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知っておきたい
医療のはなし

vol.2

意外と知らない、「PCR検査」のシステム。
「抗原検査」「抗体検査」との違いとは。

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、頻繁に聞かれるようになった
言葉の一つが「PCR検査」です。しかし、これが具体的に何を調べ、どう判定している
検査なのかは、よく分かっていないという方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、PCR検査とは何か、「抗原検査」「抗体検査」との違いについて解説します。
検査を理解するために欠かせないキーワードもピックアップしてみました。

そもそも「PCR」って何?
PCR検査の仕組みとは

新型コロナウイルス感染症の確定診断にも使われているPCR検査。PCRとは、Polymerase Chain Reactionの略で、正式名称は「ポリメラーゼ連鎖反応法」です。PCR検査は、採取した検体に細菌やウイルスなどが含まれている場合に、その遺伝子(DNA)を増幅して検出する検査です。これにより、細菌やウイルスなどにいま、感染しているかどうかを調べることができます。

結果が出るまでには、検体からウイルスなどを抽出して不活化 し、遺伝子を取り出す作業など、複数のステップが必要になります。また、遺伝子を増幅するポリメラーゼ連鎖反応自体にも数時間かかります。新型コロナウイルスやインフルエンザウイルスの場合はRNAウイルスであるため、さらに、RNAをDNAに変換する工程も必要になります。

新型コロナウイルス感染症のPCR検査の検体採取はこれまで、専門の採取者が鼻やのどに綿棒を入れて、ぬぐい液を採取する「鼻咽頭ぬぐい液方式」が主流でした。ですがこの方法は、採取時に咳(せき)やくしゃみなどが出やすく、採取者の飛沫(ひまつ)感染リスクや専門人材の確保などが問題となっていました。

その後、自ら唾液を採取し提出する方式の「唾液を用いたPCR検査」や自ら鼻腔から検体を採取可能な「鼻腔ぬぐい液方式」が普及し、採取者の飛沫感染リスクなどの低減につながりました。唾液による検査は、従来の鼻咽頭ぬぐい液を用いた結果とほぼ同等の感度であることが厚生労働科学研究でも認められ、鼻腔ぬぐい液も鼻咽頭ぬぐい液の検出感度にはやや劣るものの有用な検体であるとして、新型コロナウイルス感染症の確定診断にも唾液や鼻腔ぬぐい液によるPCR検査が用いられています。

※熱や紫外線、薬剤などでウイルスの病原性や感染性を失わせること。

精度重視か?スピード優先か?
PCR検査と抗原検査、抗体検査の違いとは

PCR検査とあわせてよく聞くのが「抗原検査」「抗体検査」です。これらはどのような検査なのでしょうか。

抗原検査は、ウイルスを特徴づける表面のたんぱく質(抗原)を調べることで、PCR検査同様、ウイルスに現在、感染しているかどうかを調べることができます。抗原検査にはさらに、抗原の有無を調べる「抗原定性検査」と、抗原の量を調べる「抗原定量検査」の2種類があります。「定量」検査は、「定性」検査よりも精度は高いものの、PCR検査には及ばないとされています。

定性検査については、医療機関で鼻咽頭ぬぐい液を採取して検査できるほか、検査キットを薬局で入手して、自分で鼻腔ぬぐい液を採取して検査でき、判定時間も約30分と迅速に測定できるのがメリットです。ただし、検出には一定以上のウイルス量が必要になります。感染後間もない、ウイルス量の少ない時期には陰性と判定されやすく、精度は定量検査よりも劣ります。

定量検査は、定性検査より少ない量のウイルスを検出でき、精度が高いとされる検査です。ただし、専用の測定機器を用いるため、検体を検査機関に搬送して判定結果を待たなければなりません。搬送時間を除けば、判定時間は定性検査と同じ約30分で、判定に数時間かかるPCR検査よりも早く結果が分かります。

ちなみに、インフルエンザの検査では、より早く治療を開始するためにも、PCR検査や抗原定量検査よりも迅速に診断できる抗原定性検査が普及しています。鼻咽頭ぬぐい液や鼻腔ぬぐい液を採取し、約10分で結果が判明します。

次に「抗体検査」は、過去に感染していたかどうかを調べることができる検査です。現在、国内ではさまざまな抗体検査キットが流通していますが、いずれも研究用試薬であり、体外診断用医薬品として承認を得た抗体検査はありません。WHOも抗体検査については、診断を目的として用いることを推奨しておらず、疫学調査等で活用できる可能性のみを示唆しています。

■新型コロナウイルス感染症におけるPCR検査・抗原検査・抗体検査の違い

【出典】厚生労働省ホームページ「新型コロナウイルス感染症に関する検査について」  および「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)病原体検査の指針(第4版)」  より作図

PCR検査の偽陽性・偽陰性とは?
キーワードは「感度」と「特異度」

PCR検査や抗原検査などの臨床検査には、検査の正確さの指標として「感度」「特異度」といわれるものがあります。感度は「真陽性率」とも呼ばれ、真の感染者が検査で正しく陽性と判定される割合を示します。また、特異度は「真陰性率」とも呼ばれ、真の非感染者が検査で陰性と判定される割合を示します。誤って陰性となることを「偽陰性」といい、誤って陽性になることを「偽陽性」といいます。

つまり、感度の高い検査は、偽陰性となることが少ない検査です。検査の感度を上げると、偽陰性は少なくなりますが、逆に偽陽性が多くなります。特異度の高い検査は、偽陽性になることが少ない検査ですが、検査の特異度を上げると、偽陽性は少なくなるものの、逆に偽陰性が多くなります 。

このように、病気の診断に用いる臨床検査において、100%の精度の検査というのは存在しません。その中で、ウイルス中の目的の遺伝子領域を数時間で特異的に増やすことができるPCR検査は、ある程度のウイルス量があれば感度・特異度が高く、精度の高い診断ができる頼れる検査といえます。ただし、検体の採取方法や場所、感染からの経過日数などによってその正確さは変わってしまうため、その点には注意が必要です。

コロナ禍の続くいま、日々の手洗いや換気、人と安全な距離を保つなどの一人ひとりの感染予防対策は、感染拡大防止における大前提です。さらに、検査の基本的な知識なども身に付けながら、感染予防への意識を高めていきたいですね。

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記事公開 2022年4月
情報は公開時点のものです