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図解で思考整理

ビジネスマンが抱える悩みを、「図」にすることで解決します。

vol.36 事業改善しているはずが空回り……。
そんなとき使いたいフレームワークとは?

「とりあえず、全体的に改善しよう」
それって本当に効果的?

会社の各部門が目標を設定して定期的な改善報告を行い、努力を続けているのにもかかわらず、会社の業績がいっこうに上向かない……。このような状況に心当たりのある方も多いのではないでしょうか。そういったケースは実のところ、さまざまなビジネスシーンで頻繁に起こっています。

しかしなぜ、そのような事態が起きてしまうのでしょうか。
その答えとなる一つのキーワードに、「TOC」なる生産管理のフレームワークがあります。TOCとは「Theory of Constraints」のことで、「制約条件の理論」という意味です。

この制約条件とは「ボトルネック」ともいい、「全体に影響を及ぼすレベルの問題要因」を指しています。ビジネスにおける、原材料の段階から、商品やサービスが消費者に届くまでの一連の流れ(サプライチェーン)のなかで、業務の進行を制限してしまう要素が、制約条件です。

TOCを考案したのは、イスラエルの物理学者であるエリヤフ・ゴールドラット博士です。自ら生産スケジュールソフトの販売を手がけた人物で、いわば生産管理のプロフェッショナル。『ザ・ゴール』というビジネス小説でその考え方をまとめています。この小説は、日本でも約100万部のヒットを記録しました。

この理論が主眼をおいているのが、工場の生産スケジューリングが生産能力の最も低い工程、つまりボトルネック(制約条件)に合っているということ。よって、ボトルネックとなっている部分を特定して改善することが重要であり、そうすればプロセス全体のアウトプットの改善につながる、としているのです。それ以外の改善は、時間や経費のロスにつながる、とさえ説いています。つまり、従来のQC活動のような総花的な改善を目指すより、制約条件に対して優先的、重点的に改善に取り組む活動こそが効果的だと指摘しているのです。

この考え方は、着想元であるサプライチェーンの改善だけではなく、さまざまなビジネスプロセスに応用できます。

※フレームワークとは、経営戦略や業務改善など、さまざまなビジネス局面において、課題解決や現状分析をするための思考方法。思考の枠組み。

ボトルネックが見つかったら?
TOCによる5段階の改善ステップとは。

TOCでは、ビジネスプロセスにおける制約条件に注目し、以下の5段階で改善を目指します。

【STEP 1】 ボトルネック(制約条件)を見つける
ビジネスの各プロセスにおけるアウトプットを数値化するなどして、最も数値の低いプロセスを特定する。
【STEP 2】 ボトルネックを徹底活用する
まず、特定したボトルネックが現在有する能力をフル活用できるようにする。例えば、ボトルネックのプロセスが「顧客情報のデータベース化」だった場合、その部門にはその業務だけに集中させ、その他の業務から解放する。
【STEP 3】 ボトルネック以外をボトルネックに従わせる
ボトルネックの活用を図るために、他のプロセスをボトルネックに従わせる。例えば、ボトルネックのプロセスが業務に集中できるように、派生するその他の業務をボトルネック以外のプロセスが引き受ける。
【STEP 4】 ボトルネックを強化する
ボトルネックをフルに活用した段階で、ボトルネックの上限能力に対して改善を図る。例えば、ボトルネックの業務を担当する人員を増強する、研修によってスキルアップを図るなど。
【STEP 5】 最初のステップに戻って繰り返す
ボトルネックを改善できたとしても、他のプロセスがボトルネックになるケースも想定される。惰性に注意して、ステップの最初に戻って改善を繰り返す。
ある生産ラインにおけるボトルネック解決の具体例

ボトルネックは悪じゃない。
活用による改善を目指す!

TOCは、ビジネスプロセスにおける部門間のつながりと、各プロセス内の能力のばらつきを前提としており、そこにあるボトルネックに注目した理論です。そして、TOCは、資材費などの変動費用を売上から除いた利益(スループット)を最大化することを目的として提唱されました。

この理論を理解し、実行することによって、「組織全体が努力しているにもかかわらず成果が伸びない」「業務改善を目指した結果さまざまな工程を切り詰め、ビジネス全体が漠然と苦しくなっていく」といった状況の予防、改善が可能になります。

一見、ボトルネックを見つけて改善するというのは、当たり前のことのように感じられるかもしれません。しかし実際は、日々の業務のなかで目に付く課題と根本的な問題は、別のところにあるということは多々あります。客観的なボトルネックの分析は、有効といえるでしょう。

さらに、ボトルネックを見つけていてもやってしまいがちなのは、ボトルネックとなる工程や部門を目先の利益のために縮小したり、なくしてしまったりするケースです。ボトルネックとなっている工程は、上手に活用すればビジネス全体を最適な形に導く可能性を秘めています。

まずボトルネックを正確に把握できるかどうか、そして徹底的にそれを活用する方法を考えられるかどうかに、改善の成否がかかっているといえるでしょう。

PROFILE

永田 豊志
永田 豊志ながた・とよし
知的生産研究家、ショーケース代表取締役社長。九州大学卒。リクルートで新規事業開発を担当。その後、出版社や版権管理会社などを経て、ショーケース・ティービー(現ショーケース)を共同設立。図解思考、フレームワーク分析などビジネスパーソンの知的生産性研究にも取り組んでおり、国内外での執筆活動や講演でそのノウハウ普及を行う。

記事公開:2021年5月