2021年11月1日から13日まで、197の国と地域が英グラスゴーに集結し、
地球温暖化防止について話し合う国際会議「COP26」が開催されました。
この会議でどんな議論が進んだのか、「人類のターニング・ポイント
(turning point for humanity)」とまで呼ばれた理由、そして実際に
決定したことなどを解説します。
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人類の分岐点になった?!
「COP26」が注目された理由とは。
温暖化の原因をついに断定、
主要国の首脳も参加したCOP26
2021年8月、地球温暖化に関する非常に重要な報告書が世間を騒がせました。その報告書とは、「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC: Intergovernmental Panel on Climate Change)による第6次評価報告書(AR6)です。
AR6は「人間の活動が地球温暖化を引き起こしたことに『疑う余地がない』」と表現し、歴代の報告書の中で初めて、温暖化の原因が人間の活動だと断定。同時に、大気中のCO2濃度が産業革命以前の水準の2倍になったときの気温上昇は2.6~4.1℃(誤差1.5℃)で、最も確からしいのは3℃と予測しています。CO2濃度2倍時の気温の上昇幅を1.5~4.6℃としていた従来の予想を精緻化し、より危機感が高まる結果を提示したことになりました。
さらに、2021年10月26日、COP26の開催を目前にして、国連環境計画(UNEP)は、もともと各国が定めていた温室効果ガスの削減目標を達成しても、今世紀末には産業革命前から気温が2.7℃上がるとする報告書を公表。本来目指されてきた「1.5℃以下の上昇に抑える」という目標より大きく離れることから、COP26は、世界の大きな関心をもって開催されました。
そもそもCOPとは「Conference of the Parties(締約国会議)」の略。「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」の締約国が、地球温暖化を防ぐための枠組みを議論する国際会議のこと。その26回目がCOP26です。
COPは政府間交渉の会議で事務的協議が中心のため、通常は担当大臣や関連省庁の関係者、専門機関等の関係者などが出席します。しかし、COP26では「パリ協定」が採択された2015年のCOP21以来6年ぶりに、世界各国の首脳が一堂に会することになりました。
地球温暖化への危機意識から生まれたCOP
その歴史と第26回の主テーマは?
COPは、地球温暖化による悪影響を防止するための国際的な枠組みを定めたUNFCCCの最高意思決定機関と位置づけられ、年1回開催されています。
ここで気候変動に関する国際的な取り組みの歴史について、簡単にご紹介しておきましょう。
地球温暖化は、1970年代、科学者の間で深刻な問題として浮上しました。そして1985年、オーストリア・フィラハで地球温暖化に関する初めての世界会議が開かれ、危機感が国際的に共有されます。
これを受けて、1988年、UNEPと世界気象機関(WMO)がIPCCを設立。人為起源による気候変化、影響、適応・緩和方策などについて、科学的、技術的、社会経済学的な見地から包括的な評価を行ってきました。
このIPCCの報告などにより、気候変動には国際的な取り組みが必要との認識が広がり、1992年の国連環境開発会議(地球サミット)で155カ国がUNFCCCに署名。最終的に197カ国・機関が同条約を締結、1994年に発効しました。
COPは1995年からほぼ毎年開催され、1997年のCOP3(京都)では先進国に温室効果ガスの削減を義務づけた「京都議定書」を採択。2015年のCOP21(フランス・パリ)では京都議定書に代わる「パリ協定」がまとまり、産業革命前と比べて気温の上昇幅について、2℃未満、できれば1.5℃に抑えることを目指すこととなりました。
今回のCOP26では、各国が設けた2030年までの削減目標の引き上げや、脱石炭火力発電が議題になりました。また、複数の国が協力して排出量を減らすと定めた「パリ協定6条」をめぐり、炭素市場やカーボンオフセットも含めた具体的な実施ルールの合意や、先進国と途上国間での排出量取引など、温暖化防止の市場メカニズムについても話し合われました。
COP26の成果と課題とは?
