産業の中核を担うことから「産業のコメ」とも言われる半導体集積回路(以下、半導体)。
スマートフォン、パソコン、家電、自動車など、あらゆる製品やサービスに利用され、
私たちの生活は半導体なしには成り立たなくなっています。
その意味で半導体は、今や「社会のコメ」になったとも言えるでしょう。
1959年、米国でのIC(集積回路)の発明から始まったその歴史は、以降、絶え間ない
高性能化の歴史でした。そして、その高性能化実現のカギを握ってきた材料の一つが、
「フォトレジスト」です。今回は、フォトレジストについて解説していきましょう。
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今や「社会のコメ」になった半導体。
その製造に欠かせない「フォトレジスト」とは。
快適で豊かな暮らしに欠かせない半導体
供給が追いつかず世界的に不足
このところ「半導体不足」という言葉をよく耳にしますね。今回は、その半導体づくりに欠かせない材料の一つ、「フォトレジスト」についてご紹介します。
ところで、「半導体」とは本来、電気を通す「導体」と、電気を通さない「絶縁体」との中間の性質を持つ物質(シリコンなど)のことなんです。ニュースなどで見聞きする「半導体」は、その物質の表面に、微細で複雑な電子回路を形成した「半導体集積回路」のこと。今は「半導体」と省略して表記するのが一般的ですので、この記事でもそれに倣います。
一つの半導体の大きさは、数mm~10数mm角。そこにトランジスタや抵抗、コンデンサなどのさまざまな素子を組み合わせて電子回路をつくることで、データの演算や転送、記憶保持など、用途に応じた機能を持たせることができます。今では、パソコンはもちろん、スマートフォン、各種家電、自動車や航空機など、あらゆるモノに搭載されていると言っても過言ではありません。さらに、交通や金融、電気・ガス・水道などの社会インフラのシステムにも利用され、私たちの暮らしはもはや半導体なしには成り立たなくなっています。
こうしたことから半導体の需要は増え続ける一方で、世界半導体市場統計(WSTS)によるとその市場は2021年に前年比26.2%増の高成長を遂げ、過去最大の規模に達しています。この需要増と、コロナ禍によるサプライチェーンの混乱などにより、今、半導体は世界的に不足している状況です。
実は、日本はこうした半導体向け材料の分野で、非常に高いシェアを持っています。今回ご紹介する「フォトレジスト」の世界シェアは約9割(「財務省広報誌『ファイナンス』2022年4月号」より)。まさに日本企業の独壇場と言えるでしょう。
市場の9割が日本製
半導体の高性能化を支えるフォトレジスト
フォトレジストは、半導体の高性能化のカギを握る素材の一つです。
半導体は、トランジスタなどの素子の集積率が高いほど高性能になり、集積率を高めるためには回路を微細化する必要があります。半導体の歴史は、この微細化追究の歴史だと言えるでしょう。1970年代には一つの半導体に数千個だった素子数は、2021年には実に10億単位にまで増えているのです。そして、微細な回路を正確に描き出すのに欠かせない材料の一つが、フォトレジストです。
フォトレジストは、ポリマー(高分子)・感光剤・溶剤を主成分とする液状の化学薬剤で、光によって性質が変化します。その働きを説明するためには、半導体の製造工程を少しご紹介しなければなりません。
半導体の回路は、フォトリソグラフィという手法でつくられます。原版(フォトマスク、レチクル)につくった回路パターンを、UV光でシリコン基板(ウェハー)に縮小投影して露光します。ウェハーにはフォトレジストが塗布されていて、露光で化学反応した部分を取り除くか残すかして、原版イメージどおりのパターンをウェハー上に形成します。現像液によって露光部が溶けるポジ型レジストと、未露光部が溶けるネガ型レジストがあります。
より微細な回路パターンを形成するには、より細い線を描く必要があります。そのためには、より波長の短い光で露光することが求められます。このため光源は、1980年代~1990年代初めの高圧水銀ランプのg線(波長436nm)・i線(波長365nm)から始まり、1990年代半ばからはKrFエキシマレーザー(波長248nm)やArFエキシマレーザー(波長193nm)が使われるようになっています。
フォトレジストは特定の光の波長領域で反応するよう設計されるため、光源が変化すると、それに応じたフォトレジストを開発しなければなりません。1960年代後半以降、日米の半導体メーカーが激しく競り合う中、日本には半導体メーカーや製造装置メーカー、原材料メーカーなどがそろっていました。このためエコシステム(経済的な生態系)がつくりやすく、しかも日本の得意なチームワークやきめ細かい管理手法が有効な“すり合わせ”が生かせる分野だったこともあり、優れたフォトレジストの開発・生産技術を確立。以降、製造には長年蓄積したノウハウが必要で、また機器メーカーも採用後に代替品に変えるには工程を再検証しなければならないなど、新規参入の壁が高いこともあり、世界を席巻していきました。
さらなる微細化にも対応
これからも半導体とともに進化するフォトレジスト
半導体市場には「シリコンサイクル」と呼ばれる景気の波があり、約4年周期で好不況を繰り返してきました。しかし、DXの進展に伴うデータセンターの増加、IoTやAIのコモディティ化、自動運転を頂点とする車のエレクトロニクス化、電子機器の高性能化、家電のスマート化など、半導体需要はとどまるところを知りません。さらに、さまざまな分野で革新をもたらすと期待されているメタバース(仮想空間)の実現には、高性能半導体が大量に必要です。
こうしたことから、右肩上がりの成長トレンドはまだしばらく続くと見られ、経済産業省は市場規模が2030年に約100兆円にも達すると予測しています。同時に、半導体材料の需要も伸びています。今後、高性能半導体の露光には、より短波長のEUV(極端紫外線/波長13.5nm)が光源として使われるようになるため、EUV用レジストへの置き換えが進みます。また、KrF用レジストはArF用レジストへの切り替えが進み、どちらの分野でもフォトレジスト市場は大幅に拡大しそうです。
サイズは小さくとも、世界や時代を動かす大きな力となる半導体。その性能の要は、肉眼では見えないほどに細かく刻まれた回路パターンです。フォトレジストは、その実現に欠かせない材料の一つとして、これからも私たちの暮らしを見えないところで支え続けてくれることでしょう。
「半導体製造」を支える富士フイルムの事業
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記事公開:2022年8月
情報は公開時点のものです