20年以上前に導入され、デジタル化の波とともに進化してきた「電子帳簿保存法」。
国税に関連する帳簿や書類の電子保存を許可し、社会にさまざまな変化を
もたらしてきました。すべての企業や個人事業主に電子取引の電子データ保存が
義務付けられる期限がいよいよ迫る中、注目が高まっています。
今回は、同法の目的や導入による社会的影響、課題などについてご紹介します。
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ビジネスの効率性と持続可能性を高め
DXも後押しする「電子帳簿保存法」とは。
時代の要請で誕生し
時代に合わせて変わる電子帳簿保存法
「電子帳簿保存法」という言葉、最近よく耳にしませんか? これは国税に関係する帳簿や書類の電子データ保存を認める法律で、その歴史は意外に古く、制定は1998年に遡ります。この頃からITインフラであるインターネットが急速に普及し、2000年には従業員100人以上の事業所の8割以上がインターネットを利用するようになりました。
高度情報化とペーパーレス化が進展する中、会計の分野でもコンピューターを使って帳簿や書類を作成することが一般的になり、帳簿や書類を電子データやマイクロフィルムで保存したいという要望が高まりました。社会のそうした状況を背景に生まれたのが「電子帳簿保存法」というわけです。
時代の必然として生まれた同法は、制定後も時代に合わせて複数回の改正が行われ、電子保存に関するハードルも段階的に下げられました。
中でも2022年1月に施行された改正電子帳簿保存法では、デジタル化の進展やコロナ禍で急速に普及したリモートワーク、経理業務の電子化など、働き方の変化を背景に、電子帳簿等保存手続きについての抜本的な見直しがなされました。
この改正では、電子化の要件が大幅に緩和されるとともに、電子取引における電子データ保存が義務化され、これまで認められていた書面での保存も廃止されました。ただし、この義務化については2023年12月までの猶予期間(宥恕措置)が設けられています。その期限がいよいよ目前に迫ってきたことが、「電子帳簿保存法」という言葉に触れる機会が多くなった理由の一つではないでしょうか。
なお、2024年1月以降も、所轄税務署長に「保存できない相当の理由」があると認められる、税務調査の際に取引情報の電子データをダウンロードできるようにしておく、出力書面を適切に保存し税務調査の際には提示できるようにしておく、という条件を満たせば、改ざん防止措置や検索機能など保存時に必要な対応をすることなく、電子取引データを単に保存しておくだけでよいという猶予措置が設けられました。ただし、いつまで継続されるかはまだ示されていません。
業務プロセスの変革による
個人、企業、社会へのインパクト
業務プロセスを抜本的に変革する電子帳簿保存法は、さまざまな面で大きな影響を及ぼすと考えられます。個人、企業、そして社会の3つの視点で見てみましょう。
まず、個人への影響として、電子帳簿保存法の施行により、労働環境が変わりつつあります。経理担当者の負担が軽減されるとともに、システムによっては経理部門のみならずバックオフィス全体の業務効率化も可能です。2022年1月施行の改正電子帳簿保存法でクラウドストレージに電子帳簿を保存しやすくなったため、場所を選ばずに業務を遂行することが可能となりました。これにより、リモートワークなど働き方の選択肢が増え、働き方改革の推進にもつながります。また、同法に関連する知識や技術の習得が求められるようになるため、新しいスキルへの需要が高まります。デジタルデータの管理やセキュリティ対策に関するスキルも、さらに重要視されるようになるでしょう。
次に企業活動への影響として、主に2つが挙げられます。1つは、効率化の推進です。紙の帳簿書類を電子データに置き換えることが可能となり、オフィスのペーパーレス化が進みます。また、電子データは検索性とアクセス性に優れるため、必要な情報をスピーディーに入手でき、業務効率が向上します。さらに、電子帳簿保存法に適合した電子帳簿システムを導入することで、データの入力から処理、承認までのワークフローを自動化することも可能です。これにより、業務プロセスの迅速化とヒューマンエラーの削減が期待できます。
もう1つは、情報流通の変革です。電子帳簿保存法に適合したデジタルプラットフォームを導入することで、異なる部門や関係者間でのデータの共有と連携が容易になります。また、同法によって蓄積されたデジタルデータを解析・活用することで、ビジネスのトレンドや顧客の行動パターンなどのインサイトを得たり、戦略の改善に役立てたりすることもできるでしょう。
そして、経済や社会にも大きな影響を与えます。例えば、電子帳簿関連のソフトウエアやサービスが増加し、新たなビジネスチャンスが生まれました。また、企業の社会的責任の一環として環境への配慮が求められるようになる中、ペーパーレス化により紙の消費が減少するため、持続可能な事業活動の実現にもつながります。
導入・運用の課題を越え
DX推進のチャンスに
デジタル化の進展と歩みを競うように改正されてきた電子帳簿保存法ですが、導入や運用に際してはまだいくつかの課題も残されています。
- システム導入のコスト
電子帳簿保存法への対応には、システムやスキャナなどの導入コストが生じます。また、運用やメンテナンスにも費用がかかります。 - 電子データ化する手間が発生
電子帳簿保存法では、書類をスキャナで電子データ化して保存することが認められています。しかし、大量の書類を電子データ化するには手間も時間もかかります。 - 人材確保が不可欠
電子帳簿保存法の対応には、同法を熟知した人材が不可欠であり、採用または育成して確保する必要が生じます。またシステムの操作方法や、データ管理のルールなどを従業員に周知するための教育も必要となるでしょう。 - システム障害のリスク
万が一システム障害が発生した場合、重要なデータを失うおそれがあります。データのバックアップ体制や障害発生時の迅速な復旧体制を整備しておくことが重要です。 - データ改ざん・漏えいのリスク
電子データは紙に比べて、改ざんが容易で、痕跡が残りにくいと考えられています。また、不正アクセスや誤送信、デバイスの紛失などによってデータが第三者に漏えいするリスクもあります。
こうした課題はあるものの電子帳簿保存法は、デジタル時代のビジネス変革の一翼を担う重要な法律です。リモートワークなど多様な働き方のサポート、効率的なビジネス運営や情報の信頼性向上、新たなビジネスチャンスの喚起や環境への配慮など、さまざまな側面から社会にポジティブな影響をもたらすでしょう。
また、電子帳簿保存法への対応は、DXを推進し、バックオフィスの業務プロセスの効率化を進める絶好の機会でもあります。さまざまな課題も残されていますが、さらなる法改正や技術の進化によって解決されていくことが期待されます。
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記事公開:2023年9月
情報は公開時点のものです