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医療や美容はもちろん、環境も!?
未来を拓く革新素材
「バイオマテリアル」とは。

歯や骨、臓器など、私たちの体を構成する数多くの器官。そのほとんどが、
健康にとってなくてはならない大事な働きをしています。もしも損なわれた場合は、
時には外科的な手法でその機能を補うこともあります。そこで活躍するのが、
「バイオマテリアル」です。しかし、バイオマテリアルの応用はそれだけにとどまりません。
今回は、バイオマテリアルとはなにか、どんな材料がどういった分野に利用されるのか、
どのような未来が期待できるのかについてご紹介しましょう。

生体と調和し
身体機能を回復・改善

「バイオマテリアル」とは、体のさまざまな器官の働きを改善したり、置き換えたりするために、ヒトの細胞に接触しつつ長期間用いられる材料のことです。その多くは人体への移植を目的としています。

その歴史は古く、最初のバイオマテリアルは古代エジプトで使われた傷口の縫合糸で、亜麻(リネン)製とも動物の腱からつくられたともいわれています。これが後述するバイオマテリアルの条件を満たしているかどうかは別として、いずれにしても昔からヒトは失われた健康を回復するために、素材を工夫して外科的な努力を試みてきたことは間違いありません。

体に移植するなど、長期にわたり生体と直接的・間接的に接触する材料であるバイオマテリアルには、次の条件を満たすことが求められます。

  • 可滅菌性:消毒や滅菌できること
  • 生体安全性(非毒性):生体に有害な影響(毒性、発熱、炎症、アレルギーなど)を及ぼさないこと
  • 機能性:目的(血液・輸液保存、手術補助、生体機能代替など)とする機能や効果を発揮できること
  • 生体適合性:材料による生体反応が適当であること
  • 耐久性:劣化や腐食、摩耗などに対する耐久性を備えていること

身近なバイオマテリアルの例でいえば、虫歯の治療に使う材料が挙げられます。25歳以上の日本人では8割以上が虫歯にかかったことがあるとされていますので、多くの方がご存じでしょうが、詰め物や被せ物、入れ歯、人工歯根(歯科インプラント)など、歯科治療にはさまざまな材料が利用されます。そうした歯科材料の多くがバイオマテリアルです。

バイオマテリアルの利用分野は、歯科材料だけにとどまりません。人工骨や人工関節、眼内レンズ、さらには人工臓器や再生医療など幅広い医療用途で使われています。また、医療機器やドラッグデリバリーシステム(体の特定の部位に効果的に薬を届ける技術)などへの利用例もあります。さらに、美容や環境の分野などにも用途は広がっています。こうしたことから、世界のバイオマテリアル市場は2021年から2031年にかけて18%近い年平均成長率で伸び、2031年には約7,300億ドルにもなるという予想もあります。

バイオマテリアルの種類と
実際の応用例

バイオマテリアルには、大きく「生体由来材料」と「合成材料」があります。合成材料はさらに、「金属」「セラミックス」「ポリマー(多数の小さな分子が結合した大きな分子)」の3つに大別できます。それぞれ非常に多くの種類があるため、ここでは代表的なものをいくつかご紹介します。

バイオマテリアルの種類と主な用途例

生体由来材料は、主に動物の組織に由来するコラーゲンから生成され、骨などの組織を再生させる際のフレームとなる材料や創傷被覆材(傷を覆う材料)、シワやたるみを改善するための皮下注射の材料などに利用されています。また、近年では人工臓器にも利用されています。コラーゲンはタンパク質の一種で、細胞同士をくっつけるなどの役割を果たす物質です。コラーゲン以外では、甲殻類に含まれるキチン・キトサンが応用された材料が、創傷被覆材や手術縫合糸、人工骨、ドラッグデリバリーシステム用キャリアなどに利用されています。

金属系の合成材料は、強度や形状記憶、耐久性など、金属材料ならではの優れた特性を有し、整形外科用として生体内で使用される医療器具の90%以上を占めるといわれています。素材としてはチタンやコバルト・クロム合金、形状記憶合金であるNi-Ti(ニッケル・チタン合金)などがあります。骨と結合する特性を備えたチタンは、股関節や膝関節などの人工関節や骨折固定具、人工歯根に用いられ、コバルト・クロム合金やNi-Tiはステント(血管などを内部から広げる医療機器)などに用いられています。

