が、莫大な損害に
不祥事に「違反」が多い背景のひとつには、不祥事を起こすとどうなるのか、従業員が具体的にイメージできていないことがあります。自分が起こした不祥事が会社や顧客だけでなく、家族にも多大な迷惑をかけることになるとは思わず、軽い気持ちで違反をしてしまうのです。
例えば仕事が原因で従業員がうつ病を発症してしまい、労災認定から企業賠償になったとしましょう。すると、最悪のケースでは会社だけでなく、責任者にも多額の賠償金が請求されることもあるのです。うつ病の原因にパワハラやセクハラが認められれば、賠償金の額はさらに跳ね上がります。これを知っていたら、パワハラやセクハラにつながる言動に注意するようになるはず。コンプライアンスはルールやケースを暗記するだけでなく、自分の言動が引き起こす具体的な結果として理解することが大切なのです。
多くの場合、コンプライアンスとして会社でルールを細かく定めても、どこまでがOKでどこからがNGなのかは、実際の明確な基準がない場合がほとんどです。これは、法律に運用のためのグレーゾーンが存在するのと同じです。
そうなるとやはり「人」のモラルが重要になります。どんなシーンでもコンプライアンスに違反するような言動は行わないという、自分で考えて判断する意識が求められるのです。コンプライアンスは組織を構成する一人ひとりの意識が変わることから始まるといっても過言ではありません。その上で、組織内でお互いが注意しあうことは、コンプライアンス遵守につながっていきます。
コンプライアンスで仕事を楽しくする!
完璧を求めずスモールスタートで始めよう
コンプライアンスのあるべき姿は、現場によって違います。ハラスメントや情報漏えいといった事象の裏には、社内風土や経営者・管理者の考え方、社会的課題、各職場での仕事の進め方など、さまざまな要素が複雑に関係しています。同じ会社であっても、現場によって問題点や達成度は変わってくるでしょう。
そこで、コンプライアンスを考えるときは、コンプライアンス違反の防止策を実行する「人・組織」、そして防止策を実施する「職場」の視点を重視して、現場主義で始めることをおすすめします。まず、自分がいる職場はいまどういう状況にあり、何が足りないのか、また不祥事を起こしたらいったいどうなるのかをメンバー全員で話し合い、「見える化」してみましょう。
見える化を具体的な行動につなげていくヒントは、最初から完璧を目指さないことです。社会環境が変化し続ける中では、コンプライアンス対策に100点満点はありません。できるところからすぐ始める、スモールスタートが結果的にコンプライアンスを着実に前進させるのです。
こうした職場での取り組みで多くの人が気づくのは、フラットで健全なコミュニケ―ションの大切さです。不祥事が発生する多くの現場には、なれ合いや遠慮があります。これは問題の表面化を遅らせる諸悪の根源です。お互いを尊重し「良いことは良い、悪いことは悪い」と言える風通しが良い職場は、自発的なコンプライアンス対策につながります。
そして、風通しの良い職場では、従業員同士が自由に議論しながら切磋琢磨でき、一緒に働くことが楽しくなるでしょう。主体的に取り組むナレッジワーカーへ変わっていく従業員も少なくありません。さらに、そこで生じた創造的思考や課題発見力は、あるべきコンプライアンスの姿も磨いていきます。
現場主義から始める企業コンプライアンスの姿は、会社の業績にも良い影響を与えていくと言えるでしょう。同時に、それぞれの現場がコンプライアンスを一人ひとりのものとして身近にとらえることで、会社全体の企業コンプライアンスをより強固にしていくのです。
富士フイルムグループの取り組み
富士フイルムグループでは、コンプライアンスを「法律に違反しないということだけでなく、常識や倫理に照らして正しい行動をとること」と定義しています。企業活動の基本ポリシーとして「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」を制定し、法令や社会倫理に則った活動の徹底を図るとともに、コンプライアンス宣言を通じて、事業活動においてコンプライアンスを優先することを富士フイルムグループ全従業員に周知徹底しています。
PROFILE
- 塚脇 吉典つかわき・よしのり
- 一般社団法人日本コンプライアンス推進協会理事。「コンプライアンス経営」に関する啓発や、情報セキュリティ対策(導入・運用・保守)支援、BCP対策など幅広く活動する。伊東市情報公開審査会/伊東市個人情報保護審査会委員。2018年JCPA出版より『組織は人、人の心を動かし、組織を変える56の法則』出版、「見える化分析カード」を用いた企業リスク診断システムを発表。
イラスト:佐々木 公(イラストレーター)
記事公開:2020年10月
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