2019年10月1日より「食品ロスの削減の推進に関する法律」が
施行されました。そこで今回は、本来食べられるはずなのに捨てられる
「食品(フード)ロス」の現状やその原因、少しでも削減しようと
行われている官民の取り組みを見ていきましょう。
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まだ食べられるのに捨てられる
「フードロス」を考える。
日本では毎日大型トラック約1,770台分!
フードロスの削減は世界共通の課題
フードロスとは「まだ食べられるのに廃棄される食品」のことを指します。まずは具体的にその量を見てみましょう。農林水産省・環境省による平成27年度の推計を見ると、日本の食品廃棄物は年間約2,842万トン※1になりますが、そのうち可食部分、すなわちフードロスの量は約646万トン。これは毎日大型(10トン)トラック約1,770台分を廃棄している計算となり、国連世界食糧計画(WFP)による食糧援助量(約320万トン)の2倍の量に相当します。
フードロスの内訳としては、規格外品・返品・売れ残り・レストランなどでの食べ残しといった事業系の廃棄物が約357万トン、食べ残し・賞味期限切れ・過剰除去※2などによる廃棄といった家庭系の廃棄物※3が約289万トンとなっています。また、国民1人あたりの年間フードロス量を計算すると約51kg。1人あたりの年間米消費量(約54kg)に相当します。
一方、わが国の食料事情を見ると、平成30年度のカロリーベース食料自給率※4が37%と、食料を海外からの輸入に大きく依存しており、また、食料が消費支出の4分の1を占めるなど家計への負担は大きくなっています。その結果、子どもの約13.9%、およそ7人に1人が貧困に苦しんでいる状況です。
また、市町村および特別地方公共団体が一般廃棄物の処理に要する経費は年間約2兆円と、多額の公的コストが投入されている状況にあります。
食品廃棄物等の発生状況〈概念図〉
もちろんフードロスは日本だけの問題ではありません。研究によると、世界全体で消費者向けに生産された食料のおよそ3分の1にあたる年間約13億トンが、生産地から消費者に至るサプライチェーン全体を通して捨てられています。
一方、飢えや栄養不足で苦しんでいる人々は全世界で約8億人、5歳未満の発育阻害は約1.5億人と言われています。世界の人口は2017年で約75億人。2050年には約97億人に増えると予想されています。フードロスの削減は、世界に課せられた重要な課題なのです。
※1 飼料等として有価で取引されるもの、脱水等による減量分を含みます。
※2 皮を厚くむいたり、脂身や筋の部分などを調理せずに捨てたりすること。
※3 食料廃棄としてフードロスと分けてカウントする場合もあります。
※4 食料自給率には熱量で換算する「カロリーベース食料自給率」と、金額で換算する「生産額ベース食料自給率」があります。なお、日本の生産額ベース食料自給率は66%、どちらも長期的に低下傾向です。
日本の慣習がフードロスに?
発生する原因・仕組みとは?
前述したように日本のカロリーベース食料自給率は37%にすぎません。国内の生産だけでは食料が足りていないにもかかわらず、大量のフードロスを生み出してしまっているのはなぜでしょうか。
これにはいくつかの理由が複合的に絡まっています。例えば、日本の食品業界には1990年代から「3分の1ルール」という商慣習が定着しています。これは製造・卸、小売、消費者の3者が賞味期間を「3分の1」ずつ分け合うという考え方です。仮にある食品の製造日が1月1日、賞味期限が7月1日だとすると、製造・卸でストックできるのは3月1日の納品期限まで、小売店がストックしたり棚に陳列したりできるのは5月1日の販売期限までとなり、納品期限を過ぎた食品などは廃棄処分となります。このルールが、フードロスを発生させる理由の一つになっています。
欧米にも同様のルールはありますが、製造・卸が小売店に納品するまでの期間は米国で「2分の1」、欧州で「3分の2」、イギリスでは「4分の3」が一般的となっており日本は特に短いため、フードロスがより発生しやすい構造になっているのです。
コンビニや大手スーパーなど小売店では納品期限を緩和し「2分の1」ルールを採用するほか、賞味期限の表示によってフードロスが増えるのを防止するため、製造側で賞味期限を延長したり、表示を年月のみにしたりするなどの変化も出てきています。
とはいえ、問題になるのは3分の1ルールだけではありません。大量受注があった際に在庫がなければ卸にペナルティーが課せられるという商慣習や、小売店にとって欠品は機会損失にほかならないため商品を多めに仕入れざるを得ない、という事情もあります。劇的な改善には時間がかかりそうです。
3分の1ルールのイメージ(賞味期限6カ月の例)
外食業界の食べ残しも大きな問題です。パーティーや宴会などでお皿にまだ食べ物が残っているにもかかわらず帰る準備をした経験のある人も多いのではないでしょうか。もちろん、こうして残った料理はすべて廃棄処分になります。それに対し全国の自治会では、出された料理を残さず食べる「食べきり運動」や、宴会の開始30分と、ラスト10分は料理を食べることに専念する時間にする「30・10運動」をはじめとするフードロスを減らすための運動が広がっています。
このようにフードロスを減らすためには、生産者や流通業者はルールや商慣習を変える、消費者側は「必要な量だけ購入」して「食べきる」という意識を持つなど、双方の姿勢に根本的な見直しが必要となっているのです。
新たなビジネススタイルや新技術で
フードロス削減へ!
これまでのルールや慣習の改革だけではなく、食品を無駄にしないための新しいビジネスの形や新技術の活用法も出てきています。いくつか紹介していきましょう。
食品の製造工程で出る規格外品や、製造後に一定期間が経過し、食品衛生上の問題はないものの商品として通常の販売が困難となったものなどを引き取り、福祉施設などへ無料で提供する「フードバンク」が登場しています。さらに、小売店や飲食店と消費者やフードバンクのような団体をスマートフォンのアプリなどを使ってマッチングし、飲食可能でありながら廃棄される可能性がある調理品・食料品を提供する「フードシェアリングサービス」などが登場しています。
「ダイナミックプライシング」とは、同じ商品やサービスであっても状況に応じて細かく価格を変動させる仕組みです。ホテルや飛行機などでは以前から導入されていましたが、電子タグやIoTを活用し、賞味期限に近づくにつれて価格を下げていくことによってフードロスの削減に貢献するといった使い方も検討されています。
食品の容器包装にもこれまでとは違った機能が求められています。結露を防止し湿度を保持して青果物が損傷することを防ぐ、食べきりやすいような小分けの包装にする、開口部分の改良などで気密性を上げ賞味期限を延ばす、内容物がパッケージに付着して無駄にならないよう分離性の高い素材を使うなど、食品の種類によってさまざまな手法で取り組みが行われています。
こうして、フードロスの削減に向けて社会が本格的に動き出しました。次世代へ持続可能な社会を目指し、私たちが意識的にこの動きに注目し参加することが大切です。
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記事公開:2019年11月
情報は公開時点のものです