本コンテンツは、お客さまがご利用のOSまたはブラウザーへ対応しておりません。
最新のOS、ブラウザーにアップデートしてください。

押さえておきたい
「健康経営」の知識

今さら聞けない健康経営に関する基礎知識、健康リテラシーを高めるポイントを解説します。

vol.
05

健康経営を“見える化”する!
「健康経営優良法人」
「健康経営銘柄」とは。

毎年3月になるとニュースに取り上げられる、「健康経営優良法人」と
「健康経営銘柄」。これらは健康経営に取り組む企業を示す、いわば信頼の証です。
近年では、就職・転職の際の企業選びでも注目されつつあります。
できれば自分が働く会社は、健康経営に取り組む企業であってほしいという方が
多いのではないでしょうか。今回は健康経営の顕彰制度についてご紹介します。

国が後押し! 企業の健康経営を示す顕彰制度とは?

従業員が心身共に健やかに過ごせるように職場環境を整備する健康経営では、経済産業省などによる顕彰制度「健康経営優良法人認定制度」と「健康経営銘柄」が設けられ、企業をサポートしています。順番に見ていきましょう。

健康経営優良法人認定制度とは、優良な健康経営を実践している企業を顕彰する制度です。認定基準は、「経営理念・方針」「組織体制」「制度・施策実行」「評価・改善」「法令順守・リスクマネジメント」の5つで構成されています。認定には申請が必要で、毎年行われる認定の基礎情報を収集するための「健康経営度調査」へ回答すると上記の基準で評価され、その結果に基づいて健康経営優良法人に認定され、3月頃に発表されます。

健康経営優良法人の認定は、大企業等を対象とした「大規模法人部門」と中小企業等を対象とした「中小規模法人部門」に分かれます。認定された企業は、約1年間認定ロゴマークを使用し、健康経営に取り組んでいることをアピールできます。さらに上位500社は、企業規模に応じて「ホワイト500」(大規模法人部門)や、「ブライト500」(中小規模法人部門)に認定されます。それぞれの部門を詳しく見てみましょう。

・大規模法人部門
従業員とその家族だけでなくグループ会社、取引先、地域などに幅広く健康経営の考え方を普及、推進する大企業等が認定されます。社会の中でトップランナーとして、健康経営の考え方を広めていく役割が求められています。2024年は2,988法人が認定されました。
・中小規模法人部門
自社が持つ健康経営の課題に積極的に取り組み、職場環境を改善している中小企業等が認定されます。自社の取り組みを発信することで健康経営の裾野を広げると同時に、地域における健康経営の拡大に寄与する役割が求められています。2024年の認定数は、1万6,733法人でした。

健康経営の顕彰制度でもう一つ、注目を集めているのが「健康経営銘柄」です。これは東京証券取引所に上場している企業の中から、特に優れた健康経営を実践する企業を経済産業省と東京証券取引所が共同で選定するもの。健康経営銘柄も健康経営優良法人と同じく、健康経営度調査への回答結果を基にしており、ホワイト500と同様の認定要件を満たした上で、特に優れた企業が毎年選ばれます。

健康経営銘柄に選定されるのは原則1業種1社のみとなっているため、同じ業種の中で企業同士が切磋琢磨し、取り組みの平均点が上がっていく好循環のサイクルが生まれています。選定された企業には、健康経営を普及拡大していくアンバサダーとしての役割が期待されています。なお、1業種1社という制限は緩和され、現在では各業種の最高順位の企業の平均より優れている企業も選ばれることがあり、2024年は27業種53社が選定されました。

生産年齢人口減少という課題
その解決の鍵を握るのは中小企業!?

次に、こうした顕彰制度がつくられた背景を見てみましょう。これまで本連載でも触れてきましたが、日本は少子高齢化の進行によって、今後ますます生産年齢人口が減っていく見通しです。労働力の確保は政府、社会、企業が一丸となって取り組むべき問題であり、その中でも企業の果たす役割は特に重要です。この労働力不足問題に対するヒントのひとつが健康経営です。

健康経営という考え方が生まれる前から、政府は働く人々の健康問題に取り組んできましたが、それは主に顕在化した病気への対処でした。一方、健康経営は従業員が健康で生き生きと働ける環境をつくることで、労働生産性を高め企業の活力を向上させます。病気が顕在化、または発症してから対処するのではなく、病気にならないよう予防措置を講じながら、健康で長く働ける職場環境を目指すものなのです。

