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知っておきたい
医療のはなし

vol.1

コロナ禍で注目度が上昇
新たな時代を迎えた「在宅医療」とは。

コロナ禍を契機に、医療に関するニュースを目にすることが増えました。
医療資源がひっ迫する中で注目されているのが「在宅医療」です。
近年ニーズが高まる在宅医療の現場は、ITの進化などによって変化しています。

この記事では、在宅医療の歴史的背景やその現状、
在宅医療の活用によって目指されている日本社会の未来の姿を紹介します。

昔は在宅医療が当たり前だった?
「病気になったら病院へ」は1970年代から

在宅医療というと、急病人の住居に白衣の医師がやってくる「往診」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。在宅医療は「患者が生活する場所で提供される医療サービス」を指し、急病に対応する往診だけでなく、病院に通うことが困難な高齢者などのもとを定期的に訪問する訪問診療も含まれています。在宅医療には、医師だけでなく歯科医師、看護師、薬剤師、リハビリの専門職、管理栄養士など多くの医療の専門家が携わり、入院医療や外来医療と並ぶ第三の医療と位置付けられています。

ところで、私たちにとってごく当たり前になっている「病院に行く」「入院する」という行為は、昔は一般的ではありませんでした。終戦後の昭和20年代は、現在のように入院施設が整備されておらず、急病人が出たら家族が近所の医院に走り、医師に往診してもらうのが一般的でした。その後、高度経済成長の中で国民皆保険制度が導入され、救急車と救急外来が普及し、さらに画像診断や治療技術の向上に伴い、国民が気軽に医療機関を受診することができるようになったのは、1970年代になってからです。これにより1976年には医療機関で亡くなる人の割合が自宅で亡くなる人の割合を上回り、2019年には国民の72.9%が医療機関で人生の最後を迎えるようになりました。

■死亡場所の推移

死亡場所の推移
【出典】厚生労働省「令和元年 人口動態統計」より作図
※医療機関は病院と診療所を合計
※施設は介護医療院・介護老人保健施設と介護医療院、老人ホームを合計

病院のベッドから、住み慣れた自宅へ
在宅医療推進の背景とは

近年、在宅医療のニーズは高まっています。その理由の一つは、高齢化の加速です。厚生労働省によれば、日本の75歳以上の高齢者数は2025年に2,000万人を超え、2055年には全人口の25%を超えると予測されています。日本の長寿の背景には、経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でもトップクラスの多さとなった人口あたり病床数が支える、高水準の医療・介護体制があります。

一方で、高齢化による長期入院の増加が医療や介護財政を圧迫してきており、さらに少子化が重なって、医療の質を維持するための財源の確保が難しくなっています。そこで、将来の医療財源の確保と、自宅での療養を望む国民の声に応えるべく、在宅医療・介護の推進が叫ばれるようになりました。

高齢者を対象とした在宅医療や介護、福祉について国が描く将来像は、地域包括ケアシステムです。「住み慣れた地域で、自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができる」ことを目指し、自宅を中心に医療、介護、生活支援・介護予防を包括的に提供する仕組みです。病院のベッドで寝たきりになる高齢者を減らし、医療や介護に関わる拠点をシームレスに連携させることで、高齢者が真に必要とする医療サービスにつなげることを目標としています。

■地域包括ケアシステムのイメージ

地域包括ケアシステムのイメージ
【出典】厚生労働省ホームページ「地域包括ケアシステム」  より作図


厚労省によれば、在宅医療を受けた患者数は2008年から増加傾向にあり、2017年時点で約18万人と推計され、今後も増加が見込まれています。年齢別の内訳をみると、75歳以上が8割以上を占めていることから、高齢者を中心に利用が進んでいることが分かります。それに応じて、在宅療養支援を行う診療所や病院の届け出数も増加傾向にあります。

現状では、在宅医療サービスの供給量や質が患者のニーズに応えきれていない、24時間対応可能な医療体制の構築が難しい、地域によりサービスの差があるなど、さまざまな課題がありますが、在宅医療の環境の充実に向けて社会は動いているといえるでしょう。

恩恵は高齢者だけじゃない?
新たな時代を支える、未来の在宅医療とは

これまで高齢者を中心に広がってきた在宅医療に、いま新たな動きが生まれています。その一つはITによる在宅医療の高度化です。在宅医療の現場では、エコーやX線検査の装置の小型化により、自宅で受けられる検査が増えています。さらに、現場から離れた場所にいる専門医へ検査画像をスマートフォンで送付し、迅速に確認してもらうことも可能になってきました。

また、在宅医療における多職種連携をサポートするシステムも登場しています。これまで医師と患者、患者の家族と介護施設など、一対一の場面にとどまっていた情報を、医療機関・介護施設・医療従事者・患者・家族で共有することで、患者にとって最も必要なサービスを総合的に判断し、効率的に提供することができるようになります。医療や介護の現場におけるITの活用は、限られた医療資源を有効に活用するためのポイントになっていくでしょう。

ライフスタイルの多様化に伴い、時間や場所に縛られずに患者の求める医療が受けられる環境が少しずつ整いつつあります。夜間や休日に対応できる訪問診療サービスや、どこにいてもスマホの画面越しに医師の診察が受けられるオンライン診療は、コロナ禍でさらに注目を集めました。「自宅で必要なときに必要な医療を受けられる新時代」へと、日本社会は少しずつ変化しているといえるでしょう。

世界に先駆けて超高齢社会を迎える日本の在宅医療への取り組みは、人口が減少する中で豊かな社会を維持しようとする新しい挑戦といえます。長寿であることだけでなく、健康寿命の延伸が真に豊かな社会を創ります。私たち1人ひとりがいまの健康を長く維持する努力が、世界トップクラスの医療水準の維持にもつながっていきます。

富士フイルムグループの医療への取り組み

トータルヘルスケアカンパニーとして「予防」「診断」「治療」の3領域で幅広い事業を展開し、より健康的な世界を目指します。

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記事公開 2022年3月
情報は公開時点のものです