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「一人歩きする資料」の作り方

対面やオンラインで説明をしなくても、読み手が内容を十分に理解できる
「一人歩きする資料」作成のためのテクニックや考え方を、元外資系コンサルタントが教えます。

vol.1

資料作成が得意な人ほど出世する!?
目指したい「一人歩きする資料」とは

“プレゼンテーション資料”と“説明資料”、
混同していませんか?

みなさんは「一人歩きする資料」と聞くと、どのようなイメージを抱くでしょうか。相手に誤解をさせてしまう、要領をつかんでもらえない資料……というような印象を持つ人も多いかもしれません。

ここで紹介する「一人歩きする資料」とは、“自分の説明がなくとも、読み手がスラスラ読んで内容を理解してしまう資料”のことです。その資料で取り上げている業務、製品などに詳しくない人でも、読めば自分がとるべき次のアクションがわかるようなものを指します。

これは、自分が説明することが前提のプレゼンテーション資料とは逆の位置づけにあるものですが、多くのビジネスパーソンは、“プレゼン資料”と“説明資料”の違いがわかっていません。

プレゼン資料は、英語では「ヴィジュアル・エイド=視覚的な補助」と呼ばれています。あくまで主役はプレゼンター。プレゼン資料は、そのプレゼンテーションの内容を視覚的に補助する役目を担います。対して、説明資料は、主役が資料そのもの。しっかりと説明の文があり、単体で成り立つものである必要があります。

スティーブ・ジョブズ氏のような人物が文字を最小限にしたプレゼン資料を使うのは、彼らが非常に高いスピーチ能力とスター性を持つ「主役」だからだと言えるでしょう。一般的なビジネスパーソンが、彼らのまねをしてプレゼン資料を作るのには危険が伴います。ましてや、説明資料をスティーブ・ジョブズ氏のプレゼン資料のように作ってしまっては何も伝わりません。

“プレゼンテーション資料”と“説明資料”の違い

ではまず、どちらの資料を的確に作れるようになればいいのか、と言えば、それは説明資料です。説明資料を作ることができれば、プレゼン資料を作成するのは実は難しくありません。文字の部分をイメージ画像に変え、プレゼンターが内容を口頭説明すればよいのです。

説明資料を「一人歩きする資料」として作れれば、ビジネスパーソンにとって非常に大きなアドバンテージになります。説明が必要な資料だと、資料を渡す相手一人ひとりに説明をしてまわる時間が必要ですが、「一人歩きする資料」ならその時間が節約できるのです。

さらに、資料が自分の代わりに伝える役目を果たしてくれますから、より多くの人を巻き込み、一度に動かすことも可能になります。自分がその場にいなくても、自社の商品やサービスなどの魅力を十分に伝えてくれる「一人歩きする資料」を作成することは、今まで以上に大きなビジネスチャンスをつかむきっかけにもなるのです。

資料作りが得意な人ほど、キャリアアップを重ねて出世する

最初に「一人歩きする資料」のメリットについて紹介しましたが、それでも資料作成と聞くと「面倒くさい」「時間がかかる」「苦手だ」と思っている人も多いと思います。

ある調査によると、資料作成に「自信がない」と回答したビジネスパーソンの割合は約4割、一般社員だけでみると、この割合は5割以上になります。

しかし、一般社員から、係長・主任、課長・次長、部長、経営者・役員……とポジションが上がるにつれて、「資料作成に自信がある」と回答する人の割合は増加。経営者・役員でみると、約8割が「自信がある」と回答しているという調査結果に。

ポジションが上がるにつれて資料作成の機会が増えるという側面があるにせよ、私の経験をふまえても「資料作成が得意な方がキャリアアップを重ねて出世している」ということが言えると思います。

しかし、多くの人は、資料作成の方法を体系的に学んだ経験がないでしょう。資料作成のための技術をほとんど教えられていないのですから、正しい資料の作り方を実践している人は少ない、というのが現状です。

私は今までコンサルタントとして、社内改革や新規事業のよい提案・企画を持っている優秀なビジネスパーソンに多々出会ってきました。でも、その企画をうまく資料として表現できる人は少数派。表現できない人の方が大半で、そういう人のほとんどは企画を実現できていませんでした。

