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押さえておきたい
「健康経営」の知識

今さら聞けない健康経営に関する基礎知識、健康リテラシーを高めるポイントを解説します。

vol.
03

生産性はオフィス環境で大きく変わる!?
生き生きと働ける健康経営オフィスとは。

人財確保と従業員の生産性向上は、多くの企業にとって待ったなしの課題でしょう。
それを解決する鍵の一つとして、いま「健康経営オフィス」が注目されています。
オフィス環境が従業員に与える影響や、オフィス環境づくりについて考えてみましょう。

人財確保と従業員の生産性向上をもたらす、
健康経営オフィスとは?

健康経営オフィスとは、健康経営を実現するために、従業員の健康を保持・増進させるさまざまな要素を取り入れた職場のことです。健康経営の取り組みは多岐にわたりますが、その中でも従業員が1日のうち長い時間を過ごすオフィス環境をどう構築するかは、重要な要素です。最近では国や研究者も、健康経営オフィスの実現に向けて動き出しています。

厚生労働省は、国民の健康をさまざまな角度から考える「健康日本21(第二次)」という10年計画の中で、職場を通じた健康増進を提唱しています。これは、オフィス環境を整えることで、国民の健康につなげることを目指すものです。

また近年、建築関係の研究者が検討を始めたのが、健康経営オフィスに求められる要素を兼ね備えた「健康経営ビル」構想です。そこでは、「健康」という観点で新しいオフィスビルの形を模索しています。例えばテナントビルには医師常駐の診療所を設置し、入居する複数の企業の従業員が気軽に相談できるようにするといった施策です。1社だけでは実現が難しいことも、複数の企業がコストを分担することで可能になるケースがあります。健康経営に必要なさまざまな資源をシェアすることで、効率的に従業員の健康を向上させます。

※健康日本21(第二次)とは、2000年度~2012年度に実施された「健康日本21(二十一世紀における国民健康づくり運動)」に続き、2013年度から行われている国民健康づくり運動のこと。

働き方の変化にも対応!
健康経営オフィスを実現する「7つの行動」

オフィスで従業員の健康を保持・増進する行動には、大きく分けて下記の7つがあります。

●健康を保持・増進する7つの行動

(1)快適性を感じる
例えば、太陽光や目に優しいライト、室内の緑化やアロマテラピーの自然で爽やかな香りをほのかに漂わせるほか、パーソナルスペースの確保など、従業員がオフィスにいて心地いいと感じられるよう環境を整備する。

(2)コミュニケーションする
例えば、気軽に話す・相談できる、同僚の業務内容や会社の目標について知るなど、従業員同士が交流しやすい空間を導入する。

(3)休憩・気分転換する
例えば、飲食や雑談できる、仮眠がとれる、マッサージが受けられるなど、仕事から離れてリラックスできる空間を取り入れる。

(4)体を動かす
例えば、デスクワークを減らし、スタンディングワークができる、ストレッチや体操ができるなど、歩いたり体を動かせたりするレイアウトやスペースを設ける。

(5)適切な食行動をとる
例えば、昼食や間食をとるスペースを設ける、社内食堂で健康メニューを提供するなど、健康を意識した食生活を促すための環境を整える。

(6)清潔にする
例えば、手洗いやうがいの徹底、換気の習慣化、整理整頓、感染症対策用品の設置など、職場の安全衛生管理のため、オフィスの清潔さを保つ環境を整備する。

(7)健康意識を高める
例えば、健康管理やセルフケアに役立つ情報の提供、健康アプリの導入など、従業員の健康意識が高まるよう働きかける。

こうした行動を日常的に行うことで、健康の保持・増進効果として「運動器・感覚器障害」「メンタルヘルス不調」「心身症(ストレス性の内科疾患)」「生活習慣病」「感染症・アレルギー疾患」の予防・改善が期待されます。従業員のパフォーマンスを下げる要因を取り除く7つの行動は、健康経営を目指す企業にとって、投資効果がある項目ともいえます。

健康の保持・増進ならびに生産性の向上が期待されるオフィス
【出典】経済産業省「健康経営オフィスレポート」より作図

これら7つは、すべてを実践しなければならないというわけではなく、どれを行うかは企業によってさまざまです。中にはすでに環境が整っている項目もあるでしょう。健康経営オフィスの実現で最初に取り組むべきは、自社の現状把握です。すべてを一気に実施しようとするのではなく、まずは自社がどのような状態かチェックします。そこで足りないポイントを見極め、その部分に選択的に投資するのが効果的です。

