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社会の安全・安心を縁の下で支える
「試薬」ってどんなもの?

現在、新型コロナウイルス感染症の治療薬開発という話題は、
日々ニュースなどで聞くところです。
そこで時折「試薬」という言葉を耳にすることはないでしょうか。
これは「薬」とはいうものの、実は病気やけがなど人間を
治療するものとは異なります。
そこで今回は、試薬の定義や種類、特徴などを解説します。

学校の実験から最新技術開発まで
試薬の用途は多種多様!

試薬は、私たちが病気やけがをしたときに、飲んだり塗ったりする薬ではありません。これは「試験研究用薬品」のことで、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化学物質規制法)では「化学的方法による物質の検出もしくは定量、物質の合成の実験または物理的特性の測定のために使用される化学物質」と定義されています。

さらに試薬は、その用途から一般の工業薬品とは異なる品質や供給形態が求められます。一般社団法人日本試薬協会では、その点をふまえ一般的な試薬の概念を「検査、試験、研究、実験など試験・研究的な場合において、測定基準、物質の検出・確認、定量、分離・精製、合成実験、物性測定などに用いられるものであって、それぞれの使用目的に応じた品質が保証され、少量使用に適した供給形態の化学薬品」としており、工業薬品との違いをより明確にしています。

これらの定義を見ただけでは日常には縁がないものと思うかもしれませんが、実は試薬は、私たちの生活に関するさまざまな物事に使われています。医薬品などの開発に加えて、住宅などの建築物の材料、家具や家電などの部品、食べ物に含まれる添加物や農薬、飲料水、公園や畑などの土、ゴミ処理施設から排出される煙といった私たちの生活に関わる多くのものが、安全かどうか調べる役割も果たしているのです。

多くの人が自分で扱う試薬といえば、学校の実験で使う薬品です。また、変わったところでは、科学捜査や半導体の製造業で洗浄を含む製造工程などでも試薬は使われています。

6つの分類でわかる、試薬の幅広さ

試薬は多彩な用途に使われるため、その種類も非常に豊富です。化学物質という観点では、大きく無機化合物と有機化合物のふたつに分けられ、それぞれ無機試薬と有機試薬と呼ばれます。また、日本試薬協会では、用途や品質に応じて6つに分類しています。

一般社団法人日本試薬協会による試薬の6分類
出典:一般社団法人日本試薬協会「試薬の種類」より作図

まず「一般用試薬」です。学校の実験で使われるのも一般用試薬で、用途は限定されていません。JIS規格に加えて各試薬メーカー独自の規格もあり、品質水準に応じ「特級」や「1級」、「GR」、「EP」などの等級に分けられているのが一般的です。

2つ目が、使用目的に最も適した品質に調製された「特定用途試薬」です。機器分析用試薬をはじめ、有害物質および環境汚染物質測定用試薬、有機合成用試薬などがあります。続いて「標準物質・標準液類」は、分析値の基準になる試薬で、化学分析での検量線※1作成や機器の校正※2などに使われています。

「生化学用試薬」は、生化学試験や微生物試験などに使われます。これらの試験は内容が多岐にわたるため、生化学用試薬の範囲も極めて広いのが特徴です。さらに近年の遺伝子工学の発達に伴い、新しい試薬も多数開発されています。

5つ目は、血液や尿、胃酸など人由来の試料の検査に使われる「臨床検査用試薬」です。生化学用試薬の一種ですが、厚生労働省の通達により体外診断用医薬品として医薬品医療機器等法の規制を受けるため、別に分類されています。

最後が、「その他」に分類される高純度試薬。これは主に先端分野試験研究の過程などで必要とされる、高純度の特定用途試薬です。近年のエレクトロニクスやバイオテクノロジーなどの先端分野では、試験研究の過程で多くの特定用途試薬が必要になります。そうした工業技術の進歩に伴って、高純度試薬のニーズも拡大しています。

※1 物質・物理的影響などの量、濃度もしくは活性などを求める定量的実験・検査で用いるグラフ
※2 機器が示す値と真の値の関係を求め、目盛りの補正などを行うこと

試薬の生産には、厳格な品質管理が絶対条件!

試薬は、用途がさまざまであることから、主に3つの特徴があります。

第一の特徴は、その生産形態。同じ薬品名の物質でも機械分析用や一般分析用、合成用など規格が異なる製品があり少量多品種型になっています。各試薬業者が扱う試薬の品種はなんと数万種。日常的に流通しているのは数千種ながら、商品の種類は十数万種と言われています。

また、試験研究などでは1回の使用量が限定されているため、生産単位(ロット)は一般的な工業製品よりもはるかに少量です。試薬の中では取扱量が大きい塩酸でも、1ロットは多くて2000kg程度。少ないものだと1ロットがmg単位で、数年に一度しか作らないというものもあります。

第二の特徴は、高度に品質管理されていることです。使用者から試薬に求められているものには、単なる純度の高さだけでなく、濃度や比旋光度※3などの特性値、性能といった多くの項目があり、試験研究や検査、測定などの障害になる不純物の濃度も厳格に決められています。また、用途が実験、検査、試験といった厳密な結果を求めるもののため、試薬には生産時期にかかわらず均一の品質が求められており、原材料の管理から仕込みや結晶化、精製、小分けなどの各工程でも精密に管理されています。

最後の特徴が、その品質の内容が容器や取扱説明書などに明示されていることです。試薬の種類によって必要な試験の項目と、その規格値を記載した品質表示(品質表)がなされています。また、品質表示に加えて法律に基づく表示や等級、ロット番号、製造年月日なども記載されています。

なお、試薬の容器は、一般的に500g(もしくは500ml)または25g(もしくは25ml)のものがほとんどです。この他には、100mg、1g、50g、100g、15kg、25kg、1L、3L、18Lなどがあり、包装単位が小さいことも特徴。さらに包装や容器は、ガラスや合成樹脂、金属などから試薬の性状に適した材質のものを選ぶなど、貯蔵中に品質が変化しないように配慮されています。

このように高品質で高度に管理された試薬は、いろいろな場面で利用され、私たちの安全・安心な暮らしを縁の下で支えているのです。

※3 ある物質に直線偏光を通過させたとき、物質がその偏光面を左右いずれかに回転させる性質の程度を表わす尺度

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  1. 試薬
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記事公開:2020年12月
情報は公開時点のものです