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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

あの超ロングセラー駄菓子は、
別の商品の“くず”から生まれた!?
前提を疑えば“活かし方”が見えてくる。

vol.5

「もったいない」が新商品誕生のきっかけに

日本が世界に誇れる発明品のひとつ、インスタントラーメン。最初の商品が日本で誕生してからすでに60年近く経過し、今では世界中で年間約1,000億食ものインスタントラーメンが消費されています。

インスタントラーメンといえば袋入りやカップ入りが一般的ですが、子どものころによく食べた、あの懐かしい駄菓子を思い出す人も多いのではないでしょうか? そう、あらかじめ味付けされたインスタントラーメンを細かく砕き、小さな袋に詰めた、あのお菓子です。子どものおやつとしてだけでなく、ビールのおつまみにもぴったりなあのラーメン菓子も、インスタントラーメンが誕生した翌年に生まれ、ほぼ“還暦”を迎える超ロングセラー商品となっています。

ところでこのラーメン菓子、最初から「こんなお菓子を作りたい」という企画があって生まれたわけではなく、“偶然の産物”として産声を上げたことはご存じでしょうか?

もともと、この菓子メーカーはインスタントラーメンを製造していたのですが、その製造工程で発生する“めんくず”の処理に困っていました。短くて箸に引っ掛からない“めんくず”では、とても商品になりません。しかし、食べられるものを捨ててしまうのはもったいない。そこで同社は、この“くず”を集めて味を付けて従業員のおやつにしました。

すると、それを食べた従業員たちから「意外にイケる」という驚きの声が。硬すぎず、軟らかすぎずポリポリと心地よい食感、そして、原料である小麦粉独特の甘くて香ばしい味――。偶然とはいえ、今までに食べたことのない、まったく新しいお菓子になっていたのです。メーカーは早速、このラーメン菓子を商品化。瞬く間に大ヒット、現在でも同社を代表する看板商品となりました。「ただ捨てるのはもったいない」という思いと行動が、超ロングセラー駄菓子の誕生に結び付いたのです。

“めんくず”が大変身!? 捨てずに活かす

不便や不満を我慢しないことが、新しい商品やサービスを生む

このエピソードが教えてくれるのは、一見、不要なものでも「不要だ」と決めつけるのではなく、別の角度から活かし方を考えてみると、意味のあるものや、役立つものに生まれ変わる可能性があるということ。苦肉の策とはいえ、「捨てるのはもったいない。だったら、せめて従業員のおやつにしよう」と思い立ったことが、予想外のヒット商品に結び付いたわけです。

ラテラルシンキングで大切なのは、「決めつけ」をなくすこと。「“めんくず”は、あくまでも“くず”だ」と決めつけてしまったら、「ほかにもこんな活かし方もあるのでは?」という発想が生まれるはずはありません。セレンディピティ(偶然発見した事柄を活かす発想)は、自分たちが目の前の物事に対して抱いている前提を疑い、抽象化することによって浮かび上がってくるものです。この、①前提を疑う、②抽象化するという2つの作業は、セレンディピティを導き出すための重要なステップです。

たとえば、壊れたパソコンやスマートフォンは、普通に考えれば「ただのゴミ」ですが、今ではその基板に使われる貴金属やレアメタルなどがリサイクルできるようになっています。「ただのゴミ」どころか、実は壊れた電子製品は、資源の乏しい日本に貴重な鉱物資源をもたらしてくれる「宝の山」なのです。これも、「ただのゴミにすぎない」という前提を疑い、制約を設けずに「こんな使い道もある」「あんな活かし方もある」といろいろ考えた(抽象化した)からこそ、「基板に使われている貴金属が再利用できるんじゃないか」という発想が導き出されたといえます。

とはいえ、人間は常識にとらわれやすい生き物なので、「前提を疑う」のはなかなか難しいもの。そこでお勧めしたいのは、日常の不便や不満を感じなかったフリをせず、正直に感じることです。たとえば、朝晩の通勤の満員電車は「我慢するのが当たり前」と不満を意識下に押し込むのではなく、逆に受け入れて、「どうすれば満員電車を活かせるか?」と考えるクセを付ける。それが何事も前提を疑おうとする習慣につながり、新しい商品やサービスを生み出す力になるでしょう。

“ひらめき力”のポイント
「前提を疑う」を習慣付けるには、日常感じる不便や不満を我慢せず、どうすれば活かせるかを考える

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2017年10月