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“ひらめき力”を磨くヒント
常識にとらわれず、自由に発想する「ラテラルシンキング」。
ラテラルシンキングによって成功したエピソードをもとに、“ひらめき力”を身につけるコツをご紹介します。

家電メーカーを驚かせた
食器乾燥機のユニークで便利な使い方とは?

vol.6

用途を追加すれば
売れるチャンスも広がる

洗った食器を並べて入れておけば、熱風で乾かしてくれる食器乾燥機。自然乾燥を待つ必要がなく、乾かし終わったら、そのまま食器棚に入れるだけなので非常に便利です。

そんな食器乾燥機を、本来の用途とはまったく異なる、意外な使い方をしている人たちもいます。それは、プラモデルの愛好家です。

プラモデルの部品を貼り合わせる接着剤や、仕上げに色を付ける塗料は、乾燥するまでに時間がかかります。そこで、時間短縮のため、食器乾燥機の中にプラモデルを入れて乾かすというアイデアを思い付いた愛好家がいました。

食器乾燥機はプラモデルを入れるのにちょうどよい大きさですし、タイマーをセットすれば乾かし過ぎる心配もありません。この愛好家がインターネットで紹介したところ、またたく間に評判が広がり、プラモデル愛好家の間で食器乾燥機が売れ始めました。

この動きに気付いた一部のインターネット通販会社は、それまで家電のページに掲載していた食器乾燥機を、プラモデルの商品のページにも掲載するようになりました。新しい用途が生まれた結果、売り場が増え、販売のチャンスも広がったわけです。

もちろん、食器乾燥機を製造している家電メーカーにとって、この新たなニーズの出現は驚き以外の何ものでもありませんでした。「食器乾燥機は、食器を乾燥させるものだ」という作り手側の常識が打ち破られ、思いも寄らない使い方をされるようになったのですから、びっくりするのは当然です。

これぞまさにセレンディピティ。「偶然、別の使い方をしてみたら、意外に便利だった」という使い手の発見が、食器乾燥機に新たな可能性をもたらしたのです。 (もちろん、食器乾燥機は食器を乾燥させる目的で使用するのが正しい使い方です)

プラモデルの仕上がりを左右する塗装。食器乾燥機がなければ、数時間の自然乾燥が必要になる

あえて機能を絞り込むことも
商品のヒットにつながる

ラテラルシンキングの重要なポイントのひとつであるセレンディピティとは、「偶然の発見から、思いも寄らない発想が生まれること」「偶然から別の価値あるものを見つけること」です。

そうした偶然の発見は、あらかじめ用途を決めて製品を開発する作り手よりも、さほど商品に対する先入観のない使い手によるケースのほうが多いようです。

食器乾燥機のように最初から機能がひとつに絞り込まれてしまっている製品は、ほかの用途がなかなか浮かびにくいものですが、さまざまなユーザーの声に耳を傾ければ、思いも寄らない新たな使い方のヒントが見つかって、販売のチャンスが広がるかもしれません。

とくに単機能の製品は、ただでさえ市場が限定されてしまいがちなので、新たな用途のアイデアを採り入れながら市場を広げていくことは、大切な取り組みだといえます。

ならばいっそのこと、ひとつの製品にいろいろな機能を盛り込んで、使い手側が自由自在に使えるようにすればいいのでは? という考え方もあると思います。

しかし、何にでも使える汎用性の高い製品は、機能を絞り込んだ製品よりもむしろ売れにくくなっているのが最近の傾向です。なぜなら、現代人はあまりにも忙しすぎて、「自由に使っていい」といわれても、じっくり使い道を考える時間や精神的な余裕がないからです。

食器乾燥機をプラモデルの乾燥に使ったように、偶然、意外な用途を発見することはあるものの、日常的にはパッケージや説明書に書かれている用途のままに製品を使いたいというのが、いまどきの消費者心理です。そのほうが頭を使わなくて済みますし、商品の効果や安全性も担保されるわけですから。

こうした風潮を考えると、いまは汎用性の高い製品よりも、使う目的を絞り込んだ製品のほうが消費者に訴求しやすいといえます。

近年、「朝専用缶コーヒー」のように「〇〇専用」と用途やシチュエーションを限定した商品が売れているのは、あれこれ考えなくても、「いまならこれ」「この課題を解決するにはこれ」と機械的に商品を選べる利便性があるからです。

たとえば、子どもの健康を気にするお母さんのために「ぬいぐるみ用洗剤」や「クレヨン用洗剤」といった商品を開発するのも、ひとつのアイデアだといえるでしょう。

“ひらめき力”のポイント
商品の用途を広げるには?
使い手の“偶然の発見”をヒントに。ただし「何にでも使える商品」は売りにくい。

PROFILE

木村尚義きむら・なおよし
経営コンサルタント。ソフトウェア開発会社勤務、OAシステム販売会社、パソコンショップの立て直しなどを行い、外資系IT教育会社に転職。その後、創客営業研究所を設立。六本木ライブラリー、メンバーズコミュニティ個人事業研究会会長なども務める。著書に『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』など。

記事公開:2017年11月