モノ作りの現場で、人に代わって
組み立て、測定、仕分け、検査など、
さまざまな用途で活躍する産業用機械。
人をはるかに超える精度とスピードを
支えているのは、光学技術の粋を結集した
「マシンビジョン用レンズ」という眼です。
厳しい条件の中で高解像度を実現する
ハイスペックなレンズが、
いかにして生まれたか。
とっておきの開発秘話をお伝えします。
What's this?
変わらない性能と高解像度!
あらゆる生産現場で
迷わず選べる究極のレンズ!
環境や組み合わせる機器に関わらず
高解像性能を発揮できるレンズを
製造現場の生産性向上のため、導入が進む「マシンビジョン」。熟練工の眼に代わって画像を認識し、製品の組み立や検査を行うシステムです。この「マシンビジョン」に搭載されているレンズは、一般的なデジタルカメラ用レンズとは異なる設計思想を持っています。まずは、その違いからご説明しましょう。
デジタルカメラ用レンズは、写真を見る人に「感動を与える描写」を実現するため、「色の再現性」や「ボケ味」といった官能的な表現力に優れた製品を目指して開発を進めます。レンズ自体の性能だけでなく、デザインや手触りの質感、ON/OFF時のクリック音に至るまで、ユーザーにレンズを使う喜びと満足感を覚えてもらえるように、こだわって作り込みます。一方、「マシンビジョン用レンズ」に求められるのは、周辺まで見通せる解像性能とその性能を持続させること。生産ラインで対象物を正確に測定・検査するためのレンズの性能が、撮影条件によって変わってしまっては困りますよね。そのため、そのレンズ開発の難しさは、完成したレンズがさまざまな環境や用途で使われることにあり、レンズメーカーは、カメラや照明、設置環境がどのような組み合わせになっても十分な性能を発揮できるように設計しなければなりません。一般向けのデジタルカメラであれば、レンズとカメラ本体のベストな組み合わせを目標に開発すればよいのですが、「マシンビジョン用レンズ」は、レンズ単体で幅広い状況に対応し、高解像性能に優れたスペックを備える必要があります。そのために富士フイルムが開発した切り札が「4D High Resolution」という独自の高解像性能です。
■「4D High Resolution」性能を持つマシンビジョン用レンズ「HF-12Mシリーズ」
常識を超えた新次元の光学技術により
さまざまな撮影距離で高解像性能を保持
レンズには3つの特性があります。① 画面中心と画面周辺の解像度には差が出るということ(周辺の方が劣る)、② 対象物との距離(ワーキングディスタンス)を変えると解像度に差が出るということ、③ 絞りの値(F値)を変えると解像度に差が出るということ、この3つです。いかなる撮影条件にも耐えうるレンズとはすなわち、この3つの常識を覆すレンズだということです。富士フイルムの開発陣は従来の設計方針(ある決められた距離で最高の解像性能が出せるというレンズ設計)を全面的に見直し、この3つの常識に真っ向から挑みました。その結果生まれたのが「4D High Resolution」という性能です。「4D」とは①タテ・ヨコの2D(画面全域)に、②撮影距離(ワーキングディスタンス)の3Dを加え、更に③レンズの絞り(Diameter)のDを加えたものです。業界の常識に挑むチャレンジ精神に加え、高度なレンズ設計技術、ミクロンレベルでレンズを組み立てる生産技術、無限にあるレンズ材料の組み合わせから最適なものを選ぶマッチング技術など、富士フイルムが誇る先進の光学技術を駆使することで「4D High Resolution」を実現しました。
この究極の性能を体現しているのが「HF-12Mシリーズ」です。撮影距離(ワーキングディスタンス)、絞りの値(F値)が変化しても、画面の周辺部まで高解像性能を維持するというまさに画期的なレンズなのです。さらに富士フイルムは、「4D High Resolution」対応レンズにおいて、レンズの一つひとつにQRコード・シリアルナンバーをつけて全数検査を実施。徹底的な品質管理が、「4D High Resolution」の性能を支えています。
■「HF-12Mシリーズ」と一般的なマシンビジョン用レンズの周辺ボケ比較
小さく、タフに進化するレンズが
モノ作りの現場を革新する
この「4D High Resolution」は、時代の変化に適応しようと自己変革に取り組む製造現場の悩みに寄り添った性能でもあります。
現在モノ作りの現場では、人手不足の解消や生産性の向上をはかるため、自動化の推進が急ピッチで進められています。しかし、現場で自動化を進める生産技術担当者の多くはメカ技術者のため、光学知識を必要とするレンズの評価を正確に行うことは難しく、不適切なレンズが採用されていることが多いのが実情なのです。もし、撮影距離(ワーキングディスタンス)や絞りの値(F値)に関わらず高解像性能を発揮できるレンズがあれば、設備設計時や照明などの機器選択時に自由度が上がり、より最適な生産ラインの構築ができるはずです。
一方、工場内に設置されるレンズはできるだけコンパクトなものが求められています。こうしたニーズに対応すべく、「HF-12Mシリーズ」は5モデル全てでφ33㎜という小型外径サイズを実現しました。万が一、必要な焦点距離が変わっても、レンズ取り換え時の機構変更が必要ありません。
さらに、「HF-12Mシリーズ」では、過酷な設置環境においても高い性能を維持する「耐振動・耐衝撃」も持ち合わせています。激しい振動を受けても、高い解像性能を維持し、かつ最大10G*もの衝撃を受けても画面内の被写体の位置ズレを10µm(0.010mm)以下に抑制するので、今後拡大していくロボットビジョンなどに最適な設計になっています。
製造業の現場を陰で支え、ますます重要性を増していく「マシンビジョン用レンズ」。その進化が、モノ作りの現場を大きく変えているのです。
*機種によって衝撃G適用数値は異なります。
■ 「マシンビジョン用レンズ」に関する情報はこちら
【取材協力/富士フイルム株式会社 光学・電子映像事業部】
記事公開:2018年1月
情報は公開時点のものです