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未来を照らす力になる!?
エネルギーを革新する
「全固体電池」とは。

ニューヨークの街にエジソンの白熱電球が灯されて以来、電気は世界中を
照らし続けてきました。しかし、エネルギーとしての電気には、持ち運べず
貯めておけないという難点もあります。それを補うために発明されたのが、
充電できる蓄電池(二次電池)です。スマートフォンやノートパソコン、
電気自動車(EV)など幅広い用途で使用され、現代社会には不可欠な動力源ですが、
中でも注目されているのが、「全固体電池」と呼ばれる次世代二次電池です。
今回は世界中が開発にしのぎを削っている全固体電池について、その仕組みや
用途、課題などについて解説します。

全固体電池とは?
これまでの電池とは何が違う?

ご存じのことと思いますが、電池の中に「電気」そのものが入っているわけではありません。あるのは電気を生み出す仕組みです。その仕組みによって、電池は化学電池と物理電池、生物電池の3つに大別できます。私たちにとって最も身近な乾電池は、このうち化学電池に分類されます。化学電池は正極と負極、電解質から構成され、負極の物質と電解質との化学反応で電子がつくられ、その電子が正極に移動することで電流が発生し電気が起こります。つまり、化学反応で電気が生み出されているわけです。

例えばマンガン乾電池のような使い切りの電池(一次電池)の場合、この化学反応は負極から正極への一方通行です。これに対して、外から電気を送り込む(=充電する)ことで、正極から負極へと逆方向の化学反応を促進し、「エネルギーを蓄える」ことによって繰り返し使えるようにしているのが二次電池です。今回紹介する全固体電池は、この二次電池に含まれます。

二次電池にはいくつか種類がありますが、現在の主流はリチウムイオン電池。負極に黒鉛(グラファイト)、正極にコバルト酸リチウム、電解質として有機溶媒(液体)を用いています。それまでの二次電池に比べてはるかに高性能だったため急速に普及し、「スマートフォンやノートパソコンなどの高性能化はリチウムイオン電池抜きには語れない」ともいわれるほど、情報通信社会の発展に大きく貢献しています。

2019年にはその開発に対してノーベル化学賞が贈られるほど高く評価されているリチウムイオン電池ですが、課題もあります。その一つが、時々ニュースにもなる発火や爆発のリスクです。正極と負極が直接接触すると、ショートして熱が発生します。通常は両極の間にあるセパレーターと呼ばれる薄い積層膜が接触を防いでいますが、落下や衝撃などの物理的なダメージによってセパレーターが破損・変形してしまうことがあるのです。また、過充電などによって内部温度が極端に上昇した場合には発火する危険性があり、重大事故につながることも考えられます。

「全固体電池」は、リチウムイオン電池の液体電解質を固体の電解質に置き換えたものです。現在、固体電解質としては酸化物系(無機/セラミック)、硫化物系、ポリマー系の3種類の素材で開発が進められています。いずれも液体電解質よりも発火リスクが低く、安全性も高いとされています。固体電解質がセパレーターの役割を兼ねており、正極と負極が物理的に接することがないからです。これ以外にも、液体の電解質を用いないことによるさまざまなメリットがあることから、現在、世界各国で実用化・量産化に向けて拍車がかかっています。