こうした職場環境をつくるには、企業の隅々にまで目を配る経営者の力が必要ですが、健康経営は一朝一夕にはなし得ません。そこで顕彰制度を設け、それが健康経営を目指す経営者のインセンティブになることを目指したというわけです。

健康経営推進の一環として始まった顕彰制度ですが、健康経営度調査に回答する企業数は毎年右肩上がりで増え続けています。大規模法人部門では2014年度の493社から2023年度は3,520社へと約7.1倍、中小規模法人部門では2016年度の397社から2023年度は1万7,316社へと約43.6倍に増加。また、日経平均株価を構成する225社のうち約8割、上場企業全体では約3割が回答するなど、大企業を中心に広がりを見せていますが、今後は、日本の全企業数の99.7%、従業員数の約7割を占める中小企業にも健康経営の考え方がより浸透していくことが期待されています。

健康経営顕彰制度の全体像と健康経営優良法人の広がり
【出典】経済産業省「健康経営の推進について」、「健康・医療新産業協議会第11回健康投資WG事務局説明資料」より作図

健康経営が認められた企業が手にする
メリットとは?

健康経営優良法人や健康経営銘柄に選ばれた企業には、幅広い場面でメリットがもたらされます。主なものを見てみましょう。

・従業員や就職希望者からの安心・信頼:
従業員の生産性向上や離職率の低下、採用応募者の増加、内定後辞退の減少、優秀な人財の確保、従業員の健康への意識向上など
・ビジネスパートナーからの信頼:
認定企業同士のつながり、健康経営の取り組みに対する問い合わせの増加など
・商品・サービスに対する選好:
企業イメージの向上が購買につながるなど
・金融機関や投資家からの信用・評価:
貸付利率の優遇、従業員のローン優遇、保険料の割引、株価上昇の期待など
・自治体などからの評価:
地域でのビジネスの拡大など

従業員の健康促進からスタートする健康経営は、社内外においてプラスの影響を生み出していきます。いいことずくめに見える健康経営ですが、唯一デメリットがあるとすれば、初めて申請する際、健康経営度調査の書類づくりのために担当者が多忙になってしまうことかもしれません。

しかし「認定を受ける」という目標は、自社の従業員が健康を損なうリスクや、職場環境改善の努力を「見える化」することにつながります。認定を目指す取り組みは、健康経営の実現に向けた確実な第一歩となっていくことでしょう。

健康経営優良法人や健康経営銘柄は、一度認定・選定されたら終わるものではありません。取り組みが途切れることなく実施されたことを確認し、結果を評価して改善していくことが大切です。認定の継続を目指すことが、長期的な視点で健康経営に取り組む企業姿勢を示します。毎年実施される健康経営度調査は企業の健康診断のようなもの。自社の健康課題を見据え、従業員の健康を維持・増進するために、継続的に改善し、取り組んでいくことが企業の成長につながっていくのです。

富士フイルムグループの取り組み

富士フイルムグループは、企業理念に「健康増進に貢献し、人々の生活の質のさらなる向上に寄与する」ことを掲げています。この理念を実現するための、2030年をターゲットとした中長期CSR計画では、重点課題の一つが「健康」であり、ヘルスケア事業を通じて「健康的な社会をつくる」ことに取り組んでいます。
そして、企業理念、目指す姿(ビジョン)を実践するための基盤となる、従業員の健康維持増進を重要な経営課題として捉え、2019年には「富士フイルムグループ健康経営宣言」を制定しました。グループ全体の従業員の健康増進に対する取り組みを加速させており、社会、会社、事業が共に成長していくことを目指して、健康長寿社会の実現に貢献していきます。

PROFILE

岡田 邦夫
岡田 邦夫おかだ・くにお
NPO法人健康経営研究会理事長。大阪市立大学医学部卒業後、大阪ガス産業医。その後、健康経営研究会を設立し、理事長に就任し、健康経営についてさまざまな形で啓発活動を行っている。厚生労働省、文部科学省のメンタルへルスに関する委員、経済産業省次世代ヘルスケア産業協議会健康投資ワーキンググループ委員などを歴任。著書に『「健康経営」推進ガイドブック』、『職場の健康がみえる』(監修)ほか多数。

記事公開:2024年4月
情報は公開時点のものです

* 「健康経営」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。