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いかに生産性を高めるかが声高に叫ばれる時代。とはいえ、「うちの会社には在宅勤務制度もなければ、BYOD※も認められていないし、ワークスタイルなど変えようがない」と思う方も多いでしょう。
確かに制度の整備は重要です。でもそれだけで仕事は変わりません。一人ひとりが、「もっと余暇の時間を増やしたい」「新しい仕事をするための時間を作りたい」と自発的に思わないと、現状が続くだけです。まずは無理せず、できることから取り組んではいかがでしょうか?
今回は「MECE(ミーシー)」「5W2H」「Pros Cons(プロス・コンス)リスト」という3つの思考術を紹介します。これらはいずれもホワイトカラーが仕事をこなす基礎となる考え方です。まずは原点に立ち返って仕事の進め方を再確認し、パーソナルな働き方改革から実践することをお勧めします。
※ BYOD(Bring Your Own Deviceの略)。従業員が私物の端末を職場に持ち込み、業務で使用することを指す。
モレとダブりをなくす「MECE(ミーシー)」な思考回路
MECEは「Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive」の頭文字をとった言葉。直訳すると「相互に排他的で、共に網羅的」、分かりやすくいうと「モレがなく、ダブりがない」という意味になります。物事を分類し、整理するための基本となる考え方です。
下の図では、海外でも人気が高まっている日本酒の分類を例にしました。日本酒は「甘口」と「辛口」で分けられることが多いものの、多くの酒をたった2通りで正確に分類するのは少々強引です。
ここでは、後味の残り具合である「キレ」、そして「香り」といった大事な要素が、「甘口・辛口」の評価尺度からモレています。それに日本酒のラベルを見て、日本酒度※がプラスだから辛口、マイナスだから甘口とすると、±ゼロに近い場合は甘口・辛口の分類の効果が薄れます。
ではモレやダブりのないMECEな分類をするにはどうすれば良いか? 答えは「できるだけ客観的な事実で分類する」です。日本酒でいえば、「どこの蔵が製造したのか?」「どこの県の酒か?」、あるいは「吟醸か、大吟醸か?」といった具合になります。MECEな視点で日本酒を考えると、ビジネスパートナーなどに贈る際は、どうしても主観的な問題がつきまとう味の好みより、より客観的な事実から判断し、その人の出身地の蔵のものを選ぶ方が良さそうです。
モレやダブりがある分類をしてしまうと、再分類の必要がありますし、下手をするとデータを取り直す必要すら出ます。二度手間は作業効率だけでなく、モチベーションまで下げますから、MECEな思考を常に心掛けたいものです。
※ 日本酒度…日本酒と水の比重の単位。酒の比重が水より重いとマイナス(甘口)、軽いとプラス(辛口)になる。重さは日本酒に含まれる糖分が関係しているものの、味は糖分だけでは決まらないので、日本酒度だけで味を評価する「甘口」「辛口」は、厳密な味の評価をする際には適さない。
用件を正確に整理する「5W2H」
仕事の状況を端的に把握したいときや、相手に仕事を依頼するときに、「5W1H」が大切であるとしばしばいわれます。これは、上司から耳にタコができるほど聞いた、あるいは新人に口を酸っぱくして教えた経験を多くの人が持っているはず。そこにもうひとつ「How much」、つまりコストの概念を加えるのが「5W2H」です。
コスト意識の重要性をいまさら語るつもりはありませんが、はたしてあなたは人に仕事を頼む場合、「How much」を正確に伝えているでしょうか? 「長年の付き合いで言わなくても金額は分かっているはず」、「『なるべく早く』とだけ納期を伝え、成り行きに任せたいので金額は言わない」。かつてはそれで済んでいたかもしれませんが、皆で働き方を見直そうという機運が高まっている現代では、曖昧な頼み方は相手に対して不誠実と捉えられるようになってしまいます。お互いが幸せに働くためにもうひとつの「H」を大切にしてください。
良い面と悪い面の両方を考慮する「Pros Cons(プロス・コンス)リスト」
メリットとデメリットが表裏一体であることはどんな場でも変わりません。ビジネスでも、たとえばあるプロジェクトをどのように進めるべきか悩み、いくつかある選択肢のうちどれが適切かの判断に迷ったら、Pros(良い点)とCons(悪い点)を下図のようなリストにまとめてみましょう。
リストの作成は、複数人で取り掛かり、できるだけ多くの視点を入れると精度が増します。良い点と悪い点が出尽くすまでブレインストーミングをするのがコツです。ホワイトボードを前に、大きく図取りをしてください。
リストが完成したら、その結果得られるかもしれない最大利益(アップサイドリスク)と最大損失(ダウンサイドリスク)をピックアップすることが重要になります。そうして自社が取ることができるリスク許容量を鑑みながら、最終決定を下します。