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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”
ことわざに潜むラテラルシンキングの極意。

vol.10

子どもが「行きたい」と言えば
親もついてくる

ことわざは、先人たちの知恵の宝庫です。古くさいと思う人もいるかもしれませんが、長く伝えられてきたことわざの中には、ラテラルシンキングに通じる深淵な教えがたくさん詰まっています。代表的なものをいくつか紹介しましょう。

ひとつは“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”ということわざです。

馬に乗っている武将に矢を射ようとしても、手綱さばきで右や左にかわされ、なかなか当たるものではありません。しかし、乗っている馬を先に射れば、武将の動きが止まるので矢を当てやすくなります。

“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”とは、このことから転じて、「相手を屈服させる、または意に従わせるようにするには、その人が頼みとするものから攻め落としていくのがよい」という教訓を言い表したことわざです。

これをマーケティングの古典的な手法に当てはめると、“親(顧客)を招かんと欲すれば、まずその子を招くべし”ということになるでしょうか。

子どもが「あそこに行きたい」と言い出したら、親は渋々でも同伴せざるを得ません。直接の見込み客である親をターゲットにするよりも、子どもをターゲットにしたほうが集客効果は高まるわけです。

それを見事に成功させたのが、あるドラッグストアです。このストアは首都圏近郊の街に1号店をオープンしました。今では誰もが知っている有名なドラッグストアチェーンですが、当時はまったく無名だったため、なかなか客が来てくれませんでした。

そこで、このストアの経営者は一計を案じました。わざわざ都内の百貨店まで出向いて猿を購入し、店の客寄せに利用することにしたのです。

当時、猿は動物園でしか見られませんでした。そのため、「あそこの店に行けば猿が見られる」と話題になり、子どもたちの間で瞬く間に広がり、子どもにせがまれた客が大勢やってくるようになりました。

猿を置いただけでも集客効果は格段に高まりましたが、さらに賢明なことに、このストアは近くの小学校に次のように申し入れました。

「当店に猿を見に来るお子さんが増えています。いたずらしたり、近づき過ぎたりすると噛まれたり引っかかれたりする恐れがあるので、必ず親御さんと一緒に来るように指導してください」

子どもに何かあったら大変なので、学校は「必ず一緒に行ってください」と親に伝えます。その結果、親子連れの客はますます増えて、ついでにたくさん買い物をしてくれるようになったのです。

「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」。目的を果たすにはその周りから狙うほうがいいという教えだ

風船を無料で配って
子どもたちを招き寄せる

もっと手軽に、同じような集客効果が得られる方法もあります。

たとえば店先で風船を無料で配れば、それだけでも子どもたちが大勢集まってくるものです。風船なら費用はかなり安上がりに済みますし、親が一緒に来店して、ついで買いをしてくれるのなら費用対効果は十分です。

ロジカルシンキングでは、どうやって“ターゲットとする客”を招き寄せるかということに頭を使いがちですが、視点をちょっとずらして、ターゲットとは直接かかわりはないけれど、ターゲットに影響力を持つ相手を「その気」にさせたほうが、むしろ集客効果が高まることもあるわけです。

この視点をずらすという方法は、まさにラテラルシンキングであり、“将を射んと欲すれば、まず馬を射よ”ということわざは、ラテラルシンキングの極意を見事に言い表しているといえます。

また、この極意の応用編としては、IT企業などが開催する無料セミナーがあります。製品そのものを売り込むのではなく、見込み客が関心を持ちそうな「働き方改革」や「業務の“見える化”」といったテーマの無料セミナーを開催するという集客方法です。

この場合、製品を「欲しいと思ってもらう」という直接的なアプローチではなく、気になるテーマに関する解決策を提示し、「共感してもらう」というアプローチに変えることで、より多くの見込み客を招き入れることが期待できます。

次回は、“虎の威を借る狐”ということわざに隠された、ラテラルシンキングの極意について紹介します。

“ひらめき力”のポイント
ターゲットに直接訴えかけるのではなく、相手やアプローチ方法を変えてみる

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2018年4月