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石油に代わるエネルギー資源
「天然ガス」の今と展望。

石油に代わるエネルギー資源といわれる「天然ガス」は、
「シェールガス」「メタンハイドレード」など、種類も豊富で、
国内のニュースでも頻繁に耳にするキーワードとなりました。
そこで今回は天然ガスの特徴や現状、今後の展望について見ていきます。

NOxも少なくSOxはゼロ。
天然ガスはクリーンなエネルギー

天然ガスは、油田の随伴ガス※1や単独のガス田から生産されるガス体エネルギーの一つ。メタンが主成分になっており、常温・常圧では気体になっています。マイナス162℃まで冷却して液体化すると同時に、硫黄などの不純物を取り除いた天然ガスは、LNG(Liquefied Natural Gasの略)と呼ばれ、その体積は気体時の600分の1になるため、貯蔵に適している上に、タンカーで大量の天然ガスを輸送することもできます。

天然ガスの大きな特長は、燃焼時に温室効果ガスの一つといわれるCO2(二酸化炭素)の発生量が少ないため、地球温暖化の抑制につながること。また、酸性雨や大気汚染の原因とされるNOx(窒素酸化物)の発生量も少なく、SOx(硫黄酸化物)や、ばいじんは発生しません。化石燃料燃焼時のCO2発生量を比較してみると、石炭を100とした場合、石油が80、天然ガスは60。NOx発生量は、石炭100に対して、石油が70、天然ガスは40です。こうした特長から、化石燃料の中で環境に優しいクリーンなエネルギーとして広範囲で利用されています。

※1 油層内に原油に溶存するなどの形で存在するガスが、原油の生産に随伴して生産されるもの

二酸化炭素排出量の比較

出典:経済産業省エネルギー庁「平成21年度エネルギーに関する年次報告(エネルギー白書2010)」より作図

技術革新で注目!
可採埋蔵量の半分を占める非在来型天然ガス

天然ガスは、まず「在来型天然ガス」と「非在来型天然ガス」に分けることができます。在来型天然ガスは地下に穴を掘ると噴出する、従来通りの採掘が可能なガスで、隙間の多い岩石中の貯留層から産出されます。一方、従来とは違う方法での採掘が見込まれるものは非在来型天然ガスと呼ばれ、「タイトガス」「シェールガス」「コールベッドメタン」「メタンハイドレート」などがあります。

タイトガスは、在来型天然ガスがある地層よりも密度が高い砂岩層にたまっており、1980年代後半から米国が積極的に開発に取り組んでいます。シェールガスは、天然ガスが生成される頁岩(けつがん)層内にたまっている天然ガスです。2000年代以後、米国で新たな探鉱・開発技術を用いた開発が急速に進み、最近では他の国でも開発が始まりつつあります。コールベッドメタンは、石炭が生成される過程で発生し、そのまま石炭層に滞留した天然ガスです。1980年代後半から米国で開発が進み、現在はオーストラリアやカナダ、中国などでも開発されています。メタンハイドレートは、メタンガスが海底で氷状に固まっている物質のことで、その体積の約170倍もの天然ガスが含まれています。日本近海の海底にもメタンハイドレートが埋まっているといわれており、その量は日本のガス使用量の約100年分と見積もられています。

天然ガスの種類

出典:一般社団法人 日本ガス協会「天然ガスの種類」を参考に作図

近年の技術革新によって、従来は回収が難しいとされてきた非在来型天然ガスも効率的に採掘できるようになりました。経済的・技術的に判断して今後採取可能な天然ガスの量「可採埋蔵量」は、2017年末で約796兆m3(このうち回収の確実性がかなり高い『確認埋蔵量』は約193.5兆m3)といわれています。そのうちシェールガスが約233兆m3、タイトガスが約82兆m3、コールベッドメタンが約50兆m3で、非在来型天然ガスの合計は約365兆m3。全天然ガス可採埋蔵量の約46%を占めます※2。天然ガス全体の確認埋蔵量は、現在の技術と価格を前提にした場合、約52.6年分に相当し、今後の採掘・生産技術の進歩によりさらに増加する可能性もあります。

※2 IEA「World Energy Outlook 2017」より。確認埋蔵量はBP「Statistical Review of World Energy 2018」より

調達先を分散できる天然ガスはエネルギー安全保障上でも重要

近年、天然ガスの開発が進んでいる理由は、環境に優しいエネルギーということに加えて、その産出国にもあります。石油埋蔵量は、中東が約47.6%、北米が約32.8%で大きな偏りがあります。これに対して天然ガスの埋蔵量は、中東が約40.9%、欧州・ロシアおよびその他旧ソ連邦諸国が約32.1%、アジア大洋州が約10%と続き、石油に比べると天然ガス埋蔵量の地域的な偏りは少ないといえます※3。日本は情勢に影響されない安定したエネルギー供給を目指し、天然ガスの利用を進めているのです。

非在来型天然ガスのなかでも特に大きな資源量が見込まれているシェールガスの技術的回収可能資源量は、評価対象国合計で約214.4兆m3となっており、在来型天然ガスの確認埋蔵量よりも多いと推計されています。また、現在開発が進んでいる北米以外にも中国やアルゼンチン、アルジェリアなどに多くのシェールガス資源が存在すると報告されており、天然ガスがこれからの世界のエネルギー事情を多大に左右することは間違いありません。

※3 BP「Statistical Review of World Energy 2018」より

世界中で広く利用され、用途も拡大。
研究・開発が進む天然ガスは今後も注目!

日本の天然ガスの利用用途の約73%が発電で、産業用は約11%、民生とその他は約16%です。一方、米国や欧州のOECD加盟国では、天然ガスの発電利用はそれぞれ約38%と約28%と日本より少なく、その分産業用や民生などの利用割合が高くなっています※4。島国の日本では天然ガスを液体化したLNGの形で輸入せざるを得ませんが、実は世界全体での天然ガスの貿易量のうち、約65%はパイプラインを経由して取引されています※5。欧州諸国では、パイプラインを経由して輸送された天然ガスは気体のまま家庭用のガスエネルギーとして供給されているのです。また、2000年代の初頭にはボリビア、チリ、ブラジル、パラグアイ、アルゼンチン、ウルグアイの6カ国で天然ガスをパイプライン経由で融通する仕組みが構築され、現在もボリビアとペルーの間でパイプラインを敷設する計画が練られています。

また、天然ガスの利用範囲を広める研究・開発も同時に世界中で進展しています。実は数々の日本企業もこれに協力しています。なかでも、化学反応によって常温で液体の炭化水素製品に転換した「GTL(Gas to Liquid)」や、同様の炭化水素製品ながら常温では気体で比較的低い圧力で液化する「DME(Di-Methyl Ether)」といったものは、一部では既に商業生産が始まっています。GTLは主に輸送用の燃料として利用され、DMEは現在スプレー用のガスとして主に使われていますが、今後輸送用燃料への利用も期待されています。

今以上に研究・開発が進むと、世界的にさまざまな用途に天然ガスを利用できるようになるはずです。石油に代わる世界の重要なエネルギー資源として、ますます期待が高まっていくでしょう。

※4 IEA「World Energy Balances 2018 Edition」より
※5 BP「Statistical Review of World Energy 2018」より

記事公開:2019年10月
情報は公開時点のものです