子どもが「行きたい」と言えば
親もついてくる
ことわざは、先人たちの知恵の宝庫です。古くさいと思う人もいるかもしれませんが、長く伝えられてきたことわざの中には、ラテラルシンキングに通じる深淵な教えがたくさん詰まっています。代表的なものをいくつか紹介しましょう。
ひとつは“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”ということわざです。
馬に乗っている武将に矢を射ようとしても、手綱さばきで右や左にかわされ、なかなか当たるものではありません。しかし、乗っている馬を先に射れば、武将の動きが止まるので矢を当てやすくなります。
“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”とは、このことから転じて、「相手を屈服させる、または意に従わせるようにするには、その人が頼みとするものから攻め落としていくのがよい」という教訓を言い表したことわざです。
これをマーケティングの古典的な手法に当てはめると、“親(顧客)を招かんと欲すれば、まずその子を招くべし”ということになるでしょうか。
子どもが「あそこに行きたい」と言い出したら、親は渋々でも同伴せざるを得ません。直接の見込み客である親をターゲットにするよりも、子どもをターゲットにしたほうが集客効果は高まるわけです。
それを見事に成功させたのが、あるドラッグストアです。このストアは首都圏近郊の街に1号店をオープンしました。今では誰もが知っている有名なドラッグストアチェーンですが、当時はまったく無名だったため、なかなか客が来てくれませんでした。
そこで、このストアの経営者は一計を案じました。わざわざ都内の百貨店まで出向いて猿を購入し、店の客寄せに利用することにしたのです。
当時、猿は動物園でしか見られませんでした。そのため、「あそこの店に行けば猿が見られる」と話題になり、子どもたちの間で瞬く間に広がり、子どもにせがまれた客が大勢やってくるようになりました。
猿を置いただけでも集客効果は格段に高まりましたが、さらに賢明なことに、このストアは近くの小学校に次のように申し入れました。
「当店に猿を見に来るお子さんが増えています。いたずらしたり、近づき過ぎたりすると噛まれたり引っかかれたりする恐れがあるので、必ず親御さんと一緒に来るように指導してください」
子どもに何かあったら大変なので、学校は「必ず一緒に行ってください」と親に伝えます。その結果、親子連れの客はますます増えて、ついでにたくさん買い物をしてくれるようになったのです。