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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

最初はただの布袋だった紅茶のティーバッグ。ユーザー視点の“気づき”が普遍の機能を生んだ。

vol.4

紅茶商人も気づかなかった
驚きの使い道

1日の始まりや午後のひとときを優雅な時間にしてくれる紅茶。昔はティーポットに茶葉とお湯を入れて飲むのが作法でしたが、今では茶葉の入ったティーバッグをそのままカップに入れ、お湯を注ぐだけで楽しむことができます。今では当たり前で、普段は何気なく使っているティーバッグですが、よくよく考えてみると、生活を便利で豊かにしてくれる身近な“発明品”のひとつといえそうです。

そもそもこのティーバッグが、“偶然の産物”として生まれたといわれていることはご存じでしょうか。その発祥については諸説ありますが、ティーバッグ誕生の経緯として有力なエピソードのひとつに次のようなものがあります。

20世紀初頭、ある米国の紅茶商人がインドから輸入した新しい紅茶を世界中に広めるため、プロモーション活動を行うことになりました。

最初は紙の封筒にサンプルの茶葉を数杯分入れ、そのまま見込み客に郵送しました。ところがこの状態では、客が封筒を開けた途端、茶葉がそのままザラッとこぼれてしまいます。

「こぼれた茶葉を拾い集めてまで飲むのはごめんだ」

そんな不満の声を聞いた商人は、一計を案じ、封を二層にすることにしました。まず絹の布で作った小さな袋に茶葉を入れ、それを紙の封筒に入れて送ることにしたのです。こうすれば、客が紙の封筒を開いても茶葉は絹袋に封入された状態で出てくるので、こぼれる心配はありません。木綿よりも上質な絹の袋を選んだのは、主な見込み客が英国貴族など上流階級の人々だったからです。

おかげでプロモーション活動は大成功。ところが商人は、紅茶の評判が上がったことよりも、別のことが気になって仕方ありませんでした。じつはお茶を送ったある客から、

「茶葉を袋に入れてくれてありがとう。おかげでポットを洗うのがラクになったよ」

という感謝の手紙が寄せられたのです。
手紙によると、この客は茶葉の入った絹袋をそのままポットに入れ、お湯を注いで紅茶を楽しんだとのこと。普通に茶葉をポットに入れると、茶葉がポットの内側にこびりついて洗うのが面倒ですが、袋入りの茶葉ならそうした手間がかかりません。

紅茶商人は「そんな使い道があったのか」と驚きました。茶葉がこぼれないように内袋を付けただけなのに、内袋ごとポットに入れるとは思いも寄らなかったからです。この出来事がヒントになって、現在のティーバッグが生まれたのだといわれています。

お湯を注ぐだけで手軽に楽しめるティーバッグの紅茶。利便性の高い商品になった

思いも寄らない発想は
他人がもたらしてくれる

わたしたちは常に、“自分の常識”の枠のなかで物事を考えがちです。しかし、物事の捉え方には三者三様、十人十色の違いがあり、自分の常識が必ずしも世間一般に通じるものとは限りません。

モノの使い道についても同じです。たとえば、日本文化をまったく知らない外国人がゴマをするための「すりこぎ棒」を見たら、「これはいったい何のための棒だ? 野球のバットにしては短すぎるし、ドラムのスティックにしては太すぎる」と思うことでしょう。

この場合、外国人も“自分たちの常識”の枠に縛られてモノを見ていることになりますが、一方で日本文化をまったく知らないのですから、「ゴマをするための道具」という先入観にとらわれることなく、わたしたちが思いも寄らないような使い道を思いつくはずです。

もちろん相手が外国人でなくても、価値観や発想が異なる他人であれば、同じモノを見ても自分とは違った常識、言い換えれば“その人なりの常識”で使い道を考えることでしょう。つまり、他人のモノの見方を共有することは、自分と相手の常識の枠に気づき、互いにその枠を越えて新しい発想にたどり着こうとするきっかけとなるわけです。

ティーバッグの画期的なアイデアが生まれたのも、紅茶商人にとっては思いも寄らなかったユーザー視点のユニークな発想が、常識の枠を打ち破ってくれたからだといえます。
商品企画や商品開発において、お客さまからの声が新しい商品や使い道のヒントをもたらしてくれることは珍しくありません。できるだけ多くの声に接し、想像もしなかったようなアイデアの数々に出会うことは、ただの袋がティーバッグに生まれ変わったように、イノベーションを巻き起こす出発点にもなるといえます。

“ひらめき力”のポイント
「他人のモノの見方や感じ方」を
柔軟に受け入れることが新しい
商品や使い道のヒントになる

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2017年9月