スマートフォンのバッテリー切れに悩まされたことはありませんか?
モバイルバッテリーを持ち歩くのは面倒ですし、コンセントを
探すのも一苦労ですよね。でも、実は私たちの回りには、
電力に変換できるかもしれないエネルギーがたくさんあることを
ご存じでしょうか。もしもそれらで発電できれば、バッテリー残量を
気にする必要がなくなるかもしれません。そんな夢のような技術が
「エネルギーハーベスティング」です。今回はバッテリー不要の
デバイスを実現し、IoT(モノのインターネット)社会の発展を
支えるサステナブルなエネルギー活用技術について解説します。
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身の回りの未利用エネルギーを電力に!?
「エネルギーハーベスティング」とは。
身の回りの微小エネルギーを“収穫”して利用する
「エネルギーハーベスティング」、直訳すると「エネルギーの収穫」──。さて、エネルギーを“収穫”するとは、いったいどういうことなのでしょう。
光や熱、振動、電磁波など、普段の生活の中で意識することはないかもしれませんが、私たちの回りには、実はさまざまな形の微小エネルギーが存在しています。こうした今までは見過ごされていたエネルギーをharvest(収穫)し、電力に変換して利用しようとする技術が、「エネルギーハーベスティング」です。環境中のエネルギーを利用して発電することから、「環境発電」とも呼ばれます。
例えば、次のようなエネルギーが発電に利用できます。
- 光エネルギー:太陽光や室内照明の光
- 熱エネルギー:人体や機械の熱
- 振動エネルギー:人が歩く振動や機械の振動
- 電磁波エネルギー:ラジオやWi-Fiの電波
太陽光を利用した電卓や、空中の電波で動く鉱石ラジオ、タイヤの回転を利用する自転車のライトなど、エネルギーハーベスティング技術を利用した製品は昔からありました。しかし、得られるエネルギー量が小さいため、用途は限られていました。ところが近年の技術の進歩によって、より小さなエネルギーでも効率よく電力に変換できるようになりました。また、消費電力がナノワットやピコワットといったわずかな電力でも動作するデバイスも登場してきました。このような技術の進歩により、IoT時代の新たな電源として注目されているのです。
膨大なIoTネットワークを支える“究極のエネルギー源”
今、エネルギーハーベスティングが注目されている大きな理由のひとつが、IoT社会の進展です。例えば、工場の機械の状態を監視するセンサーや、建物の温度や湿度を測定するデバイスなど、さまざまなIoT機器がインターネットを介して情報を収集し、それらの情報がビッグデータとして活用される時代になりました。
IoTの進展に伴って大量のセンサーやデバイスが必要となり、それらIoT機器を動かすための電源もまた大量に必要となります。そしてIoT機器の数が増えれば増えるほど、電力やメンテナンスにかかるコストも増加します。例えば、土砂災害を検知するためのセンサーを山中に設置する場合などは、電源に電池を使ったとしても交換などのメンテナンスに要するコストは膨大です。しかし、それらの電源にエネルギーハーベスティング技術を活用すれば、電力コストはもちろん、外部電源と接続するための配線工事や電池交換などのメンテナンスにかかる手間やコストも抑えられるというわけです。
あらためて、エネルギーハーベスティングのメリットをまとめてみましょう。
まず、「持続可能なエネルギー源」であることです。今まで利用されていなかった、いわば捨てられていた環境中に存在する微小エネルギーを有効活用できるのです。例えば工場の機械の振動や熱を利用して、その機械の状態を監視するセンサーを動かすことができるようになります。追加の電力コストもかからずCO2排出量を削減できる、ある意味“究極の電力源”となります。さらに、使い捨て電池などの電子廃棄物も削減でき、環境負荷の低減に貢献します。
また、「定期的なメンテナンスが不要」であることです。電池交換や充電の手間がかからなくなります。遠隔地や高所など、人が簡単に近づけない場所に設置したセンサーでも、故障などのトラブルが生じない限りメンテナンスフリーで長期間動作させることができ、メンテナンスコストを大幅に削減できます。
そして、「設置の自由度を向上」させることです。外部電源との接続が不要なため、場所を選ばずにIoT機器を設置できることから、今までは電源の問題で機器の設置が難しかった場所でのデータ収集も可能になります。
このようなメリットから、2030年には全世界で321億台以上になるという予測もあるIoT機器のためのサステナブルな電源を確保する方法として、エネルギーハーベスティングはまさに最適だといえるでしょう。エネルギーハーベスティングを活用することで、自立電源を備えた多数のセンサーによる、きめ細かなデータ収集と制御が可能になります。これにより、医療・ヘルスケア、都市インフラ、工場、物流、農業など、IoTの応用分野が大きく広がっていくことが期待されています。
エネルギーハーベスティングが拓く未来とは
では、実際にエネルギーハーベスティングはどのように活用されているのでしょうか? 事例をいくつかご紹介しましょう。
- 床発電システムの実証実験
- 駅の改札やコンコースに特殊な床を設置し、人が歩く際の振動を利用して電力に変換する床発電システムの実証実験が行われました。1日最大で約940kW秒(100Wの電球を約160分間点灯できる電力量)の電力を生み出すことが実証されました。
- 電磁波ノイズ発電
- 普段は邪魔者扱いされる電磁波ノイズから発電する技術です。工場内のロボットやオフィス内のモニターや、照明などから常に発生している電磁波ノイズによって電力を生成し、低消費電力型のIoT機器へ安定的に供給。IoT機器の電源問題の解決に向けた取り組みが進められています。
- バッテリーレス液体検知システム
- 液体に触れると自ら発電し、その電力で信号を送信するシステムです。外部電源が不要で、水などの液体の漏れを迅速に検知でき、遠隔監視も可能です。工場設備の液漏れ検知や、建築物の水漏れ検知、河川の増水検知、水田の水位監視などに利用できます。
- 環境監視システム
- エネルギーハーベスティングを人感センサーに活用することで、使われていない会議室の照明がついていたり、誰もいない部屋のエアコンが稼働していたりといったムダを、メンテナンスフリーで解消できます。また、手術室のドアの開閉によるほこりなどの流入をセンサーでモニタリングし、清潔な状態の維持に活用されている例もあります。
エネルギーハーベスティングは、私たちの生活やビジネスを大きく変える可能性を秘めています。例えば、ウェアラブルデバイスが体温や動きで充電される未来。工場の機械がそれ自身の振動で自己診断を行う未来。街中のセンサーが環境の変化を自動的に検知し、快適な都市空間を創出する未来。そして、スマートフォンの充電を心配しなくてもいい未来──。そんな世界が、エネルギーハーベスティングによって実現するかもしれません。
しかし、エネルギーハーベスティングにはまだまだ課題もあります。例えば、発電効率の向上や初期コストの削減、さらなる小型化などです。また、“収穫”されるエネルギー量が不安定なため、安定した電力供給を実現するための技術開発も必要です。
それでも、IoT社会の進展とともに、エネルギーハーベスティングが拓く未来への期待は高まっています。私たちの身の回りに存在する利用されていないエネルギーが、新たな価値を生み出す源となる。そんな未来が、すぐそこまできています。
「エネルギーハーベスティング」に関連する富士フイルムの取り扱い製品
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- 試薬-富士フイルム和光純薬
- 富士フイルム和光純薬株式会社は、試験研究用試薬・抗体の製造販売および各種受託サービスを行っています。先端技術の研究から、ライフサイエンス関連、有機合成用や環境測定用試薬まで、幅広い分野で多種多様なニーズに応えています。
- 環境調和型材料 熱電変換材料
記事公開:2024年12月
情報は公開時点のものです