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サラサラもドロドロも自由自在!?
不思議な液体「MR流体」とは?

先進国を中心に少子高齢化が進む中、人と一緒に働くロボットや
自動運転車などの力や動きを高精度に制御できる材料として今注目
されているのが、「MR流体(磁気粘性流体)」と呼ばれるものです。
これは、磁力を加えると粘度が変わる不思議な液体。
この原理はどんなもので、注目されているのはなぜなのでしょうか。
今回は、MR流体について解説していきましょう。

磁石の力で硬くなる?
MR流体とは

MR流体とは、「Magneto Rheological Fluid」の略で、日本語では、「磁気粘性流体」と言います。油や水などの液体に、直径1~10㎛(マイクロメートル)※1の強磁性体の微粒子を均一に分散させたものです。強磁性体とは外から磁力を加えると磁気を強く帯びる材料のこと。MR流体では鉄などが使われます。

MR流体の特徴は、外部から磁場を加えることで、液体の粘度などを制御できることです。外部からコイルに電流を流して磁場を発生させることで、通常は液体中に分散している強磁性体の微粒子が磁化(磁気を帯びて、磁石になること)して互いに引きつけ合い、図のような鎖状のクラスター(かたまり)を形成します。クラスターは、磁場が強くなればなるほど大きく強固になります。

MR流体は、磁場が発生していないと応力や粘度の低い液体状態にありますが、磁場の強さに応じて応力や粘度が高まり、半固体状態になります。応力とは、外部からの力に対する物体の抵抗力のこと、粘度とは、液体(流体)の流れにくさのことです。簡単に言えば、液体の硬さと考えればよいでしょう。「流動抵抗」と呼ばれることもあります。

つまりMR流体は、磁場の強さ、ないしコイルに流す電流の強さに応じて、液体から半固体へ変化し、逆に、半固体から液体へと自由自在に液体の硬さを変化させることができる材料なのです。しかも、電流の調整次第で、瞬時に大きく変化させることも、なめらかに変化させることもできます。そのため、応答速度が数ミリ秒※2単位と速く、ロボットなどを高精度に制御することができるというわけです。

MR流体の仕組み
磁力をかけていないMR流体
磁力をかけていないと液状。
磁力をかけたMR流体
磁石を近づけると瞬時に固まる。

※1 1μm(マイクロメートル)は1mの100万分の1
※2 ミリ秒とは、1秒の1000分の1(0.001秒)のこと

MR流体って「磁性流体」とはどう違う?

MR流体と似た材料に、「磁性流体」があります。MR流体よりも磁性流体の方が身近なところで使われているため、ご存じの方が多いかもしれません。

磁性流体もMR流体同様に、油や水などの液体に強磁性体の微粒子を混ぜたものです。MR流体と大きく異なる点は、この強磁性体の微粒子の大きさです。MR流体の微粒子の直径が数㎛なのに対し、磁性流体の微粒子の直径は、数nm(ナノメートル)と約1000分の1。微粒子を通り越して、超微粒子と呼ばれる小ささです。

この小ささのため、磁性流体は、磁場をかけても半固体にはならず、液体の状態を保ちます。強磁性をもった液体のようなふるまいをするのです。

磁性流体が初めて実用化されたのは、1960年代のことでした。NASA(アメリカ航空宇宙局)が、宇宙服の可動部のシール材や液体輸送用ポンプに使用する目的で研究開発したのが最初です。現在、磁性流体は、オーディオスピーカー、各種センサーなど、身近な物にも幅広く使われています。

MR流体と磁性流体の違い

このように、MR流体と磁性流体は、基本的な原理は同じですが、性質や機能が異なるため、用途がかなり異なります。

MR流体が注目されているのはなぜ?
MR流体が使われる未来とは

近年注目され始めているMR流体ですが、実はすでに、自動車分野では一部実用化されています。MR流体が使われているものとしては、例えば、ショックアブソーバーと呼ばれる振動制御装置があります。

従来のショックアブソーバーは、油で満たされたシリンダーの内部をピストンロッドと呼ばれるもので2つの部屋に仕切っています。ピストンロッドを上げ下げすることで、内部の油が2つの部屋を行き来する際に発生する油の流動抵抗を利用し、自動車の振動や衝撃を抑制しています。

対して、MR 流体を使ったショックアブソーバーは、内部にあるコイルに送る電流を制御することによって、MR流体の流動抵抗を変えています。振動に応じ、高精度に、リアルタイムで減衰力の制御を行うことができるのです。この技術は自動車のほか、吊り橋のワイヤー振動装置や、ビルなどの建造物の免震装置などにも搭載され、実用化されています。

そして、さらに、MR流体の特徴を生かせる新たな分野として注目されているのが、応答速度の速さや高精度な制御、人の動きへの高い追従性が強く求められるサービスロボットやパーソナルモビリティへの応用です。また、開発が進む自動運転の分野でもMR流体の有用性が注目されています。

加えて、人手不足が深刻化している飲食業界においては、現在、ロボットアームを用いた調理ロボットや、食器の洗浄ロボットなどの導入が進められていますが、ロボットアームにMR流体を導入することで、例えば、卵を割らないように持つなど食材の種類に応じてつかむ力を柔軟に変えることができるようになり、ロボットアームを人の腕や手の動きにより近づけることができるようになります。この技術が普及していけば、社会の抱える問題を解決する手段の一つともなり得るでしょう。

今後、ロボットに限らず、自動車や建造物など幅広い分野において、新たな制御方法として、MR流体への需要が高まっていくことが期待されているのです。

記事公開:2020年8月
情報は公開時点のものです