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What's this?

あなたの細胞を使って
膝の軟骨、培養します。

「培養」と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、微生物? あるいは植物? 実はもう、人間のカラダも培養できる時代になっているのです。
富士フイルムグループが培養に成功したのが、膝の軟骨。患者さんの膝からほんの少しの軟骨を取り出して、特殊な環境で育て上げること約1カ月。
驚くことに、細胞が立派な培養軟骨へと成長!
今回の「What’s this?」では想像を超えた再生医療の最前線に迫ります。

2012年、世界初の再生医療技術
三次元培養した「自家培養軟骨」の実用化に成功。

自家培養軟骨

医療技術が発達した21世紀ですが、現状の治療法や医薬品では完治が難しい疾病は数多くあります。こうした中、難病に苦しむ患者さんに福音をもたらす次世代の医療として注目され始めたのが、「再生医療」です。簡単に言うと、生体の外で人工的に再生した組織や臓器を移植することで損傷した機能を回復させる医療のこと。その可能性にいち早く気がつき、積極的な研究開発を行ってきたのが、富士フイルムグループのジャパン・ティッシュ・エンジニアリング。スポーツや事故で損傷した膝軟骨の病気、「外傷性軟骨欠損症」と「離断性骨軟骨炎」の治療を目的とした「自家培養軟骨」の実用化も、こうした再生医療への挑戦の成果の一つです。

少量の細胞を取り出し、
人工的に軟骨を培養する。

「痛い!」思わず手を切った時に、傷口から流れる血。実は血液には、傷口を治すための細胞や、細胞を増やす栄養などが含まれており、出血自体が治癒行為にもなっています。ところが軟骨組織には血管が通っていないため、一度損傷を受けると自然に治ることはありません。そのため軟骨を損傷した場合は、「周囲の筋肉を強化する」「モザイクプラスティという手術で他の部位の軟骨を移植する」、あるいは「人工関節を使用する」など、損なった部分を外部から補うという観点での治療が行われてきました。もちろんいずれも確立された治療法ですが、完璧ではなくそれぞれ弱点があります。例えば、モザイクプラスティであれば、他の部位の軟骨を欠損するため、大きなサイズに対応することはできません。また、人工関節であれば、金属アレルギーなどのリスクを想定しなければなりません。こうした課題をクリアできる治療法が、富士フイルムグループの「自家培養軟骨」なのです。まずは患者さんの膝から少量の軟骨を取り出します。次に製造施設で培養、つまり細胞を増やして患部に移植するのです。これなら他の部位の軟骨を傷つけることもなく、患者さん自身の細胞ですので拒絶反応もありません。
自家培養軟骨の特長は、大きく二つあります。一つ目は「軟骨が立体的であること」。実は、これまでにも再生医療技術として自家培養軟骨は開発されており、海外では治療法として承認を受けていました。しかし、これらは軟骨と言っても注射器で患部に注入する液体状のもの。そのために患部から漏れ出してしまうというリスクがありました。一方、富士フイルムグループの自家培養軟骨は、はじめに軟骨の元となる細胞を、「アテロコラーゲン」というゲルに埋めて立体的に成形したのち、約4週間かけて培養していきます。そして、移植の際はコラーゲン膜で蓋をすることで、しっかりと患部にフィットさせることができるのです。二つ目のポイントが、「原材料である患者さんの細胞の個人差に依存せず、すべての自家培養軟骨を、一定レベルの品質に保つ」ということ。例えば若者とお年寄りの細胞では、当然ながら細胞の活きも増え方も違いますが、これを放置していては医療サービスとして一定の質を保てません。そこで、こうしたばらつきにも対応し、すべての培養軟骨が一定の基準を満たすように製造・品質管理しています。

自家培養軟骨の移植フロー(膝関節) 自家培養軟骨の移植フロー(膝関節)
*広島大学 越智光夫教授より技術移転を受けて開発。
整形外科の専門医により、膝の軟骨を関節鏡手術で少量採取。採取した軟骨をアテロコラーゲンと混合し、立体的な形に成型。そして培養軟骨を移植し、コラーゲン膜で蓋をします。

「再生医療」を切り開く原動力になったのは、
長年培った写真フィルム技術。

それにしても富士フイルムが、どうして「再生医療」なのでしょうか? その理由は、創業以来培ってきた写真フィルム技術と深い関係があります。写真フィルムの製造には、薄さ20マイクロメートルの層に100種類もの化合品を適切に配置して化学反応を制御する、というミクロレベルの精密技術が用いられています。また、患者さんから取り出した細胞を軟骨へと育てる肥料のような役目を持つのが、「アテロコラーゲン」というタンパク質ですが、実はこのコラーゲン、写真フィルムの主要な構成要素なのです。つまり写真フィルムの製造で培った精密技術、そしてコラーゲンの加工・制御技術の知見が、軟骨の培養に大きく役立っているのです。
再生医療の研究が本格化したのは、1970年代。他の治療法と比べてまだまだ歴史が浅いですが、それだけ「伸びしろ」を秘めている分野と言えます。大きな可能性を秘めたこの分野の研究を、富士フイルムは積極的に推進しています。現在は細胞培養の技術革新だけでなく、山中伸弥教授のノーベル賞受賞で一躍脚光を浴びたiPS細胞による創薬支援事業などにも着手。これまで新薬検証は、実際の患者さんに投与する臨床試験で行ってきましたが、これをiPS細胞で再生した組織を対象に行うことで、創薬のプロセスを根本から変えられる、と考えています。さらに、iPS細胞の完成度を高めることができれば、人体にそのまま移植できる臓器も再生できるようになるかもしれない……。夢は膨らむばかりです。夢の実現に向けて、クリアすべき課題はいくつもあります。富士フイルムは、こうした課題に真正面から向き合いながら、一つずつ克服していきます。その先に目指すのは、難病に苦しむ多くの患者さんを救える技術・製品を生み出せる「再生医療のリーディングカンパニー」です。

【取材協力/株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング】

記事公開:2017年1月
更新:2019年10月