行動科学に基づく心理療法の一つに、「アクセプタンス&コミットメント・セラピー」というものがあります。分かりやすく言うと、「自分の感情を平常心に近くする療法」です。
本番で実力を発揮できないのは、「間違えたらどうしよう」「失敗したらどうしよう」といった不安や恐怖心が高まってしまうからです。人間には個人差があるので、どんな状況でも常に平常心を保って実力を発揮できる人もいますが、そうでない人は、不安定になった感情を平常心に近づける訓練をしなければ、仕事や勉強の成果を上げることは難しくなります。
日常的にできる簡単な訓練の一つとして、私がお勧めしているのは、以下のような方法です。
- 右手首に20本ほどの輪ゴムをはめておく。
- 不安や恐怖を感じたら、輪ゴムを1本外して左手首にはめる。これを1日続ける。
- 1日が終わったら、左手首に輪ゴムが何本はまっているかを数え、毎日記録する。
これは、自分が普段の生活のなかで、どれだけ不安や恐怖を感じているのかを“見える化”するための作業です。
言うまでもなく、左手首にはめかえた輪ゴムの本数が多い人ほど、平常心を保ちにくい心理状態であることが分かります。これを1本ずつでも減らしていくことが、どんな状況でも平常心を保てるような状態にしていく訓練になるのです。
不安や恐怖を感じたら、輪ゴムをはめかえると同時に、仕事や勉強の手をいったん止めて、深呼吸をしたり、好きな音楽をちょっとだけ聴いたりしてみましょう。
一般に不安や恐怖といったマイナスの感情は、それほど長続きはしません。普通なら30秒もあれば消えてしまうものです。深呼吸などのちょっとした気分転換をすれば、よりスムーズに平常心に戻れるはずです。
これを毎日繰り返して、左手首にはめかえた輪ゴムの本数がどれだけ減っていくかを計測します。10本だったものが、5本、3本……と目に見えて減っていくようであれば、しめたものです。
体を鍛えるのと同じように、心の鍛錬も一朝一夕にはできません。本番で平常心を保てるようにするためには、普段からの訓練が不可欠なのです。