高齢化社会において適切な医療は最重要事項といえるでしょう。
なかでも薬の多剤服用による問題は、2018年に厚生労働省が
「高齢者の医薬品適正使用の指針」というガイドラインを出すなど、
危機感が高まりつつあります。今回はそのなかでも
「ポリファーマシー」と呼ばれる問題に注目してみましょう。
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個人の健康、そして国の財政も追い詰める
「ポリファーマシー」問題とは?
6種類以上の薬が処方されると起きやすい?
人々の健康を脅かす「ポリファーマシー」とは?
「ポリファーマシー」とは、「Poly(多くの)」+「Pharmacy(薬)」で「多くの薬」という意味です。これは単に多くの薬を服用している状態を指すわけではなく、必要以上の薬を服用することによって「有害事象」が起きてしまった状態を意味しています。有害事象とは、薬物を投与された患者に生じたあらゆる好ましくない兆候、症状、または病気のことです。薬物との因果関係がはっきりしないものも含めるので、いわゆる「副作用」とは言えない、ベッドから落ちてけがをする、などの事故も含まれます。
こうした有害事象は、出されている薬の数に比例して増加する傾向があり、特に6種類以上の薬を処方されている場合に発生することが多いというデータも日本老年医学会から発表されています。そのためポリファーマシーは、多くの薬を処方される傾向にある高齢者に多くなっているのです。実際に処方されている薬の数を調査したデータでは、75歳以上の高齢者の場合、7種類以上の薬が出されている人の割合が院内処方で約19.8%、院外処方で約24.2%となっており、いかに多くの人がポリファーマシーの危険性にさらされているかがわかります。
院内処方 – 院外処方別にみた年齢階級・薬剤種類数階級別の件数の構成割合(平成30年6月審査分)
自己判断で薬の量を減らすのも危険。
人ごとでは済まされない、ポリファーマシーの原因
ポリファーマシーが発生する原因はいくつかあります。例えば、新たな病状が加わるたびに新たな医療機関を受診していると、それぞれの医療機関で2、3剤程度の処方だったとしても、服用数が積み重なりポリファーマシーとなることがあります。また、内服中の薬による副作用を新たな問題と誤認してしまい、別の医療機関でその症状を抑えるための薬を処方してもらう、という悪循環に陥る例もあります。これは「処方カスケード」と呼ばれます。
さらに、患者が処方された薬を残してしまうケースもあります。1日何種類もの薬を何度も飲まなくてはならない患者が、その負担から勝手に薬の量を減らしたり、飲むのをやめたりしてしまう場合です。この状態は「服薬アドヒアランスの低下」と呼ばれます。「服薬アドヒアランス」とは、患者自身が自分の病気を受け入れ、医師の指示に従って積極的に薬を用いた治療を受けること。服薬アドヒアランスの低下は治療効果の低下を招きますが、医師は、薬を正しく服用していることを前提として診療を行います。そのため、医師は症状が改善しない原因は薬が効いていないためと判断し、さらに薬を処方してしまうことがあるのです。これもポリファーマシーの一因です。
ポリファーマシーは、どのような原因で起こるにせよ、患者にとって好ましいことではありませんが、個人の健康を脅かすだけにはとどまらない問題でもあります。年間およそ500億円もの「残薬」、つまり「飲み残しの薬」が発生しているという厚生労働省の推算データもあるように、過剰に処方された薬は医療費増加の一因となり、政府の財政をも圧迫しているのです。
ポリファーマシーを防げ! 広がりつつある取り組み
厚生労働省は、ポリファーマシーをはじめ高齢者が医薬品を使用する際に起こるさまざまな問題を改善するため、2018年5月、主に医療機関を対象に「高齢者の医薬品適正使用の指針」というガイドラインをまとめました。
このなかでは、不要な薬の処方を減らす必要性や、その具体的な方法として、かかりつけ医による薬剤処方状況や服用管理能力の把握、薬局による調剤と医薬品情報の一元管理、腎機能等の生理機能のモニター、非薬物療法への移行、減薬や代替薬への変更など、薬剤処方の適正化やその際の注意点などが示されました。
また、処方の見直しだけではなく患者が飲みやすいよう1回に飲む薬をまとめる「一包化」や、薬を飲むタイミングをまとめた「服薬カレンダー」の使用などさまざまな工夫が、薬を飲む患者の服薬アドヒアランス向上策として提案されています。実際に、医師を中心に薬剤師、看護師、社会福祉士などがチームとなり、ポリファーマシーの解決に向けて活動を行う「ポリファーマシー外来」を設けている医療機関もあります。
とはいえ、いくら制度が整ったとしても、患者自身が勝手な判断で薬を減らしたり中止したりすると、症状の悪化やさらなるポリファーマシーにもつながりかねません。お薬手帳やかかりつけ医、かかりつけ薬剤師などの制度を利用し、気軽に相談できるようにしておくことが大事なのです。
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記事公開:2019年12月
情報は公開時点のものです