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押さえておきたい
「健康経営」の知識

今さら聞けない健康経営に関する基礎知識、健康リテラシーを高めるポイントを解説します。

vol.
02

健康は将来への投資!?
健康経営に不可欠な視点とは。

「健康経営」とは、従業員の健康づくりに投資することです。
株式などの金融資産と異なり、「人」への投資は
すぐにリターンをもたらすものではありませんが、
企業の未来をつくるしっかりとした土台となっていきます。
今回は「投資」という観点から健康経営を考えてみましょう。

健康経営は、健康リスクを理解することから

株式や不動産と同じように、健康経営の投資もリスクの把握から始めます。職場での健康問題について、従業員が健康を損ないかねない要因(健康リスク)は、大きく分けると下記の2つになります。

(1)生活習慣病:肥満、高血圧、脂質異常症、糖尿病など
(2)労働環境病:過重労働、パワハラ、セクハラ、メンタルヘルスの不調、業務起因性災害など

皆さんご存じの通り、生活習慣病とは、食事や運動、休養、喫煙、飲酒などの生活習慣が原因となり発症する病気の総称で、日本人の死因の上位を占めるがん、心臓病、脳卒中も含まれます。自覚症状がないからといって、適切に対処せず放置した場合、従業員の生産性低下や休業、退職につながる可能性があります。従業員の平均年齢が若かったり、忙しかったりする職場では、従業員自身が健康に無関心になりがちで、リスクを把握していない傾向があります。

一方、労働環境病は、働く環境に問題があることで生じます。過重労働やハラスメントが続くと、従業員の心身に負担がかかり、さまざまな健康障害を引き起こす可能性があります。放置すれば、うつ病や脳・心臓疾患を招きかねません。人手不足の中で、貴重な人財を失うことは、会社にとって大きな損失となるでしょう。

さらに過重労働やハラスメントを放置し、従業員から安全配慮義務違反で訴えられ、損害賠償請求を命じられた場合、企業の社会的信用は失墜しかねません。企業は従業員の健康を守るさまざまな義務が課せられていますが、残念ながらこうした事実を知らないまま職務に就いている管理者は少なくありません。例えば、時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として月45時間・年360時間で、違反すると企業に罰則が科せられます。

リスクに備え、リターンを得る健康経営

これらの健康リスクに備えるには、どのような対策を行えばいいのでしょうか。生活習慣病と労働環境病について、企業を構成する従業員、管理者、経営者の観点からみてみましょう。

(1)生活習慣病の対策 → 主体は従業員

  • 従業員:自身の健康リテラシーを高める。生活習慣病発症リスクに関する知識を得て、その知識をもとに行動する。例えば、勉強会やウォーキングイベントへの参加、ヘルシーメニューの選択など。
  • 経営者・管理者:従業員が「自分の健康は自分でつくる」という意識を向上させる機会や企業文化を醸成する。例えば、勤務時間内における健康教育を通じて、食事、運動、睡眠、飲酒、喫煙などについて正しい知識を持って行動できるヘルスリテラシーの向上を図るなど。

(2)労働環境病の対策 → 主体は経営者・管理者

  • 経営者・管理者:従業員が健康であることの重要性を理解し、健康を維持できる労働環境を整える。例えば、管理者に必要な知識を習得させる、過重労働・ハラスメント・労働災害の監視と改善、予防策の推進など。

健康経営に向けた対策は、経営者が健康に関心を持ち、積極的に取り組む姿勢を見せることが推進力となります。経営者のメッセージに心を動かされた従業員一人ひとりが健康意識や、ヘルスリテラシーを高めることができれば、自分の健康を管理する力が向上し、生活習慣の改善につながります。ここで重要なのは、会社の命令だからやるのではなく、健康の大切さを理解したセルフケア意識を従業員に醸成することです。特にこれからの時代、経営者には必要な視点になってくるでしょう。

健康経営で得られるリターンについてもみてみましょう。実は健康経営を意識していなくても、すでに多くの企業は従業員の健康に投資しています。その最たるものは、法律で実施が義務付けられ、企業が全額を負担している従業員の健康診断です。従業員の健康状態をチェックし、就業の可否を判断するとともに、病気の早期発見と早期治療の機会を増やす健康診断は、長期にわたって会社を支える人財の確保につながります。

