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医師不足を補い、
医療の質を高める!?
「医療AI」が開く未来。

日本の医療現場が深刻な人手不足に直面する中、AI(人工知能)を
活用して医療の質を高めようとする「医療AI」への期待が高まっています。
診断や治療、薬の開発など幅広い領域で医療AIの開発が進み、中には
画像診断支援AIのように、すでに多くのシステムが実用化されている
例もあります。一方で、解決すべき課題も見えてきました。
今回は、医療AIとは何か、その可能性や留意点をご紹介します。

医療現場の深刻な人手不足も
医療AI導入の背景の一つ

人生100年時代と言われる中、健康は私たちにとって重要な資産です。しかし、その健康を支えてくれる医療の現場は、深刻な人手不足に直面しています。

経済協力開発機構(OECD)のデータによると、日本の人口1,000人当たりの医師数は2.5人とOECDの中で6番目に低く(平均3.6人)、また日本病院会の調査では、約88%の病院が「勤務医が不足・やや不足」と報告されています。2024年4月には医師の働き方改革がスタートし、時間外労働の上限規制が設けられ、さらなる医師不足が懸念されます。

こうした中、注目されているのが「医療AI」です。医療AIとは「AIで医療の質の向上を図る取り組みのこと」で、ゲノム医療や診断・治療、医薬品開発、介護など、活用領域も広がっています。

医療AI導入の背景は、医師不足だけではありません。近年は医療分野のデータ量が増大し、医師だけでは解析・活用が困難になってきました。特に、CTやMRIなどの画像診断データが増え、画像解析へのAI活用が期待されています。さらに、遠隔医療や在宅医療など新しい医療の形が広がり、モニタリングデータの監視・解析などにAIによる支援が必要になってきたことも挙げられます。

厚労省は6つの重点領域を選定
医療AIでできることは?

では、医療AIは具体的にどのように活用されるのでしょうか。厚生労働省「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」では、開発の重点領域として、(1)ゲノム医療、(2)画像診断支援、(3)診断・治療支援、(4)医薬品開発、(5)介護・認知症、(6)手術支援を選定しています。

医療AIの活用が期待される6分野
(1)ゲノム医療AI
ゲノム(遺伝情報)解析の結果に基づき、病気のなりやすさを予測したり、薬の効き方を判断したり、個々人に合わせた診療を提供できることから、ゲノム医療への期待が高まっています。しかし、全ゲノム解析から得られる情報は膨大で、それらを人手によって臨床的に解釈するのは困難です。そこで、情報の解析などにAIを活用し、専門家の判断をサポートします。
(2)画像診断支援AI
X線CTやMRIの画像から異常所見を提示したり、画像上の特徴から病変を識別したり、臓器をセグメンテーションしたりと、画像診断をサポートするAIで、現在最も活用が進んでいる領域です。人間よりも速く高い精度で判定する可能性があり、人間が見落としがちな特徴も見つけられるため、病気の早期発見につながります。
(3)診断・治療支援AI
医師は、患者のさまざまな症状や検査結果を既知の情報と結び付けることで病気を診断し、治療します。より良い診療のためには論文などに目を通し、必要な情報をキャッチアップすることも重要です。情報収集や解析にAIを活用すれば、大量の論文を読む医師の負担が軽減できます。
また、患者の症状や検査結果から病気の診断や治療法を提案するAIは、専門外の分野や稀な病気の診断をサポートし、医療の質の向上や高品質医療の全国均てん化(全国どこでも、誰でも、質の高い医療を受けられるようにすること)に役立つものと期待されています。
(4)医薬品開発支援AI
AIは新薬開発にあたり、有効成分となる有望な化合物候補の効率的な絞り込みに役立ちます。また、ヒトゲノム情報と生体分子についての網羅的な情報(オミックス情報)などを学習することで、新たなバイオマーカー(体の状態を客観的に測定し評価するための指標)などの未発見の創薬ターゲットを効率よく見いだすことが可能となり、アンメット・メディカル・ニーズ(いまだに治療方法が見つかっていない疾患に対する医療ニーズ)向け医薬品の開発が進むことが期待できます。化合物の設計や構造の最適化も高精度でシミュレーションできるため、開発期間の短縮や開発経費の削減にもつながります。
(5)介護・認知症ケア支援AI
センサーで高齢者の行動を記録し、見守りを行ったり、日常生活を支援したりするAIです。加齢に伴う体の変化を一人ひとり把握し、バイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温などの生命徴候)のデータをAIに学習させることで適切な診断・治療につなげ、慢性期医療の質の向上や寝たきり防止などに貢献できる可能性があります。また、患者数の増加が見込まれる認知症についても、その早期発見にAIの活用が期待されています。
(6)手術支援AI
手術を間接的・直接的に支援するAIです。間接的な支援としては、手術中の画像データを解析し、医者の治療支援をリアルタイムで行うシステムなどが登場しています。直接的な支援としては、手術支援ロボットとAIを融合させた手術の自動化が考えられますが、厚生労働省では何らかの革新的な技術進歩がない限り、実用化まで相当の時間がかかると見ています。

医療従事者の負担軽減と
患者のQOL向上を目指して

一方で、医療AIにはいくつかの課題も残されています。

一つは、AIに関する医療従事者の知識不足です。活用を進めるためには、AIの特性や可能性についての十分な理解が必要です。AIの真正性・妥当性の問題もあります。現在のAIは、なぜその答えを導き出したのか説明することができません。そのため、説明可能なAIの開発も待たれています。

また、AIの学習には大量のデータが必要で、データの少ない病状の場合は診断や予測の正確性が懸念されます。学習に利用したデータに偏りがないかなども、検証されなければならないでしょう。

さらに、AIもシステムであるため誤作動する可能性や、誤った診断を下すことがあるかもしれません。その可能性を限りなくゼロに近づけることが求められます。また、万が一医療過誤が生じた場合、責任の所在はどこにあるのかという問題もあります。ただし、これについては、厚生労働省の通知「人工知能(AI)を用いた診断、治療等の支援を行うプログラム利用と医師法第17条の規定と関係について」では、診断・治療支援AIを利用する場合でも診断・治療を行う主体は医師であり、その最終的な判断の責任は医師が負うとされています。

こうした問題を乗り越え、各領域で医療AIが本格的に普及すれば、高度で先端的な医療を提供しながら、医療従事者の負担軽減を図ることができます。しかも、いつでもどこでも誰もが質の高い医療を受けられるようになるでしょう。一人ひとりに合わせた治療法の提供や、新しい薬剤の開発なども可能になります。医療AIがすべての人のQOL(生活の質)向上に貢献する未来――意外とすぐそこまで来ているのかもしれません。

「人工知能(AI)」活用の富士フイルムの事例

  1. AIを活用した医療製品・サービス事例
    富士フイルムグループは、人工知能(AI)などのデジタル技術を駆使して、社会やビジネスの仕組みを変革するデジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献する製品・サービスの創出に注力しています。
    AI技術を活用し、医療現場を支援

記事公開:2023年10月
情報は公開時点のものです