わかる!コンプライアンス
最近よく話題になるものの、意外と意識しづらいコンプライアンス。基礎知識、違反を防ぐ方法などを解説します。
vol.10
その情報交換、法律違反かも!?
独占を避け正しい競争を守るルールとは。
健全な経済に不可欠!
「正しい競争」を支える大きな柱、独占禁止法
私たちが暮らす自由主義経済圏は、「競争」がベースになっています。経済活動に参加する事業者が、ライバルと品質や価格を競い合うことで、消費者はよりよい品質の商品やサービスを低価格で手に入れることができます。逆に、この「競争」がうまく行われなければ、経済活動が不健全になっていくといえるでしょう。これを防ぐために生まれた法律の一つが、独占禁止法です。
独占禁止法は、ニュースでもたびたび耳にする法律です。正式名称は「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律」。その歴史は、1870年代のアメリカにさかのぼります。
第二次産業革命を迎えたアメリカでは、エネルギーの主役が石炭から石油に変わる中で、経済構造が大きく変化していました。その中で問題となったのが、スタンダード・オイル社による原油市場の独占でした。一般大衆から「価格をつりあげ巨大な独占利潤を上げている」と批判され、市場の独占につながる企業形態(トラスト)に制限を設ける法律が制定されました。
日本で独占禁止法が制定されたのは、戦後間もない1947年。カナダとアメリカに続き、世界で3番目でした。日本では公正取引委員会が独占禁止法を運用しています。
正しい競争を侵害するNG行為とは?
意外と知らない独占禁止法を解説
独占禁止法の目的は、競争のないところには競争をもたらし、競争のあるところにはより公正かつ自由な競争が行われるように促すことです。禁止・規制されているものを一つひとつみてみましょう。
(1)私的独占の禁止
私的独占とは、事業者が、他の事業者の事業活動を排除、支配することによって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
<私的独占のタイプ>
- 排除型:
- 不当な低価格販売などの手段を用いて競争相手を市場から排除したり、新規参入者を妨害して市場を独占しようとしたりする行為
- 支配型:
- 株式取得などで他の事業者の事業活動に制約を与え、市場を支配しようとする行為
(2)不当な取引の制限
不当な取引とは、事業者が他の事業者と共同して相互にその事業活動を拘束、または遂行することによって、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること。
<不当な取引の例>
- カルテル:
- 事業者または業界団体の構成事業者が相互に連絡を取り合い、商品の価格や販売・生産数量などを共同で取り決める行為
- 入札談合:
- 国や地方公共団体などの公共工事や物品の公共調達に関する入札に際し、事前に受注事業者や受注金額などを決めてしまう行為
- ボイコット:
- 安売り店など特定の事業者との取引拒絶の合意をする行為
(3)事業者団体の規制
独占禁止法が規制する行為は、事業者だけでなく社団や財団、組合等の事業者団体も対象となる。
<規制している事業者団体の行為の例>
- 事業者団体による競争の実質的な制限
- 事業者の数の制限
- 会員事業者・組合員等の機能または活動の不当な制限
- 事業者に不公正な取引をさせる行為
(4)合併や株式取得などの企業結合規制
市場における価格や供給数量等を左右する、株式取得や合併等による企業の結合を禁止。一定の要件に該当する企業結合は、公正取引委員会に届け出・報告する。
(5)独占的状態の規制
50%以上のシェアを持つ事業者が存在する市場で、価格が下がらないなどの弊害が認められる場合、競争を回復するための措置として事業者の営業の一部譲渡を命じる場合がある。
(6)不公正な取引方法に関する規制
競争手段が公正とはいえず、自由な競争の基盤を侵害するおそれがある場合、それを不公正な取引方法とみなし禁止することがある。
また、正しい競争のために禁止されている事項には、上記6つにあわせて、独占禁止法を補う法律である下請法に基づくものもあります。これは、受領拒否、下請け代金の支払い遅延・減額、返品、買いたたき等の行為に対する規制です。
場合によっては課徴金や刑事手続きも!
独占禁止法に違反するとどうなる?
では独占禁止法に違反したらどうなるのでしょうか。独占禁止法を運用する公正取引委員会では、違反行為をした者に対し必要な措置を命じます。これを「排除措置命令」と呼んでいます。違反行為を取り除き、今後も違反することがないように関係者間で周知徹底するためのものです。この内容としては、法令を順守するための行動指針作成・社内研修開催を求めるもの、それらの公正取引委員会への報告を求めるものなどがあります。
このほか私的独占やカルテル、一定の不公正な取引方法については、下記のような措置がなされます。
- 課徴金:
- 私的独占、カルテルおよび一定の不公正な取引方法については、違反事業者に対して、課徴金が課される
- 民事措置:
- 私的独占、カルテル、不公正な取引方法を行った企業に対して、被害者は損害賠償の請求ができる。この場合、企業は故意・過失の有無を問わず責任を免れることができない(無過失の損害賠償責任)
- 罰則:
- 私的独占、カルテルなどを行った企業や業界団体の役員に対しては、罰則が定められている
同業他社との間ではさまざまな情報交換を行うことがありますが、カルテルとみなされないように注意が必要です。一般的な情報は問題視されにくいですが、価格や供給数量などとの関連性が高い事項をやりとりすることはNGです。
独占禁止法違反を繰り返す、排除措置命令に従わないなどで国民生活に大きな影響を及ぼすと思われる悪質かつ重大なケースの場合、刑事告発を念頭に置き、公正取引委員会が営業所への立ち入り検査や事情聴取などを行うこともあります。この場合、形式的には行政処分であっても実質的には刑事手続きに近いといわれています。
過去には大手メーカーによる私的独占、超有名業者によるカルテルなど、さまざまな事案がニュースになりました。独占禁止法に違反すると、事業者として長期にわたって計り知れないダメージを受けます。
独占禁止法が担保する自由で公正な競争は、健康な経済活動の基礎の基礎。国民経済を発展させる大切なインフラとして、常に意識することを忘れないようにしましょう。
富士フイルムグループの取り組み
富士フイルムグループでは、コンプライアンスを「法律に違反しないということだけでなく、常識や倫理に照らして正しい行動をとること」と定義しています。企業活動の基本ポリシーとして「富士フイルムグループ 企業行動憲章・行動規範」を制定し、法令や社会倫理に則った活動の徹底を図るとともに、コンプライアンス宣言を通じて、事業活動においてコンプライアンスを優先することを富士フイルムグループ全従業員に周知徹底しています。
PROFILE
- 塚脇 吉典つかわき・よしのり
- 一般社団法人日本コンプライアンス推進協会理事。「コンプライアンス経営」に関する啓発や、情報セキュリティ対策(導入・運用・保守)支援、BCP対策など幅広く活動する。伊東市情報公開審査会/伊東市個人情報保護審査会委員。2018年JCPA出版より『組織は人、人の心を動かし、組織を変える56の法則』を出版、「見える化分析カード」を用いた企業リスク診断システムを発表。
イラスト:佐々木 公(イラストレーター)
記事公開:2021年9月
情報は公開時点のものです