セラミックス系の合成材料は、特に体に優しく、悪影響を与えにくいのが特徴です。代表的な材料であるハイドロキシアパタイトは、成分が人体の骨や歯によく似ているため拒絶反応が起きにくく、骨に直接結合させることができるため歯科材料や人工骨、人工関節などに利用されています。ただ、衝撃に弱いなど強度が低く、精密な形状に加工することに難しさがあります。この弱点を克服したのが、ジルコニアです。強度などの力学的特性がハイドロキシアパタイトの4~10倍で、耐熱性や耐久性などにも優れています。非常に強度が高いため、大きな力がかかる歯科インプラントの土台部分にも使用されます。また、摩耗に強く、人工関節の骨部分にも適しています。

ポリマー系の合成材料は、軽さと柔軟性、そして加工性に優れています。設計や加工の自由度が高く研究も盛んに行われ、現代医療の幅広い分野で多種多様なポリマー系のバイオマテリアルが実用化され、普及しています。血液から不要な物質や有害な物質を除去するための血液浄化器(血液透析器や血漿分離器など)、輸血関連機器、人工血管や人工心臓などの循環器系人工臓器など、血液と接触して利用されるものが多いのも特徴です。また、体内に吸収されて消失するため抜糸する必要のない吸収性縫合糸や、人工関節、人工角膜などにも利用されています。

バイオマテリアルが社会課題を解決し
新たな未来を拓く

バイオマテリアルは、医療や美容のみならず、私たちの暮らしを広い分野で支えています。新たな産業の創出にも寄与することが期待され、今も多様な研究が進められています。文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が発表した「バイオマテリアル関連科学技術の将来展望」では、同研究所が実施した「第11回科学技術予測調査」に基づいて、将来的に次の図のようなトピックが実現するだろうと予測しています。

バイオマテリアル関連科学技術トピックの社会的実現時期
【出典】文部科学省科学技術・学術政策研究所「バイオマテリアル関連科学技術の将来展望-第11回科学技術予測調査より-」より作図

こうした技術が進展することで、バイオマテリアルは、医療技術の革新だけでなく、環境問題の解決や新たな産業・サービスの創出に大きく寄与すると考えられます。同調査では、体内情報をモニタリングするウェアラブルデバイスや埋め込み型健康管理デバイス、生体組織や移植用臓器の長期保存技術などが特に重要と結論づけられています。また、海洋プラスチックや国際的なゴミの廃棄問題の顕在化により、バイオデグラダブル(生物が分解可能な)材料によるデバイスや日用品の実用化技術の重要度も高まっています。

今後は、データサイエンスやAIとの融合により、材料開発はますます加速していくでしょう。バイオマテリアル関連の科学技術の発展は、医療、環境、産業などの社会課題解決だけでなく、一人ひとりの人間が中心となる人間中心社会や、人間の身体能力や知覚、脳などを強化する人間拡張社会に向けた技術としても注目されています。私たちのQOL(生活の質)に直結し、大きな貢献を果たすバイオマテリアル。そのさらなる発展に期待が高まります。

「バイオマテリアル」に関連する富士フイルムの製品・サービス

  1. ライフサイエンス領域試薬
    富士フイルム和光純薬では、ライフサイエンス領域の様々な研究や実験を豊富な製品ラインアップでサポートします。
    研究分野・実験手法で探す
  2. 生体材料
    富士フイルムは、写真フィルムで培ったノウハウを活用した動物由来成分を含まないリコンビナントペプチド(RCP)を開発しました。リコンビナントペプチドは、スポンジ、顆粒、多孔質粒子、フィルムなどの形態に加工できるため、幅広い用途に適したバイオマテリアルです。
    リコンビナントペプチド(RCP)
  3. バイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)
    遺伝子を組み換えた微生物や動物細胞に産生させたタンパク質などを活用した医薬品の開発・製造受託を承っています。
    バイオ医薬品の開発・製造受託(CDMO)

記事公開:2024年3月
情報は公開時点のものです