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40億年の知恵が未来を導く!?
「バイオミメティクス」とは。

例えば、騒音を軽減する新幹線のノーズ(先頭車両の先端部分)や、
速く泳げるようになる競泳用水着。それらは、生物の形や機能などを
模倣することで実現したプロダクトです。生物はおよそ40億年にわたる
進化の過程で、さまざまな優れた仕組みを生み出してきました。
「バイオミメティクス」は、そうした仕組みをヒントに新たな技術や
製品を開発する手法のこと。今回は持続可能な社会の実現にも
大きく貢献するバイオミメティクスについてご紹介します。

長い時間が洗練してきた
自然界の知恵に学ぶ

生物は長い進化の過程で、人間には思いも寄らない数々の優れた形や機能、生産プロセスを生み出して環境に適応してきました。そうした自然界の知恵に学び、新しい技術開発やものづくりなどに応用しようとする科学技術が「バイオミメティクス(biomimetics)」です。bio(生物)とmime(パントマイム)、mimic(模倣)を組み合わせた造語で、日本語では「生物模倣」あるいは「生物模倣技術」と訳されます。

生物の仕組みに倣おうという考え方自体は古くからあり、例えばレオナルド・ダ・ヴィンチが鳥の飛翔の観察を基に飛行機械の設計を試みたのは、皆さんもご存じの通りでしょう。材料への応用は1930年代、絹糸を模倣して合成繊維ナイロンが誕生しています。バイオミメティクスという言葉は、1950年代にアメリカの神経生理学者オットー・シュミットが提唱したものです。彼は神経システムにおける信号処理を模倣した「シュミット・トリガー」という電気回路を発明しています。

バイオミメティクス研究は、1970年代に入ると化学の分野で盛んになり、やがて機械工学分野にも広がっていきます。2000年代には欧米を中心に材料研究の分野で注目され、ナノテクノロジーの進展とともに新しい研究が進むようになりました。特に近年は、長い進化の過程で培われた省エネ能力や環境適応能力などが、現代社会の喫緊の課題であるエネルギー問題や環境問題などを解決する鍵になるものとして期待されています。

こんなところにも!?
さまざまな分野で進む応用例

バイオミメティクスは、すでに私たちの身近な場所にも応用されています。いくつかの例をご紹介しましょう。

バイオミメティクスの例

●カワセミのくちばし → 新幹線のノーズ
上空から水中の獲物を捕獲するカワセミ。そのくちばしは、水中突入時の衝撃を緩和する形をしています。500系新幹線のノーズは、この形を模倣して、高速でトンネルに突入したときに発生する衝撃音を緩和しています。

●サメのうろこ → 競泳用水着
サメの肌(うろこ)には、極めて微細な突起とV字の溝が並んでいます。サメが泳ぐと溝に小さな渦ができ、うろこの表面で水流の乱れや、水の抵抗を抑えます。この構造を模倣した競泳用水着が開発されています。この水着を着用した選手らは、シドニー五輪で12の世界新記録を樹立しました。

●ハチの巣の構造 → 航空機などの構造材、靴のクッション材など
六角形が隙間なく並んでいるハチの巣。ハニカム構造と呼ばれるその構造は衝撃吸収性に優れ、軽くて断熱効果も高いため、航空機の翼や駅ホームの落下防止ドア、新幹線や鉄道車両のドアなどの構造材料に採用されています。また、サッカーのゴールネットや靴のクッション材にも利用されています。

●ハスの葉 → 防寒着・作業着などの衣類、ヨーグルトのふた、建築塗料など
ハスの葉の表面には、水に溶けにくいワックスと数マイクロメートルの凹凸があります。この構造により、葉に付いた水滴は汚れを巻き込みながら転がり落ち、葉は常にきれいな状態に保たれます。この仕組みが生み出す撥水性・自浄性が、衣類や容器、建築塗料などに利用されています。

●蚊の口器 → 痛みの少ない注射針
蚊の口器は複数の針で構成され、血を吸うときにはまず小顎と呼ばれる一対の針を使います。小顎の縁には鋭いギザギザがあり、ノコギリのように皮膚を切り裂き、そこに血を吸うための管を差し込んでいるのです。突くのではなく裂くことで周囲の痛点への刺激を最小限に抑えることが、蚊に刺されてもあまり痛くない理由の一つです。この仕組みを利用した痛みの少ない注射針が誕生しました。さらに痛みを抑えるべく、従来よりも細いマイクロニードル(微細な注射針)の開発も進められています。

