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What's this?

私たちの暮らしを支える
天然ガスをクリーンにする
富士フイルムの技術って?

石油や石炭といった化石燃料と比べ
二酸化炭素や大気汚染物質の排出が少ない
クリーンエネルギーとして、天然ガスに注目が集まっています。
富士フイルムの高機能材料技術がこの天然ガスの精製に大きな役割を
果たしていることをご存じでしたか?

天然ガスと富士フイルムをつなぐ、
一風変わった材料技術とは 

人々の暮らしを支えるエネルギー源には石油、石炭、天然ガスといった化石燃料と、風力や太陽熱などの再生エネルギーがあります。しかし、地球温暖化や大気汚染への対策が求められている現代では、環境負荷の低いエネルギー源への転換が世界的に進められています。こうした流れの中、化石燃料では「天然ガス」が環境負荷の低いクリーンエネルギーとして注目され、その需要を大きく伸ばしています。※1

この天然ガスと富士フイルムにどのような関係があるの? と思われるかもしれません。しかし、これまで写真用カラーフィルムの製造で培ってきた技術や設備は、このまったく異分野にも思える領域にも生かされ、成果を上げ始めているのです。今回はこの天然ガスの分離精製に用いられる「ガス分離膜」という、ちょっと変わった高機能材料の秘密についてご紹介します。

※1 BP Energy Outlook 2019 edition(P79)

ガスを通過させるだけ!
効率的に二酸化炭素を取り除く

そもそも、地中から採掘された天然ガスは、さまざまな不純物を含んでいることが多く、そのままでは良質な燃料や素材として利用することはできません。そのため、ガス田からパイプラインなどを通じて送られた天然ガスは、二酸化炭素などの不純物を取り除き、メタンやエタンといった燃料成分の濃度を高める必要があります。

この取り除くための方法には、いくつかあります。以前から広く用いられているのは、特殊な薬品の中にガスを溶け込ませる「化学吸収」という方法です。一度に大量の処理が可能で、二酸化炭素などの吸収率が高いというメリットもありますが、液体による化学反応を用いるため、採掘するガスの量にかかわらずプラントの設備が大きくなりやすく、薬品の管理やメンテナンスに手間がかかるというウイークポイントがあります。


ガス分離膜

一方、2007年から富士フイルムが取り組んでいるのが「ガス分離膜」という方式です。これは、特殊な高分子ポリマーを数ミクロンという単位で何層にも塗布した「メンブレン(膜)」を用いて二酸化炭素を分離するというもの。膜の表面積を確保するために、ロール状に巻かれたユニットとして製品化しています。筒の片側から天然ガスを送り込むだけで、二酸化炭素だけを取り除ける仕組みです。
この方式の最大のメリットは、必要なガスの量に応じて分離膜のユニットを柔軟に構成でき、大きさや維持費用をコンパクトにしやすい点。比較的小型な施設での利用が広まっており、すでに米国テキサス州などのガスパイプラインの施設で導入されています。現在の市場は北米や南米などのガス産地が中心。将来的には、波の影響を受けて揺れやすい洋上ガス田など、化学吸収の大きなプラントを設置しにくい場所での活用が期待されています。

穴はないのに、二酸化炭素が
抜けていく理由とは?

ここで気になるのは、筒の片側から天然ガスを送り込むだけで二酸化炭素だけを取り除ける仕組みです。実はメタンやエタンといった燃料成分と二酸化炭素のような不純物は、分子のサイズ的にはそれほど変わりません。また、電子顕微鏡で膜の断面を見ても、そこに穴が空いている訳でもありません。

ポイントとなるのは、膜に薄く塗布されている富士フイルム独自のポリマーです。このポリマーは、3次元的な網の目となった分子構造の中に、二酸化炭素だけを透過しやすい性質を持たせてあります。このポリマーの筒の中に天然ガスを通しつつ、圧力の差を発生させると、二酸化炭素だけが膜の反対側に抜けていくのです。

この原理は専門的には「溶解拡散」と呼ばれる現象です。身近な例でいうと、口をきつく縛ったはずのゴム風船が、不良品でもないのに数日経つと萎んでいるのとよく似ています。ミクロのレベルで観察すると、風船の表面に穴があって空気が抜けているというわけではなく、ゴムの成分に溶けた風船の中の気体が、圧力の差によって風船の外側に逃げているのです。アルミを蒸着させた風船は萎みにくいですが、これはアルミには空気中の分子が溶けにくいからなのですね。

膜を介する分圧差によって気体の透過を促し、目的とする気体のみが透過する

ガス分離膜の広がる可能性と
環境問題への貢献

二酸化炭素だけを効率的に取り除く、富士フイルム独自のポリマーを使ったガス分離膜。ここには、物質をミクロン単位でコントロールして作る写真フィルムの要素技術が詰まっています。
写真フィルムは、数ミクロン単位の薄膜を広大な面積で均一に、十数層にも塗布して作られています。ここには材料の分子構造の設計や、高機能材料を3次元的に組み上げる技術が不可欠です。また、「写真がうまく写らない」ということが許されないため、フィルムや膜を大量に無欠陥で生産できる設備や、品質保証や性能評価といった高い水準の検査技術も富士フイルムには備わっています。
こうした技術を余すことなく生かすことで、二酸化炭素を高効率で除去し、良質な天然ガスを精製する高性能なガス分離膜が実現しました。

こうしたガス田の天然ガスを精製するニーズは今後さらに高まるとみられています。さらに、この膜形成技術には、天然ガスから二酸化炭素を分離する以外の用途も期待されています。さまざまな特色を持つポリマーを開発することで、将来的には他の種類のガスを分離する膜を作り、さまざまな工業分野の材料となる良質なガスを精製することも可能になると考えています。富士フイルムでは今後もこうした技術開発で、エネルギー、環境問題をはじめとする社会課題の解決に取り組んでいきます。

【取材協力/富士フイルム株式会社 産業機材事業部】

記事公開:2019年7月
情報は公開時点のものです