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What's this?

サッカーコート4面に
わずか1ℓの水を、均一に撒けますか?

ペットボトルからこぼれた水が、鏡のように美しい水面となって
サッカーコート4面を覆いつくす。
荒唐無稽なフィクションのようですが、ミクロの世界でそれを実現しているのが
富士フイルムのナノ・コーティング技術です。
この技術を用いて開発されたコンピューター用磁気テープは
今、大容量かつ安全・低コストな記録媒体として大きな注目を集めています。

データ記録媒体として世界中で求められ、
進化を続ける磁気テープ。

IT社会の発展に伴い、データの記録用媒体も今日までに大きな進歩を遂げてきました。そのひとつが「磁気テープ」です。
磁気テープの需要はこの数年、世界全体で堅調に伸びています。理由は、ハードディスクなどと比べて製品寿命が圧倒的に長いこと。また、運びやすく保管しやすいうえ、ドライブにセットしないかぎりネットワークに接続しないので、災害やシステム障害などでデータが失われるリスクが低いこと。そして、記録可能なデータ量が大きいわりにコストが安いことです。大量のデータを長期間にわたり、安全に、安く保存できることから、重要データを扱う企業や研究所、行政機関などで欠かせない存在になっているのです。
そんな磁気テープのイノベーションをリードし続けてきたのが、世界トップシェアを持つ富士フイルム。もっともっと多くのデータを記録したいという社会のニーズに合わせて、技術革新を重ね、テープの大容量化や長寿命化を着実に進めてきました。
ところで、磁気テープにデータを記録しているのは、テープ表面に碁盤の石のように敷き詰められた極小の磁石(磁性体)。その一つひとつに電気信号を送って、S極とN極の配列を変えることで記録を行っています。従って、この磁性体が一定の面積の中にたくさん並んでいればいるほど、記録できるデータ量は増えます。さらに、テープを薄くすればするほどカートリッジに収納できるテープの長さが伸び、一巻あたりのデータ容量は大きくなります。つまり、磁性体を小さくすることと、テープを薄くすることが、磁気テープの記録性能アップを実現するのです。

■TAPE STORAGE.net
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最大記録容量15.0TB(非圧縮時6.0TB)、高速転送750MB/秒(非圧縮時300MB/秒)を実現した「FUJIFILM LTO Ultrium7データカートリッジ」。

加工技術は、マイクロ、そしてナノの世界へ
「NANOCUBIC 技術」の誕生。

とはいえ、それは簡単なことではありません。まず、磁性体を極小の微粒子へと正確に加工する必要があります。続いて、その微粒子をテープのベースの上に均一に並べなければなりません。同時に、並べた微粒子が互いにくっついたりしないよう定着させる必要があります。しかも、その仕上がりはミクロンオーダー以下の超薄層でなければなりません。複数の高度な技術を絶妙に組み合わせなければ、優れた記録性能を持つ磁気テープにはならないのです。
1992年、富士フイルムでは、磁性体の微粒子を含む液体材料を0.1〜0.5ミクロンという極薄層でベース上に塗布・乾燥させる「ATOMM技術」を開発。この技術は長らく、磁気テープ業界におけるスタンダードとなっていました。しかし、コンピューターやインターネットの普及と進歩に伴って、保存すべきデータ量が加速度的に増え続ける中、磁性体を含む磁性層をナノレベルにまで薄くして、さらに記憶容量を高める必要に迫られるようになりました。それを実現したのが、現在も活用されている「NANOCUBIC技術」です。
NANOCUBIC技術は3つの技術が組み合わさってできています。ひとつはナノ・コーティング技術。磁性層をナノオーダーの薄さにすると、その下の非磁性層との境目が不ぞろいな場合にノイズが生じてしまいますが、富士フイルムは膜厚を制御して層の間をきれいに分離する技術を開発し、この問題をクリア。これにより、ATOMM技術に比べて厚さ約1/2〜1/4、例えるならサッカーコート4面に1リットルの水を均一に流したほどの超薄層磁性層が誕生しました。
次が、磁性体の材料を砕き、ナノオーダーの超微粒子を作り出す、ナノ・パーティクル技術です。既存の磁性体材料はメタル(コバルト鉄)なので、微粒子一つひとつを酸化保護膜でコーティングする必要があります。さびると磁力が弱まり、データ記録能力が低下するからです。粒子が小さくなるほど酸化保護膜は薄くなり、さびやすくなるので、サイズダウンには物理的に限界があります。そこで富士フイルムでは、新たな磁性体の開発に乗り出しました。それが、バリウムフェライト(以下、BaFe)です。BaFeはメタル磁性体よりも粒子が小さいうえ、もともと酸化している物質なので、酸化保護膜なしでも磁力を失うことはありません。しかし、粒子同士が非常にくっつきやすく、均一に分散させるのが困難という大きな問題がありました。これを解決したのが3つ目の技術、ナノ・ディスパージョン技術。磁性体の超微粒子のひと粒ひと粒に、特別に開発した化合物(特殊高分子バインダー)をまとわせることで、くっつき防止に成功。その結果、大容量で劣化しにくく、長期保存に最適な磁気テープが完成しました。

■NANOCUBIC技術によるメディアの層構成

フィルムメーカーとして蓄積されたノウハウが
可能性を広げるカギとなった。

NANOCUBIC技術を支えているのは、実は、写真フィルムの技術です。
ナノ・コーティング技術の基盤には、フィルムの製造で培われてきた多層塗布技術がありますし、特殊高分子バインダーを可能にしたのは、フィルム材料の合成で鍛えられた有機合成技術です。フィルムメーカーとして蓄積してきた多彩な技術の総合力が、異分野である磁気テープの技術革新に大いに貢献してくれたのです。
2005年に開発した新素材BaFeの磁気テープは、それまでの常識と技術的限界を打ち破った画期的なデータ保存性能の高さで、IBMをはじめとする主要システムメーカーに受け入れられました。その後も進化を続けて記録容量や製品寿命を高め、ビッグデータ時代に世界中の企業や組織のデータ活用を支える欠かせない存在となっています。

従来の10分の1の磁性層厚で、10倍以上の記録密度を実現した「NANOCUBIC技術」。
BaFe磁気テープは、平成23年に富士フイルムが世界で初めて実用化させた。

【取材協力/記録メディア事業部 江尻 清美 立川 篤】

記事公開:2016年12月