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What's this?

移植細胞が巣立つその日まで、
しっかり育む、人工タンパク質。

再生医療の発展にプラスになると期待されているバイオ素材があります。
それが、富士フイルムが2014年に発売した細胞外マトリックス「cellnest」。
ゼノフリータイプのヒトに優しいバイオ素材です。
…と言っても専門家以外の方にとってはちんぷんかんぷんな言葉ばかり。
そこで今回のWhat's thisでは、画期的な製品cellnestにまつわる言葉を解読しながら、
その価値をお伝えしていきます。

細胞を外から調節する重要物質、
「細胞外マトリックス」。

「細胞外マトリックス」。なんだか映画のタイトルのようですが、まずはこれを「細胞外+マトリックス」に分けて説明しましょう。ヒトの体は約60兆個の細胞によってできています。しかし、細胞同士が満員電車のようにすし詰めにくっついているわけではありません。細胞と細胞の間、つまり細胞の外はタンパク質やコラーゲンといった物質で満たされているのです。また、どこかで聞いたことのある「マトリックス」のそもそもの語源は、ラテン語で「子宮」を意味する言葉。そこから、現在では「何かを生み出す母体」という意味で用いられています。

移植した細胞がすくすく育つ、
安心・安全の巣「cellnest」。

細胞外マトリックスの機能が注目されている分野の一つが、再生医療です。再生医療とは、損傷した臓器や組織を再生し機能を回復させる医療のこと。細胞治療や組織移植は再生医療の中でもとりわけ有望な技術と考えられ、これまでに細胞を人工的に培養する方法はさまざま確立されてきました。しかしながら、培養した細胞を生体に移植するには、2つの大きな課題がありました。1つ目は、移植した細胞を効果的に生着させるのが難しかったこと。そして2つ目は、移植後の細胞に栄養や酸素を供給し、老廃物を排泄させるのが困難であったことです。とりわけ厚さ400㎛を超える細胞集合体は供給と排泄が困難で、血管が細胞内にたどり着く前に細胞が死んでしまうのです。
こうした課題をクリアできると期待されているのが、富士フイルムが開発した細胞外マトリックス試験薬「cellnest」です。ここで再び言葉の分解。「cellnest」とは、「cell=細胞」+「nest=巣」の造語。そう、「cellnest」は移植細胞が元気に巣立つ、つまりは生体で生育・増殖する上で最高の「巣」となりうる細胞外マトリックスなのです。

「cellnest」の正体は、リコンビナントペプチド(以下、RCP)と呼ばれる、人工的に作られたタンパク質です。RCPには細胞表面にくっつきやすいアミノ酸が多く含まれているため、移植する細胞もぴったりと生着することができます。これにより1つ目の課題が解決となります。また、栄養・酸素の供給と老廃物の排泄について、顆粒状に加工したRCPと細胞を組み合わせることで「供給物と排泄物の通り道」を持った細胞構造体「CellSaic:セルザイク」を作ることができます。その結果、2つ目の課題が解決され、移植した細胞の生存率は大幅に高まりました。セルザイク(CellSaic)とは「Cell and Scaffold, forming Mosaic」から作られた造語です。

「cellnest」の詳しい情報はこちら

ヒトI型コラーゲン様リコンビナントペプチド「cellnest」

ヒトに優しいゼノフリー、
動物由来の病原体は、ゼロ。

そして、RCPの特長の一つが、「ゼノフリー:xeno-free」であることです。「xeno」とは外国人や異種という意味を表す接頭語。それに「free=とらわれない」ということ。つまりゼノフリーとは、異種由来でない物質ということです。ヒトコラーゲンの遺伝子を酵母細胞に組み込み、この酵母を用いて培養することで作製されており、動物由来の成分を一切含んでいませんので、狂牛病の原因となるプリオンなどが含まれる心配はありません。
そのほかにも、RCPには「分解酵素が作用しやすい配列のため生体内で容易に分解吸収される」、「取り扱いが容易でスポンジや顆粒、穴ぼこがいくつもある多孔質粒子などさまざまな形状に加工できる」、といった特長があります。現在「cellnest」は、専門機関と連携しながら、用途についてさらなる検討を重ねている段階です。将来、皆さんのお役に立てることを信じ、研究を進めています。

■ 加工がしやすいリコンビナントペプチド

さまざまな形態(例:スポンジ、顆粒、フィルム 他)に加工可能なのもリコンビナントペプチドの特長です。

非動物由来の物質の研究は、
写真フィルムの品質向上が発端。

RCPの開発のきっかけは銀塩写真用フィルムの品質向上のための研究でした。当時感光層の主原料であるゼラチンは動物由来の原料だったために品質にばらつきがあり、写真フィルムの品質にも影響を与えかねませんでした。これを解決するために、富士フイルムは均質なRCPの開発に取り組んだのです。そこで培ったノウハウを写真フィルムから医療分野に応用し、その集大成として世に出たのが、「cellnest」なのです。
均質なタンパク質という希少価値の高い素材は、再生医療の現場だけでなく、化粧品や食品業界など、幅広い分野への応用を期待しています。これからもオンリーワンの技術をさらに磨き、幅広い領域の産業の発展に貢献していきます。

富士フイルムが取り組む再生医療に関する詳しい情報はこちら

【取材協力/富士フイルム株式会社 再生医療事業部 鈴木峰彦・大屋章二】

記事公開:2017年4月
情報は公開時点のものです