畳んでポケットに入るタブレットやボール型のディスプレイで操作するデバイス。
そんな斬新な形や機能を実現するかもしれない技術として注目されているのが、
タッチパネル用薄型両面センサーフィルム「エクスクリア」。
柔軟性に優れたディスプレイを可能にする画期的な技術が、
富士フイルムのラボから生まれたのはなぜか?
その誕生の秘密は、銀のメッシュにありました。
What's this?
目に見えない銀のメッシュが開く、
新しいデバイスの扉。
さらに大きく、より柔軟に、
というニーズに応える「エクスクリア」。
サイズの小さいことがクールでスマートだと評価された時代は、情報デバイスのディスプレイにおいては終わりを告げたのかもしれません。いまやトレンドは小から大へ。スマートフォン画面の大型化やタブレットの需要拡大、さらにノートPCや大型サイズ(11~24インチ程度)のオールインワンPCにもタッチパネルの導入が進んでいます。指で操作するなら、画面は大きい方が使いやすいということもあるでしょう。というわけで、タッチパネル市場における中・大型サイズの構成比は、上昇し続けています。その一方で、IoTの浸透が進み、体に装着するウエアラブルデバイスや自動車や家電製品にタッチパネルを組み込むために、本記事冒頭のイメージ画像でご覧いただいたようなディスプレイの曲面化※や3D成形に対するニーズは高まってきました。しかし、既存のタッチパネルの製造技術では、大型化や屈曲性付与のニーズに応えられないという問題があります。そこで脚光を浴びているのが今回の主役「エクスクリア」です。富士フイルムが写真フィルムの開発・製造で培ってきたコア技術から生まれた高機能材料が、いかにしてセンサーフィルムの常識を打ち破ったのか。その画期的な技術についてお話しします。
※ 本記事冒頭のディスプレイ画像は、はめ込みによるイメージです。
従来型のタッチパネルは、
さまざまな弱点が指摘されている。
実用化されているタッチパネルセンサーには、さまざまな技術方式があり、今主流になっているのは「静電容量方式」と呼ばれているものです。その仕組みとは、人の指や専用のペンがタッチパネル表面と接触して起こる電気容量の変化を検知し、その位置情報を機器内部のIC(集積回路)に伝える、というもの。複数のタッチポイントを認識できるため、スマートフォンの操作でおなじみの拡大・縮小などのマルチタッチ操作が可能になりました。しかし、静電容量方式のパネルには大きな弱点も。基材として、無色透明で電気を通すITO(Indium Tin Oxide:酸化インジウムスズ)という無機化合物が使われていますが、希少金属のため高価で安定供給が難しく、そのうえ脆弱で折り曲げ時に断線しやすいのです。また、透明性は優れていますが電気が通りにくいため、10インチを超える大画面のタッチパネルになると、電気の変化に対する応答性が悪くなってしまいます。さらに、ITOはインジウム化合物として特定化学物質に指定されているため、環境への影響も懸念されます。「エクスクリア」は、ITOの代わりに銀を使うことで、これらの問題をクリアしました。もうおわかりですね。銀といえば、富士フイルムが得意とする銀塩写真に関わる技術。デジタル化する前のカメラで使っていた写真用フィルムのコア技術のことです。
■ スマートフォンのタッチパネルの構造
独創的で社会に貢献する技術として
業界団体の栄誉ある賞に輝く。
「エクスクリア」は、PET(ポリエチレン)フィルムの両面に格子や波線など、形や太さを自由に変えられる銀のメッシュ状パターンを形成したもの。電気を通しやすい低抵抗でありながら、高い透明性と屈曲性をもつタッチパネル用センサーフィルムとして開発されました。ここに活用されているのが、写真フィルムの開発で培ってきた銀の微細粒子の分散、塗布、現像制御といった富士フイルムのコア技術です。長年にわたって写真フィルムの技術を研鑽してきた富士フイルムだからこそ、ITOの弱点を微細な銀のメッシュで克服し、「エクスクリア」の開発に成功したというわけです。
「エクスクリア」は、ITOを用いたタッチパネル用センサーフィルムよりも導電性と透明性に優れ、生産工程を簡素化する画期的な技術として、日本化学工業協会より2016年の「第48回日化協技術賞 技術特別賞」を受賞しました。あらゆるものがデバイスになり、ネットワークに繋がるIoTが浸透するなかで、タッチパネルの薄型化、高画質化、フレキシブル化、応答速度を高めるための低抵抗化といった市場ニーズを満たしていることが評価されたのです。既に複数のメーカーに採用され、10インチ以上の大型タッチパネルセンサーを支える技術として期待されている「エクスクリア」。今後は柔らかさを活かして、新しい形のウエアラブル端末や折り畳み型のデバイスなど、さまざまな用途に応用されていくでしょう。自動車のダッシュボードがタッチパネルになったり、オフィスの壁やデスクを大画面のタッチパネルとして使ったりすることも可能になります。タッチパネルを形や大きさの制約から解放したことにより、日常生活やワークスタイルを革新する新たなプロダクトを創造できるかもしれません。フレキシブルな高機能素材から生まれる、柔らかで、しなやかな発想にご期待ください。
■ 「エクスクリア」の導電性メッシュ
記事公開:2017年5月
情報は公開時点のものです