企画が実現しないのは、資料作成スキルの不足が大きく影響していると考えられるのですが、多くの場合、本人はそれに気づいていないものです。

図解とグラフを味方につけて資料作成スキル向上を目指す

そこでこの連載では、ビジネスパーソンに必須とも言える「資料作成スキル」をアップさせ、ビジネスチャンスをつかめる「一人歩きする資料」の作り方について、具体的な方法やポイントを紹介していきます。

今、社会人の読解力は低下傾向にあると言われています。それに反比例して、会社では文字の多い資料が増加。そもそも文字ばかりの資料は、読まれる可能性が低いですし、役職が上がって1つの案件に割ける時間が少なくなれば少なくなるほど、その傾向は顕著になります。

ですから今の資料作りで求められているのは、少ない文字数でわかりやすく説明できるような図解を用いること、そしてグラフを上手に活用し、データを可視化して見せることです。

まず図解もビジネスパーソンの多くは苦手意識があるのではないかと思います。しかし、その理由は「図解の方法を知らない」「『文章⇔図解』の変換方法を知らない」「変換を即座にするための練習量が不足している」というところにあります。つまり、図解は正しく学び、練習すれば、誰もが使いこなせるようになるのです。

図解を使いこなすと、以下の4つの具体的な効果が期待できます。

  1. 読み手の内容の理解度が高まる
  2. 読み手の理解スピードが速くなる
  3. 作り手の頭が整理される
  4. 誰でも理解しやすい

図解には論理を明快にする効果があり、内容に対する理解の質を高めることができますし、理解度が高まれば読み手が資料を読み解く時間も大幅に短縮できます。他人に説明するために自分の考えを図解にまとめることは、思考の整理にもつながるでしょう。なにより、図解はどんな教育レベルの人でも理解しやすいものです。相手の国籍や文化的背景が異なっても、図解はそのギャップを埋める、ユニバーサルな役割を果たします。

図解と同じくらい重要なのが「数字」です。数字をうまく使うことも、仕事を円滑に進めるためのビジネスパーソンの必須スキルだと言えるでしょう。

ただし、資料で見せる場合には、数字をそのまま使うのではなく、グラフに加工することが重要です。グラフが持つ効果は、主に以下の3つです。

  1. 数字をわかりやすく見せる
  2. 新たな発見が生まれる
  3. メッセージを伝えやすい

例えば表をグラフにするだけで、数字の意味が理解しやすくなるだけでなく、数字を見ているだけでは気づかなかった発見をすることもあります。さらにグラフは、強調を加えることもできますから、より強いメッセージを発信することもできます。

しかし図解と同様に、グラフも、「グラフ自体の特性を知らない」「何のデータをどのグラフで示すか知らない」「間違ったグラフの使い方があふれている」という3つの理由から、多くのビジネスパーソンはうまく使いこなすことに非常に苦労しています。

その一方で、データを分析し、グラフで示す能力(グラフリテラシー)は今後ますます重要になっていきます。人やモノのさまざまなデータがリアルタイムに大量に収集、分析され、サービスや商品開発に生かされている今の時代、重要となるのはデータを活用して人を説得する技術です。

では、どのようにすればグラフを活用し、数字を用いて強い説得力を持つ「一人歩きする資料」を作れるようになるのでしょうか。

それには、前述した「うまくグラフを使いこなせない3つの理由」にヒントがあります。「グラフの特性」を知り、「どのようなデータをどのグラフで示すかというパターン」を学び、「間違ったグラフの使い方を見抜く力」を身に付ければ、誰でもグラフを味方につけることができるようになるはずです。

次回からは、これらを実現し、より大きなビジネスチャンスをつかむための、具体的な方法について詳しく解説していきます。

PROFILE

松上 純一郎まつがみ・じゅんいちろう
同志社大学文学部卒業、神戸大学大学院修了、英国University of East Anglia修士課程修了。外資系コンサルティングファームからNGOに転じ、現在は株式会社Rubato代表取締役を務める。自身のコンサルティング経験に基づいて行う、資料作成の講座が好評を博す。著書に『PowerPoint資料作成 プロフェッショナルの大原則』『ドリルで学ぶ!人を動かす資料のつくりかた』など。

記事公開:2021年6月