私たちの生活は、さまざまな印刷物に彩られています。
書籍やポスター、毎日手にする食品のパッケージ、気軽に着ている
Tシャツ、さらには内外の建材や精密電子部品など、
印刷技術は衣食住のあらゆるものに活用されています。
これからの人々の心をつかみ、暮らしを便利にする新しい印刷とは
どのようなものなのでしょうか?
富士フイルムのインクジェット描画コンポーネント
「Samba JPC」が目指す、印刷の未来を探りました。
What's this?
“金メダリスト以上”の精度で的に命中!
さまざまな素材を自由に彩る、
高解像度インクジェットの世界へようこそ
難易度の高い高解像度インクジェット
プリンター開発をもっと早く・簡単に!
「Samba JPC」は、高解像度のデジタル印刷を求める世界中の企業で使われている富士フイルムのインクジェットデジタル印刷機「Jet Press」で追求した技術を細かくユニット化し、産業用シングルパス・インクジェットプリンターを開発するお客さまにカスタマイズして使っていただけるインクジェット描画コンポーネントです。
「Jet Press」は、従来の「オフセット印刷」や「グラビア印刷」に匹敵する高品質の印刷を、デジタル技術であるインクジェット印刷でより簡単に実現すべく、富士フイルムの技術の粋を集め、試行錯誤しながら開発しました。この技術のノウハウを、世界で高解像度インクジェットプリンターを開発する皆さんにはもっと簡単に、さまざまな用途で利用してもらい、インクジェット技術の可能性を広げたい。そんな思いから開発しました。
印刷技術には、歴史の長いものとして「オフセット印刷」や「グラビア印刷」があります。これらは、版画のように「印刷版」と呼ばれる大きな原本を作り、その上に水とインキを付けて印刷する方式です。一度、印刷版を作れば同じものを大量に印刷できます。
一方「インクジェット印刷」は、印刷版を使用せず、インクを印刷対象に直接吹き付けて描画する技術です。一番のメリットは、デジタルデータを直接プリンターに送って描画するため納期が短縮でき、小ロットの印刷でコストを大きく抑えられること。刻一刻と変わる消費者のニーズに合わせた印刷物を作ることができます。
また、非接触印刷が可能なため、タイルや木材、金属、布地のほか、立体物への描画も可能です。従来の印刷技術のように高い専門技術を要さないため、短期間で運用技術が習得でき、高品質な印刷が可能。そのため印刷会社だけでなく、最終製品メーカー内のパッケージ印刷工程などに組み込むことも期待されています。
印刷の可能性を広げる技術と期待されているインクジェット印刷ですが、以前はほかの印刷と比較すると高解像度の描画品質に課題がありました。
そこで「インクジェットで美しい高解像度印刷を!」という思いから、印刷に必要な「インク」「ヘッド」「画像形成・処理技術」を自社グループで開発・製造できる富士フイルムの強みを生かし開発したのが「Jet Press」でした。その強みを凝縮した「Samba JPC」の技術をご紹介します。
まず、インクを微細なノズルから吐出する「ヘッド」は、美しい描画の鍵を握るメインパーツです。富士フイルムの半導体製造技術を生かし、㎛(1mの100万分の1)単位の微細で高密度のノズル設計を超高精度に実現できるMEMS技術※1など、最先端技術を駆使。その精度は「極小インク粒子を1mm先の直径4㎛の円に正確に着弾させる」というものです。イメージしにくいと思いますが、これはアーチェリーの金メダリストの精度に相当。印刷する素材が例えば一般的な印刷速度の100cm/秒で搬送された場合、アーチェリーなら台風並みの強風の中でその実力を発揮している計算になります。
また、富士フイルムグループには、他社製プリンターを含めた各種ヘッドに合う多様なインクを材料から開発・製造する、インクのスペシャリストがそろっています。ここで得たインクの化学的・物理的データや、インクを操るノウハウが「Samba JPC」に生かされています。さらに、80年以上の歴史を持つ写真技術で培った「画像処理」も描画性能の向上に一役買っています。
高解像度インクジェット印刷機は、数十万ものノズルを持っています。「Samba JPC」のインラインスキャナは、そのノズル一つひとつの描画の状況を画像処理技術で検知。一つのノズルで吐出不良が万一起きた際にも、いち早く周辺ノズルから吐出するインク粒子の大きさを自動で高速制御して修正し、描画品質を担保するのです。
※1 MEMSとは、「微小な電気機械システム」を意味するMicro Electro Mechanical Systemsの略。機械・電子・光・化学など、多様な機能を集積化した微細デバイス全般を指す
「1ラインで2方式の印刷」も容易に!