国益をめぐり温度差も
COP26では、日・米・EUなどの先進国は2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を相次いで発表しています。また、首脳級会合などでは次のようなさまざまな合意や声明が発表されました。主な目標や合意は、以下のようなものです。
- 日本や米国など100カ国超が、2030年までに温室効果ガスの吸収源となる森林の減少を食い止め、回復させる共同宣言に署名(署名各国の森林面積合計は世界の約85%)
- 米国など12カ国が、途上国での森林火災対策や荒廃した土地の回復などのため、2025年までに120億ドル(約1兆4000億円)を提供すると表明
- 米国、EUなどの100以上の国と地域が、メタンの排出量を2030年までに、2020年比3割削減することで合意
- インドネシア、ポーランド、ベトナムを含む23カ国が、石炭火力発電廃止と新たな石炭火力発電所の建設停止に合意(日、米、豪、中、印は不参加)
さらに、日本は以下のような内容を主な取り組みとして表明しました。
- 2050年までのカーボンニュートラル
- 途中経過に当たる2030年度に温室効果ガスの排出を2013年度比46%削減(従来は26%削減)
- 途上国の脱炭素化に最大100億ドル(約1兆1400億円)の追加支援
- 温室効果ガス排出量削減の新たな国際的な取引(二国間クレジット制度)ルールに関する独自案の提示
COPでの最終的議決は全会一致が原則ですが、約200もの国と地域の利益を調整することはなかなか難しく、これまでも結論がまとまらずに紛糾したことは少なくありません。COP26も、開催期間を本来より1日延長。11月13日夜(日本時間14日早朝)、成果文書「グラスゴー気候合意」を採択しました。これは、2100年の世界平均気温の上昇を、産業革命前に比べて1.5℃以内に抑える努力を改めて追求することが盛り込まれたものです。
「グラスゴー気候合意」採択で最後まで交渉の議題となったのは、脱石炭火力についてでした。石炭火力削減は本来COPの議題ではありませんでしたが、脱石炭が大きなうねりとなっていることや、削減が各国の自主削減目標(NDC)の上乗せにつながること、議長国の英国がいち早く脱石炭を進めていることなどから協議のテーブルに上りました。
日本は、総発電量に占める石炭火力の割合を、2019年度の32%から2030年度には19%へ下げる計画ですが、それでも先進国の中では依存度が高く、対策の弱さを指摘されています。石炭火力は環境負荷・ビジネス的リスクともに高いことは確かです。一方で現在のところ、石炭は安定供給や経済性の面では優れたエネルギー源であることは否めません。
また、高コストの再生可能エネルギーだけでは、多くの国で需給バランスをコントロールしがたいという事情もあります。「グラスゴー気候合意」でも、当初は石炭火力発電の「段階的に廃止」という表現になっていた部分が、中国、インドからの反発により「段階的に削減」と表現を弱められました。
COP26で各国は脱炭素目標を引き上げ、これが実際に達成された場合の気温上昇は、1.8℃に抑えられるだろうと国際エネルギー機関(IEA)のファティ・ビロル事務局長は述べています。これはCOP26前に発表された気温上昇予想の2.7℃を下回りますが、これでもまだパリ協定のときから掲げてきた努力目標の1.5℃には届きません。
先述のAR6では、猛暑や大雨などの「極端現象」は人間活動の影響で明確に増えていることが発表されました。さらに、気象庁気象研究所などによるシミュレーションでは、平均気温が1℃上がると日本国内の猛暑日は1.8倍増えるという結果も出ています。COP26での協議が、私たち自身の未来に直結していることは明らかです。
一人ひとりの小さな行動でも、未来をよりよい方向に動かせるかもしれません。今、この瞬間から何ができるか、誰もが真剣に考えるべきときのようです。
富士フイルムのサステナビリティ(CSR)の取り組み
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- サステナブル社会の実現に向けて
- 富士フイルムグループは、持続的に発展していくための経営の根幹をなす計画として、2030年度をゴールとするCSR計画「Sustainable Value Plan 2030」を策定しています。
- CSR計画
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- 国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟
- 2019年4月 富士フイルムホールディングスは、事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーとすることを目指す国際的なイニシアチブ「RE100」に加盟しました。2050年度までに、すべての購入電力の再生可能エネルギー由来電力への転換と、当社が使用するすべてのエネルギーでのCO2排出量ゼロを目指します。
記事公開:2021年11月
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