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Hello AI

人工知能(AI)に関するさまざまな情報をご紹介します。

vol.1 AI、ビッグデータは私たちの生活をどう変える?

今さら聞けない「人工知能」のキホン

今や「人工知能(AI:Artificial Intelligence)」というキーワードをTVやWebメディアで聞かない日はありません。注目を集めるようになったきっかけの1つは、2016年3月にGoogleの子会社であるDeepMind社が開発した「AlphaGO」がプロの囲碁棋士を破ったことにあります。この出来事をマスコミなどが報じたことで、研究者はもちろん一般の人たちからの注目を集め、現在に至っています。

しかし、この「人工知能」の研究自体は、この数年で始まったものではありません。その歴史は意外なほど古く、計算機科学の専門家らによって1956年に開かれたダートマス会議にまで遡るとされています。これ以降、言語理解や推論、画像データから特定のパターンを抽出する画像認識など、人間の“知能”と考えられる行動をコンピューターで実現すべく多くの研究が世界中で進められました。

とはいえ、当時のコンピューター性能の限界などもあり、60年代の「第1次ブーム」、80年代の「第2次ブーム」と、興隆・停滞が繰り返されました。ところが、2010年を迎え「機械学習」や「ディープラーニング(深層学習)」といった新たな手法の発達、インターネットの普及とコンピューター性能の飛躍的な向上で膨大な「ビッグデータ」を取り扱えるようになったことで、「第3のビッグウェーブ」が訪れました。

その一方で、人工知能は果たして何が実現可能で、未来の私たちの生活や仕事をどのように変えていくのかといった議論が十分に深められたとはいえません。例えば、人工知能が人間の能力を超えていく「シンギュラリティ(技術的特異点)」仮説※1のような過剰な期待や失望、「人工知能に仕事が奪われる※2」といった反発や不安は、いずれもテクノロジーに対する認識不足による部分が大きいのではないかと考えられます。

「弱いAI」がビジネスの世界を着実に変えていく

現在盛んに進められている人工知能研究は、大きく分けて2つあります。1つはまさに人間の知性そのものの正体を解き明かし、それを超えていこうとする「汎用的人工知能」で、GAI(Growing Artificial Intelligence)とも呼ばれます。もう1つは前述の碁やチェス、将棋のように、特定の条件下でその威力を発揮する「特化型人工知能」です。こちらは狭い意味でのAI(Narrow AI)とも呼ばれます。

この種類の人工知能は、哲学者のジョン・サールが提唱した「強いAI(人工知能)」「弱いAI」という概念とも対応します。「強いAI」は人間のように外界を認識し、その意味を理解したうえでの推論や判断に基づいて自律的に行動する能力を有し、“精神性”を持ち得るという立場です。漫画やSFの世界では広く用いられるモチーフです。

一方「弱いAI」は、あくまで人間がプログラムした手続き(アルゴリズム)に則って、人間の意思決定をサポートしたり、クリエイティビティを拡張したりする“道具”という立場です。実はこの「弱いAI」は、すでに私たちの生活の中にも浸透し始めています。例えば、迷惑メールを自動判別するフィルタもシンプルな人工知能ですし※3、スマートフォンのカメラが被写体の顔を認識して、自動で人物名や被写体が何であるかをタグ付けしてくれるのも人工知能による機能です。

この「弱いAI」で用いられている技術の1つが、大量のデータの中から特徴となる点を見つけ出して精度を高めていく「機械学習」です。そして、機械学習をさらに複雑化して、人間の脳のニューラルネットワークを模して学習能力を高めたものが「ディープラーニング」です。例えば、画像認識において機械学習では、あらかじめ「猫」や「リンゴ」といった学習対象の特徴点(大きな耳がある、赤色、緑色など)を教えておく必要がありますが、ディープラーニングでは「猫らしさ」「リンゴらしさ」を作る特徴点をデータの中から自ら発見していくので、時として人間よりも正確かつ高速に対象を「見分け」られるのです。

●データの「質」が人工知能の価値を左右する

このように特定の目的に限っていえば、時として人間の能力を大きく超えることもある人工知能(弱いAI)ですが、与えるデータセットの種類や質によっては、思わぬ問題を引き起こすことがあります。例えば、著作権が切れたパブリックドメインの古い画像資料を大量に読み込ませたことで、人種差別とも受け取れる検索結果を出力してしまうという出来事がありました。人工知能が、偏見を含む当時の人々の常識に基づく判断基準を学習してしまったからです。

こうした失敗事例は極端にしても、与えるデータセットによって人工知能の性能は大きく変わります。そのため人工知能開発では、「良質なデータ」をいかに収集し、価値を生み出していくかということが、とても重要になります。

例えば、長年画像解析の人工知能開発に取り組んでいる富士フイルム。特に医療分野における約80年の歴史の中で、X線画像のデジタル化をきっかけに画像の解析・認識技術に取り組み、これをCTやMRIなどの3D画像解析診断システムなどへと発展。医療現場と連携した開発を通じて、専門的で信頼性の高いデータセットを膨大に蓄積しています。
また、医薬品事業やディスプレイ材料・ファインケミカルなどの高機能材料に関する「良質なビッグデータ」も保有しています。
そんな中2018年10月、富士フイルムが開設したのが、次世代AI技術の開発拠点「Brain(s)」です。この取り組みについて、本連載ではこれから全5回でご紹介します。

※1 未来学者のレイ・カーツワイルは2045年には人工知能が人間の知的能力を超越する「シンギュラリティ(技術的特異点)」が訪れるという仮説を2005年に発表しました。

※2 2013年にオックスフォード大学のカール・フレイとマイケル・オズボーンが現在の9割の仕事がAIに取って代わられるという研究レポートを発表して話題を呼びました。しかし、冷静に考えれば技術の進歩で産業構造が変化し、仕事の種類が変わるといった事例は過去に数多くあります。

※3 弱いAIの処理能力にはいくつかのレベルがあります。迷惑メールフィルタであれば、ユーザが迷惑メールかそうでないかをトレーニングさせることで、判別の精度が高まっていくという比較的素朴な仕組みです。

記事公開:2019年1月