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「分け方」を変えればその問題は解決する!

vol.2

売り上げを伸ばす「分け方」とは?
人間心理に基づいて考えてみる

まとめて売るよりも小分けにしたほうがいい?

私たち日本人は、シャンプーや整髪料はボトル入りが当たり前だと思っています。

ところが、低所得層が多い東南アジアなどの一部の国々では、1回分の使用量を小さな袋に入れたシャンプーや整髪料が売られています。ボトル1本を買えるほどお金に余裕のある人は限られているからです。

そうした国でボトル入りの製品を売ったとしても、売り上げは思うように伸びないでしょう。しかし、小さな袋に小分けすれば、お金に余裕がない人でも手が届くので、より多く売れるはずです。日本の「分け方」の常識が、日本以外の国でも通用するとは限りません。

このように、自分たちが当たり前だと思ってきた“常識の殻”を打ち破って「分け方」を変えることは、売り上げを伸ばすきっかけになります。まとめて売るよりも、小分けにして安く売るという方法は、最もシンプルかつ効果的な問題解決法のひとつと言えそうです。

1回分の使用量に分ける!? 当たり前を疑った分け方が新たな需要掘り起こしに

イニシャルコストとランニングコストを分ける

たとえば書籍においても、大作の小説などは「上中下巻」に分かれていることがよくあります。1冊にまとめると本が厚くなりすぎるという理由もありますが、分けたほうが売り上げは伸びやすいからです。

「本が売れない時代になった」と言われますが、なかでも価格の高い本の売れ行きはよくない傾向にあります。1冊で3,000円以上する本を売るよりも、1,000円ずつ3冊に分けたほうが手に取ってもらいやすいのです。

製品本体と消耗品を「分ける」というのも、売り上げを伸ばす賢い発想だと言えます。代表的なもののひとつが「替え刃モデル」のカミソリです。

昔のカミソリは、本体と刃が一体化していて、刃が使い物にならなくなったら本体も捨てなければなりませんでした。そこである人が、「刃を付け替えられるようにすれば安上がりになる」と思いつき、本体と分けることにしたのです。

これは、商品やサービスを利用するためにかかるお金を、イニシャルコスト(最初にかかる費用)とランニングコスト(利用し続けるための費用)に「分ける」という発想です。

このビジネスモデルで成功している例のひとつがインクジェットプリンターです。プリンター本体と消耗品であるインクを分けることによって、本体の価格を抑え、消耗品を継続的に購入してもらうことで売り上げを伸ばす仕組みです。

いまでこそ「替え刃モデル」のカミソリは当たり前になりましたが、これによって生み出されたイニシャルとランニングを「分ける」という革新的な発想は、さまざまなビジネスに応用されているわけです。

「分け方」を工夫して購買意欲を刺激する

商品を「ランク分け」することも、売り上げを伸ばすマーケティング手法のひとつです。同じ商品シリーズでも「松・竹・梅」といったラインナップを用意すると、真ん中の「竹」がよく売れる傾向があります。高すぎず、安すぎず、無難なものを選ぼうとする人間心理が働くからです。この傾向を「極端回避性」と言います。

ランク分けをするときには、とくに売りたい商品を中間価格帯(つまり「竹」)に持ってくるのが鉄則です。たとえば、同じ商品シリーズで3万円、5万円の2つのモデルがあるとします。利益率の高い5万円の商品をより多く売りたいと思ったら、7万円の上位モデルを追加投入して、5万円を真ん中の価格帯にするのです。

やってはいけないのは、3万円と5万円の間に4万円など中間価格帯のモデルを投入することです。これによって5万円のモデルはますます売れなくなり、利益構造の悪化を招くことにつながりかねません。

「分け方」を間違うと売れるはずのものが売れなくなる半面、人間心理を利用して巧みに「分け方」を工夫すれば、購買意欲を刺激して、売り上げを伸ばすこともできます。

商品のサイズやカラーバリエーションを豊富に取りそろえるのも、購買意欲を刺激する「分け方」でしょう。ただし、ここで注意したいのは、あまり種類を多くしすぎないことです。
選択肢が何十種類もあると、人間は何も選べなくなり、購買意欲を失ってしまうという行動経済学の研究結果があります。人間が一度に選べる種類は7±2、つまり5~9種類ぐらいが限度のようです。商品のバリエーションを検討するときには、ぜひ参考にしてみてください。

次回は、「分け方」を変えることで、自分が狙った方向に人にスムーズに動いてもらう方法について紹介します。

“分け方”のポイント
「分けすぎる」と逆に購買意欲が失われる。商品バリエーションは5~9種類にとどめよう。

PROFILE

下地寛也しもじ・かんや
コクヨ株式会社ワークスタイルコンサルタント。コクヨ入社後、オフィスの設計に従事。その後、働く環境と従業員の行動に関する分析・研究などの業務を担当。現在は経営管理本部でコクヨグループの働き方や風土・文化の改革にも取り組んでいる。著書に『一発OKが出る資料 簡単につくるコツ』(三笠書房)、『困ったら、「分け方」を変えてみる。』(サンマーク出版)など。

記事公開:2018年9月