「これを買おう!」と人が決める背景とは?
一通り必要な物を誰もが持っている、あるいは必要と思われる物が店に出揃った現代。私たちはより自分の好みに合った物を探して買うようになりました。細分化された消費者の嗜好に合わせて、メーカーは多品種小ロットの生産を求められ、そのため新商品の開発スパンが短くなっています。
ロット商品を考える側にとっては大変な時代です。流行っている物、流行りそうな物を集めるだけであれば比較的容易ですが、次の段階、集めた中から実際に商品化する物を選ぶことは本当に難しい。そんなときはフレームワーク※「購買行動の4要因」が、「人はなぜ買うか」を深く考えるときのヒントになります。
「購買行動の4要因」とは、アメリカの経済学者であるフィリップ・コトラーが提唱した考え方です。コトラーは、人は「文化的要因」「個人的要因」「社会的要因」「心理的要因」の4つに突き動かされて実際に物を買うとしました。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
※ フレームワーク・・・経営戦略や業務改善など、さまざまなビジネス局面において、課題解決や現状分析をするための思考方法。思考の枠組み。
購買行動の4要因
日本人は舶来の品に弱い? 「文化的要因」
文化は人の行動規範。消費者が所属している文化は、広範囲にわたる購買行動に強い影響を与えています。
例えば島国の日本では、人々が「欧米からの輸入品に魅力を感じる」傾向があります。また食に関する関心が高く、中でも「生もの、鮮度が高い食べ物」を喜びます。産地直送という文字だけで唾が出てきませんか?
一段下がってサブカルチャーや、社会階層も文化的要因の一つです。これらは不動のように思えますが、実際はそうではなく、「オタク文化が日の目を見るようになった」「中間層が減って低所得者層が増えた」など変化しています。その変化に新しいチャンスが潜んでいるかもしれません。
管理職であれば高級腕時計の一つや二つ。「社会的要因」
家族、友人、同僚といった人間関係に加えて、その人の社会的役割や地位は、購買行動に影響を与えます。これが「社会的要因」です。
会社勤めをしてある程度偉くなってくると、会社の外で会う相手の地位も上がります。人は見た目が9割とも言われるくらいで、初対面の相手であれば、持っている品の良し悪しも、残念ながら取引の成否と無関係とはいきません(業界にもよりますが)。世の中の社長と言われる人の多くが、高級車に乗り、ゴルフを趣味としていることは無視できない事実です。
人間関係でいえば、例えば家庭を持つ男性は、欲しい物があっても妻や家族の同意がいる場合があります。ならば商品を企画する側が、あらかじめ家族を説得する材料を盛り込めば良いのです。ゲーム機を購入してもらうために、フィットネスのソフトを作った任天堂はその好例でしょう。
子どもができたから車はワゴン「個人的要因」
「年齢とそれにともなうライフステージ」「職業や経済状態」「ライフスタイル」といった個人の持つ属性やこだわりも、物を買うときの決め手に影響します。「個人的要因」は近年、最も変化が激しいところです。
かつてはある程度の歳になったら結婚して、郊外に庭付き一戸建てのマイホームを買い、土日はマイカーでレジャー、が当たり前の時代でした。しかし今はまず結婚する人自体が減っています。ライフスタイルも多様化し、物を持たないミニマリストもいます。
この変化を「若者の○○離れ」とただ突き放すだけか、それとも新しい購買層の出現による新製品の開発機会ととらえるかはあなた次第です。
ブランディング成功者の独壇場「心理的要因」
「心理的要因」とは、製品の機能以外の部分に働く要因です。コトラーは「モチベーション」「知覚」「学習」「信念と態度」の4つがあるとしています。もう少しわかりやすく噛み砕きましょう。
「モチベーション」は気持ちを奮い立たせるため、がんばったご褒美のために買う。「知覚」はデザインが良いから買う。「学習」はネットでイイネされていたから買う。「信念と態度」は自分の経験則から買う、といった具合です。
ここはブランディングに成功したメーカーの独壇場。すでに名のあるメーカーであれば「心理的要因」を積極的に活用するのも手です。
4つの要因のミックス具合を見極める
これら「購買行動の4要因」が複雑に組み合わさって、人は物を買います。商品を開発する際には、「ターゲットがどの要因を強く持つか」というアプローチで考えると、思わぬ回答が見えてくるかもしれません。
また顧客ターゲットを深く分析することで、効果的なキャッチコピーを思い付いたり、従来商品の予想外の水平展開が見えたりする場合もあるでしょう。
さて、本稿の鋭い読者諸氏はすでにお気付きかと思いますが、「購買行動の4要因」それぞれの面から見て、現代は購買行動の大きな変化のただ中にあります。厳しい時代ではありますが、本気で仕事に打ち込みたい人であれば、大変だけれども、やりがいのある時代ではないでしょうか。