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持続的な食料供給を実現する鍵となる!?
「フードテック」とは。

もしもランチのお肉が、健康にも環境にも優しい植物由来のものだったら──。
あるいは、お疲れさまの1杯が、廃棄されるはずのパンの端材から醸造されたもの
だとしたら──。食に関わる世界的な社会課題が大きく改善されるかもしれません。
大量のフード(食品)ロス、その一方で深刻化している食料危機、迫られる環境
負荷の低減、高まる健康志向……。今、食はさまざまな問題に直面しています。
それらを解決する方法として注目されているのが、「フードテック」です。今回は
フードテックとは何か、なぜ必要とされるのか、その現状、課題などについて解説します。

食のイノベーション!?
世界で注目されるフードテックとは?

「フードテック」とは、「Food」と「Technology」を組み合わせた造語で、食に関わるさまざまな分野にイノベーションをもたらす最先端技術のこと。具体的には食材の生産から加工・パッケージング、流通、消費などの各分野で、効率化や品質向上、持続可能性などの実現を目指す技術や、その技術を活用したビジネスモデルを表します。

例えば、おいしさを損なわず長期保存でき、好きなときに食べられる缶詰やインスタントラーメン、レトルト食品、フリーズドライ食品なども、広い意味でいえばフードテックを活用した食品です。最近では、豆や植物由来の「代替肉」や魚の陸上養殖、代替タンパクとしての昆虫食、革新的な食品流通や調理技術などが注目されています。2020年に24兆円だった世界のフードテック市場規模は、2050年には279兆円にまで成長すると見込まれ、フードテックを活用した産業は注目度の高い分野といえるでしょう。

フードテックへ期待が寄せられる背景のひとつが、世界的な人口増加などによる食料需要の増大や、SDGs(Sustainable Development Goals)への関心の高まりです。国連の発表によると、2022年には全世界で最大7億8,300万人が飢餓に直面したと報告されています。一方で、大量のフードロスが発生しているのも現実です。FAO(国際連合食糧農業機関)は、全世界の食料生産量の3分の1にあたる約13億トンの食料が毎年廃棄されていると、報告しています。

また、人口増に伴う食料不足も深刻化の一途をたどります。農林水産省の推定では、2050年には世界の食料需要量が2010年比で1.7倍に増加し、特に畜産物と穀物の需要が大きくなるとされています。このことから、例えば私たちの体の維持に不可欠なタンパク源不足が懸念されます。しかし、例えば牛肉を1kg生産するには10kg以上もの穀物が必要で、増産にも限界があります。しかも畜産はCO2やメタンガスの排出により温暖化の原因になるという指摘もあります。

世界全体の品目別食料需要量の見通し
【出典】農林水産省「2050年における世界の食料需給見通し」より作図

このような食料・原材料不足やフードロスなどの社会問題の解決に加え、近年ではアレルギー対策や動物性食品を摂取しないヴィーガン向け食品、高齢者が食べやすい食品の開発など、消費者の価値観やライフスタイルの変化への対応も不可欠です。こうした中、フードテックを活用してこれらの課題を解決することを目指した、新たなビジネスが生まれています。

さまざまな分野に広がるフードテックの最前線

すでに実用化・商用化されているフードテックの具体例を、食材の生産、加工・パッケージング、流通、消費という分野ごとにいくつかご紹介しましょう。

●生産

・垂直農業:
水耕栽培(土を使わず培養液で植物を育てる栽培方法)の装置などを縦(垂直方向)に積み重ねて、野菜や果物などを生産する農業。都市でも食物を生産でき、水の使用量も従来と比べ10分の1程度とされています。
・スマート農業:
ロボットやAI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)などの先端技術や、センシングデータ、気象データを活用し作業の自動化や情報共有の簡易化を図る農業。生産性の向上や人手不足の解消が期待されています。
・陸上養殖:
陸上の設備で魚介類を育成する養殖方法。サーモンやヒラメ、サバ、ウミブドウ、キャビアなどが商品化されています。水質汚染や天然の魚介類から病気などが感染するリスクを抑えることができ、耕作放棄地など土地の有効活用にもつながります。
・ゲノム編集食品:
狙った遺伝子をピンポイントで効率的に改良し、その生物が本来持っている潜在的な機能を引き出した農水産物。例えばGABA(食品に含まれる健康機能性成分)の含有量を約5倍に増やしたトマトや、可食部の多いマダイ、速く成長するトラフグなどが実用化されています。