●ミミズの蠕動(ぜんどう)運動 → 配管検査ロボット
ミミズの体は筋肉の節が連なり、それらが部分的な収縮・伸張を組み合わせて移動します。「蠕動(ぜんどう)運動」と呼ばれるこの移動メカニズムは、歩行や車輪走行など他の移動手段に比べて、移動に必要な空間が小さいのが特徴です。これを人工筋肉で再現したロボットは、これまで困難だった小口径の配管内の自立走行を実現しました。老朽化が懸念される工場設備や、都市に張り巡らされた配管の保守点検は喫緊の課題でもあり、活躍が期待されています。


現在、研究開発中の応用例もいくつかご紹介しましょう。

●フジツボの分泌液 → 医療用接着剤
フジツボは接着効果のあるタンパク質を含む特殊な分泌液により、どんな場所にでも強固に付着することができます。さらに、接着面の汚れを洗い流す脂質を分泌することで、その接着効果を高めているとされます。この仕組みを参考にして、出血を素早く止める医療用接着剤の研究開発が進められています。動物実験では10秒ほどで出血を止められたとのことです。

●モルフォ蝶、カワセミなどの構造色 → 世界一軽い塗料
モルフォ蝶やカワセミ、タマムシなどは美しい輝きを持ち、光の当たり方によって色が変化して見えます。これらは物体固有の色ではなく、極めて細かな構造が光を反射することによって生じる発色現象です。構造色と呼ばれるこの仕組みに着想を得て開発されたのが、微細なアルミニウム片の表面にアルミニウムのナノ粒子を点在させ、その微細な構造で色を生み出す塗料です。塗料層はわずか150ナノメートルと極薄層のため、従来の塗料とは比べものにならないほど軽くなり、研究チームは「世界で最も軽い塗料」を開発したといいます。一般的に航空機1機の塗装にはおよそ500kgの塗料が必要ですが、それをわずか1.3kg程度にまで削減できるとされ、機体軽量化による燃費の大幅な改善が期待されています。

サステナビリティの切り札となるか?
待ち望まれる社会実装

科学技術の発展と産業の隆盛は、私たちの生活を豊かにした反面、地球環境に深刻な影響を与えてきました。その最たるものが気候変動であり、私たちは今すぐ手を打たなければならない瀬戸際にまで追い詰められています。

一方、自然界は約40億年という気の遠くなるような時間の中でトライ&エラーを繰り返して、最小限のエネルギー・資源の投入で最大の効率・効果を得ることを追求してきました。そうした自然界が築き上げてきた知恵に学ぼうとするバイオミメティクスは、持続可能な未来を築く上で欠かせないアプローチの一つだと言えるでしょう。

日本では「第五次環境基本計画」(環境省/2018年)の重点戦略の一つに「持続可能性を支える技術の開発・普及」を掲げ、「生物・自然の摂理を応用する技術の開発」を目標の一つとしています。同計画はこれまで二度にわたって進捗が点検され、2023年1月には第2回点検報告書がまとめられました。この報告書では、絶滅危惧種の保護に関する技術・研究の整備を推進するとされています。これはバイオミメティクス研究などに生物多様性の確保が不可欠なためです。一方、日本ではバイオミメティクスに関する研究推進事例が少ないことなどから、新たな推進戦略の策定に向けた検討もスタートさせるとされています。

バイオミメティクスは、ある意味、生物が成し遂げてきた持続可能性そのものを学ぶ手法だとも言えるでしょう。知見を深化させるためには、研究のための知識基盤となる生物学データベースの構築や、文系の学問も含めた学際的な協力が不可欠だと言われています。ヒトの知の連携で40億年の知恵から一つでも多くのことを学び、それらを活用した技術の1日も早い社会実装が待ち望まれます。

「バイオミメティクス」に関する富士フイルムの製品・技術

  1. 構造色インクジェット技術
    富士フイルムは、色素を用いず、光の反射によって生じる発色現象である「構造色」を発現させ、意匠性の高い加飾印刷を可能にする「構造色インクジェット技術」を開発しました。
    「構造色インクジェット技術」新開発
    富士フイルムのインクジェット技術

記事公開:2023年10月