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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

「同じハサミでも“あること”を変えたら、
売上数が3万本から100万本に!」
その「あること」とは?

vol.2

とても便利で使いやすいのに
売上に結びつかなかったハサミ

あるメーカーが、刃が複数重なったハサミを「海苔切りバサミ」として販売しました。
料理のトッピングに使う刻み海苔を手軽に作れる、便利なハサミです。とはいえ、その限られた用途もあってか売上数は3万本ほど……。


そもそも海苔切りバサミは、一枚の海苔にたった一度ハサミを入れるだけで、重なった刃によって海苔を細かく均等に、千切りにする仕組みです。海苔以外の食材にも使えますが、料理をしない人や、あらかじめ刻まれた海苔を買う人には必要のないものともいえます。そのため、購買層がある程度限られてしまうのが欠点でした。

そんなある日、メーカーの担当者は「海苔ではなく紙を切っている」というユーザーの声を耳にします。郵便物などを捨てる際に、海苔切りバサミで郵便物を細かく切ってから捨てているというのです。

早速、そのメーカーは、海苔切りバサミを違う名称、パッケージにして、シュレッダー用のハサミとして文具用品売り場で販売することにしました。すると、個人情報の取り扱いに敏感な時代なのも相まって、100万本も売り上げるヒット商品に。


つまり、最初の問いの「あること」とは、「使い道」が答えです。


同じような例として、ティッシュペーパーが挙げられます。ティッシュペーパーは元々、アメリカのメーカーが、戦場で兵士の治療に使う脱脂綿が不足したために、代用品として製造したもの。戦後は、女性の化粧落とし用の紙として発売されました。

そんなとき、「ティッシュを鼻紙として使っている」というユーザーが現れます。当初は「鼻をかむために使うなんて」と喜ばなかったそうですが、よくよく考えてみると鼻紙は、女性だけでなく老若男女が使いますよね。そこで鼻紙用として売り出したところ、ティッシュペーパーは現代の生活に欠かせない日用品となったのです。

「想定と違う使い方でも構わない」と柔軟に対応したことで、ヒット商品につながったケースも。

偶然を見逃さない力
「セレンディピティ」

上記の2例の場合、「海苔切りバサミは海苔を切るもの」「ティッシュは傷の手当てや化粧落としに使うもの」という既成概念を捨て、別の使い道に柔軟に対応したことが、ヒット商品へと結び付きました。

そしてその既成概念を捨てたことに加えて重要な要素が、「セレンディピティ」です。


「セレンディピティ」とは、「予想外のものを発見すること」「偶然から別の価値あるものを見つけること」という意味の言葉。簡単にいうと、「偶然を見逃さないこと」です。

海苔切りバサミの例でいうと、ユーザーが別の使い方をしていることを「たまたま」耳にし、それをスルーせずに、「そうか! 海苔じゃなくて、ハガキを切ってもいいのか!」とひらめいたこと。マーケティングや販売戦略など、通常のビジネスセオリーに基づいたものではなく、たまたま耳にしたユーザーの声(セレンディピティ)をいかして、商品名や販売場所を変えたことが成功のカギとなったのです。


一見容易なことに感じる「セレンディピティ」ですが、じつは意外に難しいもの。なぜなら、人は偶然起きたことに対して「自分には関係ない」という強い思い込みがあり、深く考えず、無意識のうちにスルーしてしまう傾向があるからです。


それでは、偶然を見逃さず、「セレンディピティ」をひらめきに変えるにはどうすればよいのでしょうか。

それは、日常に起きる出来事に対して感性を豊かにし、常にアンテナを張り巡らせておくことです。忙しいからといって「それは知っている」「前に見たことがある」などと物事をやり過ごしていると、感性は鈍くなり、ひらめきや発想が生まれにくくなってしまいます。

そうならないためには、日ごろから物事に対して「これはすごいな」と感動したり、驚いたりする習慣をつけることが大切です。最初は、意識的に感動したり、驚いたりしてみるので良いのです。無理やり口に出してでも「すごいな!」と心を動かしていると、脳に自然と反応するクセがつき、ふとした出来事や偶然を見逃さず、ひらめきが生まれやすくなります。

“ひらめき力”のポイント
偶然を見逃さない
「セレンディピティ」が
新しい発想や価値をもたらす

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2017年5月