全固体電池とリチウムイオン電池の仕組みのイメージ
【出典】経済産業省「蓄電池産業戦略」より作図

固体電解質がもたらす
さまざまなメリット

全固体電池のメリットは、高い安全性だけではありません。次のようなメリットも期待されています。

・高いエネルギー密度
エネルギー密度とは、体積や重さあたりどれくらいのエネルギーを蓄えられるかという指標のこと。全固体電池はリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高いため、同じ体積や重さであれば、より多くのエネルギーを蓄えることができ、より長時間にわたって電力を供給できます。
・長寿命
リチウムイオンだけが移動し充放電が行われる固体電解質は、液体電解質に比べて劣化しにくく、長持ちします。そのため、電池の交換頻度を減らすことが可能になります。
・急速充電が可能
二次電池にとって重要な性能の一つに、充電速度があります。一般的に急速に充電するほど二次電池は熱をもちますが、全固体電池はリチウムイオン電池に比べて熱に強いため、安全に急速充電を行うことが可能です。
・幅広い使用温度範囲
液体電解質は周囲の温度が低いと凍ってしまい、逆に高いと蒸発することで性能が低下したり、機能しなくなったりします。しかし固体電解質は高温に強いだけでなく低温の影響も受けにくく、幅広い温度範囲で安定して性能を発揮できます。
・高い設計自由度
液体電解質を使用する従来の二次電池は、液漏れを防ぐために構造上の制約がありました。しかし、全固体電池は液漏れの心配がありません。構造上の制約がないため設計自由度が高く、さらなる小型化・薄型化を追求することも、重ねたり折り曲げたりして柔軟な設計を行うことも可能になります。

幅広い分野で待たれる実用化
早ければ2025年にも!?

数々のメリットから、全固体電池は次のような分野での活用が期待されています。

・EV
高いエネルギー密度と急速充電能力は、EV用のバッテリーに適しています。いずれ10分の充電で1,000km走れるEVが登場するかもしれません。これは現在のリチウムイオン電池と比べると、約3分の1の充電時間、そして2倍の航続距離を実現することになります。
・モバイル機器/IoTデバイス
エネルギー密度が高いために小型化の追求が可能です。さらに、高温に強いため電子基板に直接ハンダ付けすることができ、電子デバイスのバックアップ電源やIoTセンサー、小型デバイス用バッテリーなどに利用できます。
・エネルギー貯蔵システム
太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーは、さらなる利用拡大が望まれています。しかし、その課題の一つに、発電出力が気象条件によって左右されるため電圧や周波数の変動が大きく、そのまま既存の送電網に流しにくいという点があります。解決策の一つとして、電池に電力を貯蔵するエネルギー貯蔵システムが検討されており、高いエネルギー密度と幅広い使用温度範囲、安全性を備えた全固体電池はさまざまな環境で活用できるため、有力な候補の一つです。
・医療機器/ウェアラブルデバイス
高い安全性と広い使用温度範囲から、医療機器における電源としても非常に有望だといわれています。インスリンポンプ(インスリンを持続的に体内に注入するデバイス)や血圧モニターなどの体内埋め込み型健康監視センサー、コンタクトレンズと電子デバイスを組み合わせたスマートコンタクトレンズなどのウェアラブルデバイスへの技術開発も進められています。
・宇宙技術
温度環境の過酷な宇宙での利用にも適しています。宇宙環境で利用する設備や機器の小型・軽量化や低消費電力化に貢献し、月・火星探査機、月面でのモビリティや観測機器などでの活用が期待できます。

このように、さまざまな分野で活用が期待される全固体電池ですが、実用化に向けては、リチウムイオンが動きやすい固体電解質の開発や、電極と固体電解質の密着性の改善、新たな製造設備の導入など、解決すべき課題も残されています。

しかし電力を利用するデバイスのイノベーションに、電池の高性能化は不可欠です。特に、EVの性能は電源の性能によるところも大きく、自動車業界では積極的に開発が進められています。全固体電池の実用化は早ければ2025年以降に始まるという予測もあります。

電力供給の未来を大きく変え、社会全体をも大きく前進させる可能性すら秘めている全固体電池。欧米や中国でも技術開発は急速に進展していますが、今のところ、日本も開発競争のトップグループを疾走しています。全固体電池が社会に普及するのも、そう遠い未来ではないかもしれません。

「全固体電池」関連の富士フイルムの製品・サービス

  1. 電池研究用試薬
    二次電池のより高い安全性、大容量化、および高エネルギー密度化が求められている中で、最近全固体電池が注目を集めています。
    製品ラインアップ

記事公開:2024年3月
情報は公開時点のものです