経営者は、健康診断を投資の1つと捉え、リターンを求める視点を意識しましょう。従業員の健康状態が去年よりも今年、今年よりも来年と良くなることで、生産性の向上につながります。健康な状態で長期的に働いてもらうことが、ひいては自社の利益を生み出すのです。

従業員の健康診断の結果は、さまざまなことを伝えてくれます。例えば、メタボリックシンドロームの従業員が多い傾向にあれば、職場でできる食事や運動などの取り組みが効果的です。健康診断を実施して終わりではなく、その結果をどう生かすかという観点は、健康経営の大きなヒントとなるでしょう。

このほかにも健康への投資で企業が得られるリターンとしては、下記が挙げられます。

  • 従業員の定着:会社に大切にされていると感じた従業員のロイヤルティが増し、離職率の低下につながる
  • 企業イメージの向上:健康経営に取り組む企業が与える対外的な信頼感
  • 人財採用の強化:健康経営に取り組むホワイト企業というイメージは、求人への応募を増やす
  • 資産の活用:内部資産(従業員の能力)と外部資産(人脈など)の流出を防ぐ
  • 生産性向上:従業員が安心して仕事に取り組むことで、生産性が向上する
  • 創造性向上:健康に働ける環境は、新しい発想を生み出す
  • 危機への対処:従業員の健康は、企業の危機に適切な対処ができる余裕をもたらす
健康経営が生み出す好循環のイメージ

健康経営の3つの投資
「時間投資」「空間投資」「人間投資」とは?

リスクとリターンを理解したら、次はどのような投資を行うかを考えます。健康経営の投資は、下記の3つの順番で進めていきます。

(1)時間投資:ワーク・ライフ・バランスへの配慮や、勤務時間内に健康経営への啓発の時間を設ける。例えば、運動する時間、睡眠時間など健康を維持するために必要な時間を確保する、経営陣が健康経営の計画を立てる、従業員が健康診断を受けるなど。

(2)空間投資:仕事場だけでなく社員食堂や休憩室などを快適にするワークスペースづくり。例えば、リラックスできる休憩室を設置、在宅ワークの環境整備など。

(3)人間投資:人間に対する投資、会社の利益の一部を健康管理施策に投入する。例えば、資格取得など従業員の自発的なスキルアップの教材費補助、インフルエンザ予防接種の費用補助、健康診断オプションの費用補助など。

健康投資で経営者が心がけたいのは、「簡単にできることから始める」ことです。健康経営の投資効果は、すぐにあらわれるわけではありません。最初にコストや手間がかかることから着手してしまうと、経営に影響するおそれがあるため、長期的な視野に立って取り組むことが大切です。

前述の通り、健康経営は経営者だけでなく、管理者と従業員も一体となって進めていくものです。そこには同僚同士だけでなく、上司と部下のコミュニケーションが不可欠です。誰にとっても重要な「健康」を共通の課題として会社の全員が協力しあう意識は、職場を活性化します。従業員の健康は、企業の持続的成長を支える基盤です。健康への取り組みが将来のリターンにつながる投資と捉え、健康経営に取り組んでいきましょう。

富士フイルムグループの取り組み

富士フイルムグループは、企業理念に「健康増進に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与する」ことを掲げています。この理念を実現するための、2030年をターゲットとした中長期CSR計画では、重点課題の一つが「健康」であり、ヘルスケア事業を通じて「健康的な社会をつくる」ことに取り組んでいます。
そして、企業理念、目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる、従業員の健康維持増進を重要な経営課題として捉え、2019年には「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定しました。グループ全体の従業員の健康増進に対する取り組みを加速させており、社会、会社、事業が共に成長していくことを目指して、健康長寿社会の実現に貢献していきます。

PROFILE

岡田 邦夫
岡田 邦夫おかだ・くにお
NPO法人健康経営研究会理事長。大阪市立大学医学部卒業後、大阪ガス産業医。その後、健康経営研究会を設立し、理事長に就任し、健康経営についてさまざまな形で啓発活動を行っている。厚生労働省、文部科学省のメンタルへルスに関する委員、経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループ委員などを歴任。著書に『「健康経営」推進ガイドブック』、『職場の健康がみえる』(監修)ほか多数。

記事公開:2023年9月
情報は公開時点のものです

* 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。