「地球沸騰化の時代がやってきた」──2023年7月27日、
国連のグテーレス事務総長が、もはや地球温暖化の時期は過ぎたと警鐘を鳴らしました。
7月が観測史上最も暑い月になるとの見通しを受けての発言でした。グテーレス氏は
「異常気象がニューノーマルになりつつある」と危機感を示し、各国に気候変動対策の
強化を求めています。その対策の一つが、今回ご紹介する「カーボン・オフセット」です。
どのような取り組みなのか、あらためて見てみましょう。
Reading keywords
地球の沸騰化を食い止める!?
「カーボン・オフセット」とは。
気候変動対策として注目される
カーボン・オフセットって何?
2023年7月3日、世界の平均気温は17℃を超え、19世紀末に観測が始まって以来最高を記録しました。アジアの一部や北米、ヨーロッパなどが熱波に覆われ、日本各地もこれまでに経験したことのない暑さとなりました。
しかし、それは気候変動がもたらす現実の、ごく一部に過ぎません。氷河の融解や海面水位の変化、洪水や干ばつ、食料の生産や健康など人間への影響や、生態系への影響が、すでに観測され始めています。このまま地球沸騰が常態化すれば、人類滅亡のシナリオすら現実味を帯びてきます。
ご存じの通り、気候変動の主な原因は二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスです。車を運転する、電気を使う、飛行機に乗るといった私たちのごく日常的な行動が、大気中の温室効果ガスを増やしています。
対策の一つとして注目されているのが、「カーボン・オフセット」です。オフセット(offset)とは「相殺するもの」「埋め合わせ」という意味。つまり、カーボン・オフセットとは、排出した量と同じ量のCO2を別の場所や方法で削減または吸収して相殺し、地球全体のCO2の量を増やさないようにする取り組みです。
例えば、排出量の削減は、より徹底したエネルギーマネジメント、省エネルギー機器の導入、再生可能エネルギーの利用促進、水素の社会実装によるエネルギーの脱炭素化などによって実現します。また、吸収については、植林や計画的管理による森林の保護、CO2吸収素材・回収装置の利用などが考えられます。
カーボン・クレジットの取引が
企業のESG戦略の中心的役割に
多くの企業にとって、自らの努力だけで排出量を相殺することは困難です。そこで導入されているのが、「カーボン・クレジット制度」です。
この制度は、省エネルギー機器の導入や、森林の保護、植林などの取り組みによる温室効果ガスの削減効果(削減量、吸収量)を、「カーボン・クレジット」(排出権)として取り引きできる仕組みです。カーボン・クレジットを購入することで、自らの努力で削減しきれない排出量をオフセットできるというわけです。
日本のカーボン・クレジット制度には、国が認証する「J-クレジット制度」や、ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(JBE)が発行する「Jブルークレジット」などがあります。また国際的には、国連が主導する「CDM」(クリーン開発メカニズム)や、外務省が運営する「JCM」(二国間クレジット制度)などがあります。
こうした仕組みにより、排出権を創出した企業はその売却益を得ることができます。一方、カーボン・クレジットを購入する企業は、カーボン・オフセットへのコミットメントを強化することができます。例えば、「CSR活動や脱炭素経営のアピール」「CO2の削減が難しい業種での脱炭素化」「設備に対する大型投資を行わずに温室効果ガス削減に貢献」などが可能になります。
近年は、環境配慮型の企業イメージが投資家や消費者にとって魅力的な要素となり、ESG投資も急速に増加しています。2020年時点で世界のESG投資額は35兆ドルを超え、2018年と比較して15%増加しているという報告もあります。カーボン・クレジットの活用は自社の環境負荷低減を図れるだけでなく、持続可能な社会への貢献と、投資家や消費者からの信頼獲得にもつながります。このため、カーボン・オフセットは今後も、企業のESG戦略の中心的な役割を果たし続けることが予想されます。
モラルハザードや不透明性など
乗り越えるべき課題も多い
カーボン・オフセットの取り組みは世界各地で広がりつつありますが、その需要はこれからさらに増えると予想されています。「パリ協定」に基づく国別の排出削減目標の達成や、企業のESG投資の拡大、個人のエコ意識の高まりなど、さまざまな要因により、温室効果ガス排出量の削減とそれに伴うオフセットの取り組みは、今後ますます重要となるでしょう。私たち個人としても、カーボン・オフセット商品の購入などによって、この世界的な取り組みに参加することができます。
しかし、カーボン・オフセットにはいくつかの課題も存在します。その一つが、温室効果ガス排出量削減の努力を怠る理由になりかねないことです。本来はどうしても削減できない分を相殺するための仕組みですが、カーボン・オフセットに依存しすぎると、CO2排出量削減の努力がおろそかになる「モラルハザード」が生じる可能性が指摘されています。カーボン・オフセットは、あくまで補完的な役割を果たすべきで、根本的な解決策はCO2排出量そのものを削減することにあります。
カーボン・クレジットを創出する、オフセットプロジェクトの「透明性」も課題の一つです。CO2の削減や吸収が適切に行われているか、その結果がきちんと報告・監視されているかなど、透明性を確保しなければなりません。
また、カーボン・オフセットの取り組み自体も、その効果を正確に評価するのが難しいという課題があります。例えば、森林保全によるカーボン・オフセットは、森林が実際にどれだけのCO2を吸収するのか、そしてその森林が将来的に維持され続けるのかといったことを正確に把握しなければなりませんが、それらは容易にできることではありません。また、カーボン・クレジットの算定基準が不明確で、排出量の削減効果を疑う声もあります。
それでもカーボン・オフセットは、地球規模での気候変動という巨大な課題に対抗する手段の一つであり、その役割と可能性、そして課題を理解することは、持続可能な未来を築くための大きなカギとなり得ます。さまざまな課題を克服して実効性ある取り組みとなるよう注視しながら、私たち一人ひとりにできることを考えていくべき時がきたようです。
「カーボン・オフセット」に関する富士フイルムの取り組み
-
- 気候変動への対応
- 「完全無処理サーマルCTPプレート」は、気候変動対応としてカーボン・オフセットを実施し、お客さまとともにCO2削減に積極的に取り組んでいます。
- 「完全無処理サーマルCTPプレート」によるCO2排出量削減活動
記事公開:2023年8月
情報は公開時点のものです