高い対応力と高画質により世界で活躍
市場投入から1年が経過した「Samba JPC」。その実力はグローバルに認められており、さまざまな企業に導入。ドイツでは国内全体に展開する大手出版社でも活躍中です。
この会社ではグラビア印刷により月間200万部の健康マガジン(フリーペーパー)を発行しています。裏表紙には村や町ごとの数百部単位に異なる薬局やクリニックの広告を掲載したいと考えましたが、印刷版を使うグラビア印刷ではコストに見合いません。そこでグラビア印刷から製本までの生産ライン内に「Samba JPC」を搭載したカスタマイズプリンターを組み込み、グラビア印刷で共通部分を印刷した後、インクジェットで数百部単位ごとに異なる広告をフルカラー印刷し、製本する高速の生産ラインが実現したのです。
グラビア印刷は、多色刷りやグラデーションを美しく表現できるのが特徴ですが、このお客さまからは、このインクジェット印刷がグラビア印刷と並んでも全く遜色のない印刷品質であることを高く評価いただいています。グラビア印刷と性質が全く異なるインクでありながら、用紙を変えずにその品質が得られることが特に喜ばれています。 また、「Samba JPC」の活用によって、想定していた生産ラインの開発期間を大幅に削減できたという評価も得られました。
「Samba JPC」を使って健康マガジンを印刷する様子1200dpiの「Samba JPC」だから可能な世界。
情報だけでなく感動も伝える印刷技術を目指して
「Samba JPC」がこのような事例を可能にした理由は二つあります。
一つ目は、「1200dpi」※2という高い解像度です。現在は高解像度のインクジェット印刷機というとまだ600dpiが主流ですが、1200dpiのインクジェット技術では、自然で滑らかな「写真品質」の画像表現など、より高精細な表現が可能になります。
また、微細な文字や描画表現ができるため、二次元バーコードや約款、薬・化粧品の成分表示などがインクジェットで可能になります。さらに、液晶ディスプレイなどで使う高密度な電子回路形成など、エレクトロニクス分野での活躍も期待されます。
二つ目は、インクジェット印刷ゆえの色の再現性の高さ。基本4色に加えて特色インクを用いることにより色再現域を拡大できるほか、オフセット印刷のように網点と呼ばれる規則的なドットを使用しないため、細やかでシームレスなカラーグラデーションなどの高度な色表現ができます。
「Samba JPC」では、この二つが合わさることにより、複雑なカラーや文字・描画表現をより高精細に、スピーディーに提供できるのです。
いま、消費者の趣味嗜好がより細分化される中で、一人ひとりに合わせて描画内容を細かく変える「バリアブル」な印刷がより求められる時代がきています。みんなと同じものではなく、自分が本当に価値を感じるもの、大切に残しておきたいものを求める人が増えているのです。その中で、さまざまな素材に速く手軽に、小ロットで印刷できるインクジェットプリンターの可能性はますます広がっています。
また、同じ製品でありながら、顧客一人ひとりに個別のデザイン、個別の二次元バーコードを印刷するようなプロモーションも手軽に実現できます。
ほかにも、イベント終了後にステージの様子を印刷したグッズを販売する、オリンピックの試合の翌日に、金メダルを取った選手の顔が印刷された飲料がコンビニエンスストアに並ぶ、といったことも、もはや不可能ではありません。
印刷は情報だけでなく、感動を伝える技術といえるかもしれません。インクジェットプリンターが創る未来で、たくさんの人の気持ちや暮らしを豊かなものにしたい。そのためにこれからも富士フイルムは技術革新を続けます。
※2 dpiは1インチの幅にどれだけの点(ドット)を表現できるかを表した単位
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【取材協力/富士フイルム株式会社 インクジェット事業部】
記事公開:2021年2月
情報は公開時点のものです