●加工・パッケージング

・植物由来の代替タンパク質:
植物由来の成分を使用して、肉や魚介の食感や風味を再現した食品。豆類を利用した代替肉や代替魚、食物繊維やタンパク質が豊富で糖質が低減された麺などが販売されています。
・昆虫食・昆虫飼料:
昆虫の粉末などを原材料とする食品や飼料。コオロギ粉末を用いた食品などが販売されています。
・細胞性食品:
生物の細胞を生物の体外で人為的に培養してつくり出す食品。2020年12月、シンガポール当局は培養鶏肉を使ったナゲットの製造・販売を世界で初めて認可しました。
・フードロス削減:
食品産業からの廃棄物などを利用した食品がつくられています。例えばパンの端材から製造するビールや、飲料メーカーなどで廃水とされてきた、糖を含む水からつくる小麦粉の代替原料が商品化されています。
・スマート食品産業:
人と協働するAIロボットや鮮度維持のための新技術、AI需要予測による食品を余らせない仕組みなどが活用されています。
・フードテックを活用した包装:
環境負荷の低減や食品の保存性向上、廃棄物削減に貢献する食品包装。低環境負荷材料や再生可能資源による包装や、鮮度保持期間を延ばすアクティブパッケージ、鮮度をリアルタイムで確認できるスマートパッケージなどが実用化されています。

●流通

・フードシェアリングサービス:
フードロスになりそうな商品と消費者をつなぐアプリやECサイトなど、「余ってしまいそうな食品をムダにしない」サービスがフードロス削減に貢献しています。
・ブロックチェーン技術:
改ざんしにくいブロックチェーン技術を活用し、生産者や消費者間で取引履歴を共有・管理することで、食品の生産から消費までの流通経路を透明化し、トレーサビリティを高めて安全性を確保します。

●消費

・スマートキッチン:
IoT技術を活用した次世代キッチン。冷蔵庫やオーブンレンジなどがネットワーク接続され、家庭での調理を効率化します。
・ヘルスフードテック:
健康分野の食に関する技術。食事の写真からカロリーと栄養素を記録する健康管理アプリや、バーコードにかざすとアレルゲンを含む食品かどうかが分かるアプリなどが実用化されています。

命の糧である
食の持続可能性のために

世界のフードテック市場は急速な成長を遂げており、その投資額は2014年から2020年の6年で約5倍に増加。また、世界の主要なフードテックスタートアップの時価総額は、日本の食品製造トップ企業に迫る勢いです。

こうした中、農林水産省ではフードテックを食・農林水産業の発展や食料安全保障の強化につながる技術と位置づけ、2020年10月に産学官連携による「フードテック官民協議会」を設立。新市場の開拓や新事業の創出を支援し、持続可能な食料供給システムの構築を目指しています。また、経済産業省関東経済産業局では、地域企業などによるフードテックの取り組みを支援し、社会課題の解決や地域産業の活性化を図っています。

食の未来を拓くことが期待されるフードテックですが、課題も存在します。そのひとつが、コストです。例えば、陸上養殖には高額な初期コストや運用コストが必要です。また、細胞性食品の一種である培養肉は、2013年の時点ではハンバーガー1個あたり3,000万円以上の費用がかかったとされています。2021年時点で1kg 3,000円程度までコストを削減できる見通しが立っているとされていますが、既存商品(1kg 1,000円~2,000円程度)まで下げることが乗り越えるべき壁のひとつになっています。

おいしさや心理的なハードルも課題です。食べものですので、食べたいと思える味や食感、見た目も重要です。また、培養肉や昆虫食のような新たな食品についての心理的ハードルをどう下げるかが普及の鍵を握るかもしれません。さらに、遺伝子組み換え食品やゲノム編集食品も含めて、それらの安全性を懸念する声もあがっています。法律や規格を整備し、安全性や品質保証を担保する枠組みが必要です。

しかし、こうした課題を克服した先には、持続可能な食料供給によって食料不足や栄養不足、フードロス、環境負荷などの社会問題が解決される未来、あるいは健康志向や個々のニーズに応じた多様な食が提供され、QOL(生活の質)の向上した未来が待っていることでしょう。私たちの、まさに命の糧である食。その未来を拓く有力な切り札として、フードテックに期待が寄せられています。

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記事公開:2024年6月
情報は公開時点のものです