また、それぞれの項目をどう実現するかは、企業によって異なります。例えば若手が多いかベテラン世代が多いか、男性が多いか女性が多いか、グローバル人財の割合などによって、健康経営オフィスの形は変化します。経営者は自社の状況を捉えたうえで、大切な従業員一人ひとりが快適に仕事に集中できる多様な環境とは何かを考えるとよいでしょう。

この7つの行動の中でこれからの時代にとりわけ大切なのは、コミュニケーションです。生産年齢人口の減少による人手不足を解決する鍵の一つは、多様な人財の活用ですが、そこには一人ひとりに孤独感を抱かせないことが求められます。上司・部下という関係にかかわらず、例えばコーヒーを飲みながら気軽にコミュニケーションがとれる場は、従業員の間に信頼関係を醸成し、創造性や危機を突破する力を生み出します。部下を指導する場合も、会議室よりもこうした開放的な場を選ぶことで部下の緊張がほぐれ、パワハラと受け取られるリスクを減らすことにつながるでしょう。

コロナ禍によるリモートワークの拡大は、「職場=会社あるいは自宅」という新たな選択肢をもたらしました。自宅は一人で集中して仕事を進められるという魅力がある反面、孤独と背中合わせといえます。全国の16歳以上の男女2万人を対象にした調査では、20代から50代の働き盛りで、孤独を感じる割合が高くなっています。孤独感はメンタルヘルス不調を誘発するリスクがあるため、リモートワーク実施率が高い企業では、在宅の孤独感を軽減する工夫も大切です。

健康経営オフィスへの投資は、
大きなリターンにつながる

健康経営オフィスを実現する7つの行動は、かつてはそれほど重視されていませんでした。昭和の時代は生産年齢人口が多く、労働時間も長く、労働力が足りていたため、企業は職場環境を改善することで効率を上げる必要性をさほど感じていませんでした。しかし時代の変化に伴い、職場環境やそれに対する意識も変わってきており、いまや働きやすい職場環境づくりが求められるようになっています。これからの時代、会社の成長と発展の基礎となる健康経営オフィスづくりは、企業の未来を左右します。

健康経営オフィスを成功させるには、従業員に健康情報を伝えるインフルエンサーの育成も有効です。経営者が率先して健康経営を説くだけでなく、管理職と産業保健スタッフ(産業医や衛生管理者など)が協力しながら、自社の健康経営オフィス実現への歩みを従業員に丁寧に発信していきましょう。

健康経営の理念が目に見える形になったものが、健康経営オフィスです。従業員の健康を真剣に考える会社の姿勢は、従業員の帰属意識とモチベーションを高めます。オフィスの環境改善はコストとして捉えられがちですが、健康経営オフィスへの投資は従業員のパフォーマンスを最大化し、将来的に収益性をはじめとする大きなリターンにつながっていくのです。

富士フイルムグループの取り組み

富士フイルムグループは、企業理念に「健康増進に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与する」ことを掲げています。この理念を実現するための、2030年をターゲットとした中長期CSR計画では、重点課題の一つが「健康」であり、ヘルスケア事業を通じて「健康的な社会をつくる」ことに取り組んでいます。
そして、企業理念、目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる、従業員の健康維持増進を重要な経営課題として捉え、2019年には「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定しました。グループ全体の従業員の健康増進に対する取り組みを加速させており、社会、会社、事業が共に成長していくことを目指して、健康長寿社会の実現に貢献していきます。

PROFILE

岡田 邦夫
岡田 邦夫おかだ・くにお
NPO法人健康経営研究会理事長。大阪市立大学医学部卒業後、大阪ガス産業医。その後、健康経営研究会を設立し、理事長に就任し、健康経営についてさまざまな形で啓発活動を行っている。厚生労働省、文部科学省のメンタルへルスに関する委員、経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループ委員などを歴任。著書に『「健康経営」推進ガイドブック』、『職場の健康がみえる』(監修)ほか多数。

記事公開:2023年12月
情報は公開時点のものです

* 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。