解決のカギは、「処理速度」でも「設置数」でもなかった!
物事を考えるときの思考の一つが論理的思考、いわゆる「ロジカルシンキング」です。Aを解決するにはBが問題、そのためにはCをしなくてはならない、というように物事をA→B→Cと順序立てて考え、解決法を導く方法です。極めて常識的で、ビジネスにおいても多用されている考え方です。
さて、自動改札機の問題をロジカルに考えた場合、次のような解決法が挙げられます。
- 自動改札機のコンピューター処理速度を上げる
- 自動改札機を増設する
「複雑な運賃計算に時間がかかる」→「今のコンピューターシステムでは処理しきれない」→「コンピューターの処理速度を上げればいい」。確かに理にかなった答えです。ただ問題は、コンピューターの処理速度を上げるのはそう簡単ではないこと。また、技術開発には、時間、労力、お金などあらゆる投資が必要です。
それでは、「自動改札機を増設する」はどうでしょう。
「複雑な運賃計算に時間がかかる」→「改札機の数が少ないと、計算の間、人を待たせてしまう」→「増設して一度にたくさんの人を通せばいい」。これも理にかなった方法です。ですが、増設するにはそれだけのスペースとお金がかかります。また、混雑する時間帯以外は、スペースが無駄になってしまうケースも考えられます。
では、開発者たちはどのようにして問題を解決したのか。
答えは、「自動改札機そのものを長くした」のです。
エドワード・デ・ボノという心理学者は、人は「思考のパターン化」が起きやすく、それはバターにお湯を垂らすようなものだと言っています。どういうことかというと、バターの上にお湯を垂らすと、バターが溶けて溝ができますよね。何度も何度もお湯を垂らすと、その溝はどんどん深くなります。その溝を深くする行為が、まさしく「勉強」や「知識」。専門であればあるほど知識の溝は深まり、その溝から容易に抜け出せなくなり、思考がパターン化してしまうのです。
今回の問題でいうと、専門家であるほど、「コンピューターシステムの処理速度」や「数」に着目し、問題解決の糸口を見出そうとする傾向があります。ですが、そもそも、自動改札機を通り抜けるための時間はどれくらい必要でしょうか。改札を抜け、ホームや出口までスムーズに人が歩けるのなら、改札機を通り抜ける時間を短くする必要はありません。それなら、自動改札機を長くして、運賃計算に必要な分だけ人を歩かせ、計算する時間を稼げばいい。そうすれば、人の流れを止めず、混雑を防ぐことができます。その結果、技術開発や設置にかかる時間、労力、お金、スペースを全て省略し、問題を解決することができたのです。