紅茶商人も気づかなかった
驚きの使い道
1日の始まりや午後のひとときを優雅な時間にしてくれる紅茶。昔はティーポットに茶葉とお湯を入れて飲むのが作法でしたが、今では茶葉の入ったティーバッグをそのままカップに入れ、お湯を注ぐだけで楽しむことができます。今では当たり前で、普段は何気なく使っているティーバッグですが、よくよく考えてみると、生活を便利で豊かにしてくれる身近な“発明品”のひとつといえそうです。
そもそもこのティーバッグが、“偶然の産物”として生まれたといわれていることはご存じでしょうか。その発祥については諸説ありますが、ティーバッグ誕生の経緯として有力なエピソードのひとつに次のようなものがあります。
20世紀初頭、ある米国の紅茶商人がインドから輸入した新しい紅茶を世界中に広めるため、プロモーション活動を行うことになりました。
最初は紙の封筒にサンプルの茶葉を数杯分入れ、そのまま見込み客に郵送しました。ところがこの状態では、客が封筒を開けた途端、茶葉がそのままザラッとこぼれてしまいます。
「こぼれた茶葉を拾い集めてまで飲むのはごめんだ」
そんな不満の声を聞いた商人は、一計を案じ、封を二層にすることにしました。まず絹の布で作った小さな袋に茶葉を入れ、それを紙の封筒に入れて送ることにしたのです。こうすれば、客が紙の封筒を開いても茶葉は絹袋に封入された状態で出てくるので、こぼれる心配はありません。木綿よりも上質な絹の袋を選んだのは、主な見込み客が英国貴族など上流階級の人々だったからです。
おかげでプロモーション活動は大成功。ところが商人は、紅茶の評判が上がったことよりも、別のことが気になって仕方ありませんでした。じつはお茶を送ったある客から、
「茶葉を袋に入れてくれてありがとう。おかげでポットを洗うのがラクになったよ」
という感謝の手紙が寄せられたのです。
手紙によると、この客は茶葉の入った絹袋をそのままポットに入れ、お湯を注いで紅茶を楽しんだとのこと。普通に茶葉をポットに入れると、茶葉がポットの内側にこびりついて洗うのが面倒ですが、袋入りの茶葉ならそうした手間がかかりません。
紅茶商人は「そんな使い道があったのか」と驚きました。茶葉がこぼれないように内袋を付けただけなのに、内袋ごとポットに入れるとは思いも寄らなかったからです。この出来事がヒントになって、現在のティーバッグが生まれたのだといわれています。