STORY
1969年、人類初の月面着陸に成功したアポロ11号につづいて、3度目の月面着陸を目指し、月へ向かうアポロ13号。しかし、その途中、宇宙船の酸素タンクの爆発事故が発生! 酸素、水、電力の多くを失うという絶体絶命の状況の中、宇宙飛行士3人を地球へ生還させるため、地上クルーと宇宙飛行士3人の13号救出ミッションが展開する。
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映画で感じる! ものづくり
1969年、人類初の月面着陸に成功したアポロ11号につづいて、3度目の月面着陸を目指し、月へ向かうアポロ13号。しかし、その途中、宇宙船の酸素タンクの爆発事故が発生! 酸素、水、電力の多くを失うという絶体絶命の状況の中、宇宙飛行士3人を地球へ生還させるため、地上クルーと宇宙飛行士3人の13号救出ミッションが展開する。
映画「アポロ13」は、1970年に打ち上げられたアポロ13号で実際に起こった爆発事故と宇宙飛行士3人の奇跡の生還を描くヒューマン・ドラマだ。アポロ13号で人類は、宇宙開発史上初めて、宇宙空間で宇宙飛行士3人が死亡するかもしれないという危機に直面した。
奇跡と呼ばれるアポロ13号の生還劇。だが見方を変えれば、アポロ11号による月面着陸も、13号の失敗を乗り越えることができた当時のNASAという「組織」だからこそ成功したともいえる。
当時のNASAのエンジニアたちは、ほとんど20代、30代。宇宙開発そのものがまだ若い時代。その若き頭脳が結集して、宇宙飛行士3人を宇宙から生還させた。発足からわずかに10年あまりで人類を宇宙へ送り出し、月面着陸を成し遂げた当時のNASAは、失敗を恐れずチャレンジし、大胆な決断のできる組織だったのだ。
エド・ハリスが演じる、フライトディレクター(飛行管制主任)のジーン・クランツ(当時36歳)の残した「ジーン・クランツの10か条」は、リスクマネジメント、そしてプロジェクト・マネジメントを成功させるための10か条として、今でもビジネス、エンジニアリングの現場、大規模プロジェクトのマネジメント手法を語るうえでは、必ず触れられるほどに有名になっている。
1 | Be proactive | 積極的に行動せよ |
---|---|---|
2 | Take responsibility | 自ら責任を持て |
3 | Play flat-out | 目標に向かって脇目を振らず、速やかに遂行せよ |
4 | Ask questions | 分からないことは質問せよ |
5 | Test and validate all assumption | 考えられることはすべて試し、確認せよ |
6 | Write it down | メモをとれ |
7 | Don't hide mistakes | ミスを隠すな |
8 | Know your system thoroughly | 自分の仕事を熟知せよ |
9 | Think ahead | 常に先のことを考えよ |
10 | Respect your teammates | 仲間を尊重し、信頼せよ |
このように危機管理の話題で有名な本作品であるが、この映画は、第一にトム・ハンクス演じる主人公ジム・ラヴェル宇宙飛行士の話である。
ジム・ラヴェル飛行士は、当時、最も優秀な宇宙飛行士の一人だった。それは、彼がアポロ11号の予備搭乗員(バックアップクルーと呼ばれる。主搭乗員が搭乗できなくなった場合に備えて編成され、主搭乗員と同様の訓練を受けてフライトに備える)の船長であった事実が示している。すなわち、もしかしたら、全人類は、初めて月を歩いた人間の名前として、アームストロング船長でなく、ラヴェル船長の名前を記憶したかもしれないのだ。
アポロ8号では、人類で初めて月周回軌道をまわり、月の裏側を初めて見た人間となったラヴェル船長。その彼が月面を歩く機会をようやく得られたのが13号であった。だが、その彼は、結局月を歩くことはなかった。8号でも13号でも彼は、月周回軌道を回って地球に帰還する運命だったのだ。
地球から月までの距離38万キロを考えると、月周回軌道は月面からわずかに百数十キロ。42.195キロのマラソンで例えるなら、ゴール直前、十数メートルまで行って「ゴールしないで戻ってこい」と言われ、泣く泣く引き返すのに等しい。しかも二度も。これは、なんと言おうか。彼の運命としか言い表せない。
劇中、13号が月着陸を断念し、月を回って地球へ帰還することが決定する。月の裏側を通っていく宇宙船の船内で、眼下を通過していく月面を、ラヴェル船長が窓から静かに眺めているシーン。実際のフライトで、ラヴェル船長はこの時、どんな気持ちでいたのだろうか。彼のキャリアを知ってこのシーンを観返すと、単に月着陸ができなかった残念さだけではないものが伝わってくるようだ。
アポロ13号の事故について、その爆発事故の真相は、その生還のドラマと比べるとあまり語られない。事故につながった経緯をすべて書き出すことは、ここでは到底できないが、低温酸素タンクにつながれたサーモスタットの電源電圧の仕様が、設計変更時に見過ごされたことに端を発している。そして、これはアポロ13号が打ち上げられる5年も前のことである。爆発事故につながる要因はすでにここから始まっていた。この責任を誰か一人に問うことは出来ないだろう。複雑な宇宙船システムそしてミッションの成功は、多くの人間の叡智と知恵によりなっている。
エンジニアの油断に端を発する小さなミスが、ジム・ラヴェルという宇宙飛行士一人の運命を変えるし、また、逆にエンジニアの一人ひとりの小さな貢献と叡智の集合が、宇宙飛行士三人を救出する奇跡を生むのだ。
何を想定したかはどうでもいい。
何をできるかだ!
この映画は、他の宇宙映画にもお馴染みの顔が揃っている。打ち上げ直前で、バックアップにされてしまったケン・マッティングリー宇宙飛行士を演じる俳優、ゲイリー・シニーズは、「フォレスト・ガンプ」「グリーン・マイル」などでトム・ハンクスとの共演が多い。そんな彼は、2000年の宇宙SF映画「ミッション・ツゥ・マーズ」で、火星有人探査に臨む宇宙飛行士ジムを演じている。だが、ジムは映画冒頭でミッション直前に妻を失い精神を病み、宇宙ステーションに残るバックアップ宇宙飛行士になるという役、って役どころ本作と全く同じじゃないか!(笑)バックアップ宇宙飛行士が似合う俳優、ゲイリー・シニーズである。
エド・ハリスも宇宙映画に縁のある俳優。アメリカの初期の宇宙開発と宇宙飛行士たちのドラマを描いたあの「ライトスタッフ」ではマーキュリーセブンの一人であるジョン・グレンを演じている。(この原稿の執筆の最中、そのジョン・グレン宇宙飛行士の訃報に接した。享年95歳。故人のご冥福をお祈りする)
ちなみに、僕がこの映画で好きな俳優は、管制チームで電気・船内環境・司令担当主任(EECOM:イーコム)のジョン・アーロン(なんと当時27歳である!)を演じていたローレン・ディーン。なかなかカッコいい頭の切れる若手エンジニアを好演している。
1回目はドラマチックな展開を素直に楽しんで、危機管理のノウハウを学び、2回目は、ラヴェル飛行士の物語として観る。そして3回目は、宇宙飛行士の陰に隠れたエンジニアたちの仕事を思いながら見てみるのもよい。
と、いうわけで「アポロ13」は、ものづくりに関わる人なら必ず観たい一本である。
※本ページに掲載の写真はNBCユニバーサル・エンターテイメントへの許諾を得た上で使用しています。
記事公開:2017年1月